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【インタビュー】『Ghost of Tsushima』黒澤明から受けた影響を開発者が徹底解説「『七人の侍』を観ておいて」

Ghost of Tsushima
©Sony Interactive Entertainment LLC.

PlayStation®4用ソフトウェア『Ghost of Tsushima』が2020年7月19日に発売されて以降、世界中で話題沸騰中だ本作は鎌倉時代に起きた蒙古襲来を題材に、境井 仁(さかい じん)が武士の道に反した冥人(くろうど)として、対馬を敵の手から解き放つ為、決死の戦いに挑む姿を描くオープンワールド時代劇アクションアドベンチャーである。

この度、THE RIVERは本作を手掛けた制作会社「Sucker Punch Productions」に務める、ネイト・フォックス(クリエイティブ・ディレクター)とジェイソン・コーネル(アート/クリエイティブ・ディレクターに単独インタビューする機会に恵まれた世界の巨匠・黒澤明監督が手掛けた作品はどのように物語・登場人物・色彩に影響を与えたのか、没入感を最大限に高める為の要素とは一体何だったのか、日本刀と西洋の剣の違いは果たして……?

Ghost of Tsushima(インタビュー加工写真)
左はネイト・フォックス氏、右はジェイソン・コーネル氏

『七人の侍』に触発された物語

Ghost of Tsushima
©Sony Interactive Entertainment LLC.

──『Ghost of Tsushima』圧倒的な物語や息を呑むような映像美に魅了されました。引き続き楽しませて頂きます。

ネイト&ジェイソン:ありがとうございます。

──初めに日本の時代劇を題材にした理由を教えてください。

ネイト・フォックス:侍に扮して、オープンワールドの中世日本を自由に旅したいと考えている人が大勢いると信じていたからです。『七人の侍』(1954)『用心棒』(1961)などの名作時代劇を通して侍という存在を初めて知った人も多いでしょう。なので、そういう作品のレンズを通して、ゲームを開発することは非常に理に適っていると感じました。

──日本には、戦国時代など様々な背景がある中で、鎌倉時代の蒙古襲来を選択した理由は何故でしょうか?

ネイト:中世日本で侍になれる作品を制作したいと考え始めた時、最初に歴史について調べることにしました。そこで、1274年の蒙古襲来に辿り着いたんです。この時代背景を題材にしたことで、主人公が新たな武士として生まれ変わるため、武士の道に反した冥人になることを決意するという、劇的な物語を実現させられたんです。外国からの侵略は失いかねないものが非常に多く、戦場の詳細な様子も(歴史から)伺えたので、壮大な侍の物語を描くことが出来ました。ただし、あくまでもフィクションとして再構成されています。

──『七人の侍』を彷彿とさせられる物語でした。実際のところ、そこから着想を得られたのでしょうか?

ジェイソン・コーネル:間違いなく影響を受けていますね。非常に力強い物語ですし、実際に本作で描かれる物語にも幾つかの共通点があります。ただ、『七人の侍』に限らず、その他の様々な侍映画からも着想を得ています。例えば、『十三人の刺客』の戦闘場面ですね。侍たちが屋上から華麗に飛び降りる場面や、映画後半での壮大な戦闘シーンは本作の登場人物たちの戦い方にも反映されています。黒澤明作品だけでなく、様々な素晴らしい時代劇、侍映画全般から影響を受けました。

Ghost of Tsushima
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──主人公の叔父の名前が志村ですよね。黒澤明作品に欠かせない名優・志村喬さんから名付けられたのでしょうか?

ネイト:まさに彼から着想を得たと言っても良いでしょう。『七人の侍』で志村喬さんが演じた島田勘兵衛は、野武士と戦う侍たちから信頼され、実際に指揮する人物でもあったので。

──本作の登場人物は衣装こそ平凡でしたが、内面は非常に独創的で魅力的でした。これも『七人の侍』をはじめ黒澤明作品ではお馴染みの要素の一つだと思いますが、本作では一体どのような意図があったのでしょうか?

ネイト:私たちはその時代における説得力を確立することに尽力しました。一部の百姓が着ていた服装は粗雑なものだったと思います。服装は彼らの立場を表すものでもあるので。あまり極端に誇張し過ぎないようにしながら、その時代に生きる人々を作品に合わせ、描くようにしました。

──その他、影響を受けた黒澤明作品はありますか?

ジェイソン:本作を開発することになった時、黒澤明作品を研究することになり、心から楽しみ、気に入った作品が幾つかありました。その中で毎回印象的だったのが、──黒澤明作品以外にも多いのですが──田舎町を一人の男が歩いている姿をワイドショットで捉えた場面から始まることです。作品の世界に観る者を引き込むような状況設定のショットに感銘を受けました。

それと、本作で主人公の向かう場所を案内する“風”の着想も黒澤明作品から得たのですが、確かその作品は天に目掛けて木の枝を放り投げるという場面があったような……。

ネイト:『用心棒』ですね。

ジェイソン:そうでした。地面に落ちた枝が指示した方向を見て、運命に定められたかのように主人公が受け入れて、次の目的地に向かって歩き始める姿が実に詩的で素晴らしかったです。

『用心棒』はお気に入りの作品の一つで、そこから触発されたことも沢山ありますよ。特に好きなのが、二つの組織がいる町に流れ着いた一人の浪人ですね。彼はそこの親分二人を戦わせるんですよ。そして、最後の決闘では二人がお互いに向かって歩いていて、浪人が着物の袖に手を入れたまま肩を動かすという最高に格好良い仕草とかもあって。一瞬の動作ではありますが、そこから沢山の個性が垣間見られるんですよ。また、激しい戦いを繰り広げる中でも、着物の背中に刻まれた紋章が本当に美しくて印象的でした。単純でありながらも、忘れられない場面ですね。

「黒澤モード」と『乱』を彷彿とさせる色彩

Ghost of Tsushima
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──往年の時代劇を彷彿とさせる白黒映像に切り替えられる「黒澤モード」に圧倒されました。開発当初から実装予定だったのでしょうか?

ジェイソン:開発を始めてから一年が過ぎた頃だと思いますが、往年の時代劇へのオマージュとして白黒モードを搭載する必要があると思うようになりました。そこで、実際に「黒澤モード」と名付けられないかと考えるようになり、黒澤明監督の権利団体にどのようになるのかをお見せしました。そしたら、彼らに同意してもらえたので、本当に嬉しかったです。

──「黒澤モード」と実際に名付けられたのは最近の出来事だったのでしょうか?

ジェイソン:どちらかと言うと最近のことで、開発段階の後半です。何故なら、実際の映像を見せられる段階まで開発を進める必要がありましたからね。当然、時間は掛かりますよね。ただ、それでも最も成熟した状態の白黒モードを見せる必要があったので。

Ghost of Tsushima
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──「黒澤モード」に魅了されたのは勿論ですが、「通常モード」の鮮やかな色彩にも度肝を抜かれました。特に「赤・黄・緑」が印象的だったのですが、これは黒澤明監督『乱』(1985)から着想を得られたのでしょうか?それとも偶然でしょうか?

ジェイソン:偶然ではありません。『乱』は息を吞むような色彩に包まれていて、映画史に残る傑作だと思います。私はこの映画を観て初めて侍の旗を見ました。巨大な武士団がいて、美しい赤・黄の旗が出て来るんですよ。それで、本作でも鮮やかな色彩を採用したいと思いました。

──『乱』では登場人物の立場や心理的状況などを色彩が表現していましたが、本作では具体的にどんな意味合いで用いましたか?

ジェイソン:『乱』のように深い意味を持つ訳ではありませんが、このゲームでも幾つかの意味は存在します。例えば、緑は自然豊かな中世日本を再現する為の色ですね。完成した初期作品を日本チームに見せた時には、「緑が少ない」と指摘されてしまいました。その時、色を更に強調する必要があると初めて気付きました。

ただ、赤や白の衣装は少し色を抑えるようにしました。透き通るような緑色の海と抜群の化学反応を生み出すと信じていたので。また、森を黄金のような色彩に仕上げることで、深刻な雰囲気を演出しています。このゲームにとって色彩が果たす主な役割は、広大な対馬の様々な風景をプレイヤーの記憶の中に刻み込むことですね。

黒澤明作品との出会いと思い出

Ghost of Tsushima
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──特に若い世代は黒澤明作品を観たことがない方も多いと思いますが、本作の為に観るべき作品を一つ挙げるとしたら何でしょうか?

ジェイソン:一つですか……難しいですね。ネイトはありますか?

ネイト:もちろん。『七人の侍』を観てください。世界に最も知られた完璧な侍映画です。百姓たちに最大の敬意を払い、そして助ける為に無私無欲で戦う侍たちを描いた作品ですよ。侍同士の関係性や人間の持つ真心、侍としての品位を彼らが周囲に示していくんです。実に独創的で、ジェイソンや私が侍の世界に引き込まれたのもこの作品のおかげですね。

──ちなみに、難しいとは思いますが、黒澤明作品で個人的に一番のお気に入り作品を教えてください。

ジェイソン:一番は『乱』ですかね。ただ、『影武者』(1980)の名前も挙げておきたい。非常に格好良い色彩や影、ポスターを作れる程の美しいショットが次々と登場するんですよ。両作品とも映画史に残る傑作です。

ネイト:私は間違いなく『七人の侍』です。本当に愛して止みません。それから、『椿三十郎』(1962)も特別枠として挙げておきたいです。この作品の最後の数分間は、本作に多大な影響を与えたので。

Ghost of Tsushima
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──ネイトさんは『七人の侍』が相当、お気に入りのようですね。何か思い出でもおありなのでしょうか?

ネイト:初めて観たのは大学の頃でした。上映時間[編注:207分]を知った時は思わず、「うわ……」となりましたよ。ただ、終わる頃には映画に魅了されていました。一瞬にして時間が過ぎ去りましたね。私にとって天才が作り上げた芸術は、放心状態にさせられる作品なんです。椅子に座っていることを忘れるだけでなく、デート中であることさえも忘れてましたよ。彼女は恐らく私が映画に集中していて、手さえも繋いでくれないことに怒っていたでしょうね(笑)。とにかく、私は作品に没頭して、それ以降は完全に『七人の侍』の虜になりました。

──つまり、このデートを皮切りに黒澤明作品や日本時代劇に興味を持つようになったということですね。

ネイト:間違いなくそうですね。それと『スター・ウォーズ』のファンであれば、誰もが影響を確かめるために『隠し砦の三悪人』(1958)を観ると思います。日本の時代劇が現在のポップカルチャーにどれだけの影響を与えてきたのかに驚かされますよ。実際に私自身も、あの夜のデートで初めて『七人の侍』を観て、そのように思いましたから。

Writer

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Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。