稲垣 貴俊米ユニバーサル、映画公開から17日での配信リリース可能に ─ 業界衝撃、大手映画館チェーンと複数年契約
新型コロナウイルスの影響下で対立していた米ユニバーサル・ピクチャーズと全米最大の映画チェーン「AMC」が、互いに手を組んで、新たな試みに打って出る。今後のユニバーサル作品は、AMC系列の映画館で17日間の上映を実施したのち、配信リリースが可能になるのだ。米Varietyなど複数のメディアが報じている。
2020年4月、コロナ禍によって全米の映画館が休業するなか、ユニバーサルとAMCは公に激しい対立劇を演じていた。4月10日、ユニバーサルは新作アニメ映画『トロールズ ミュージック★パワー』のデジタル配信を米国で開始し、約3週間で1億ドルの売上を記録。NBCユニバーサルのジェフ・シェルCEOは「配信の可能性を証明した」として「映画館の再開後も両方のフォーマットで作品を発表したい」と語ったが、AMCのアダム・アーロンCEOはこれに激怒。ユニバーサルが劇場公開・配信の両方を採用するならば、「今後はユニバーサル作品を一切上映しない」と断言したのである。
しかし約3ヶ月後、両社の協議は思わぬ方向に進んだ。ユニバーサル・ピクチャーズ、同じくNBC傘下のFocus Featuresの配給作品は、AMCで17日間にわたり劇場公開されたのち、複数の配信プラットフォーム（AMCの自社サービス含む）での“プレミアム配信”が認められる。たとえば金曜日に公開される作品の場合、興行収入の大部分を左右するとされる3度目の週末までは映画館での独占公開となり、その後は配信で提供されるという選択肢が生まれるのだ。両社の契約は複数年にわたるもので、ヨーロッパ・中東のAMC系列劇場についても協議されるという。
両社の契約条件は発表されていないが、声明によると、両社は新たな方式で生まれる利益を共有する見込み。したがって、AMCも早期配信による収益を一部受け取ることになりそうだ。たとえば『トロールズ ミュージック★パワー』の場合、購入から48時間視聴可能で価格は19.99ドルという“プレミアム”ならではの高額配信だった。今後の早期配信作品も、これと同等の価格でリリースされる可能性はある。
現時点で、劇場公開から配信までのプロセスが具体的にどのようなものになるのかは不明。今回の契約はユニバーサルとAMCのみで結ばれたものゆえに、AMC以外でも上映される作品の場合、ユニバーサルは他社とも契約を結ばなければ早期の配信を始められない。また、ユニバーサルは「劇場興行で優れた成績を収めた作品は、配信への切り替えではなく上映を継続する」方針だと報じられているが、逆に言えば、一定以上の興行的成功が見込みにくい作品のみが対象になるということだろうか。今後、同社は『007／ノー・タイム・トゥ・ダイ』や『ジュラシック・ワールド』『ワイルド・スピード』『ミニオンズ』シリーズの最新作といった大作映画も続々と発表予定だが、これらの扱いも気にかかる。
なお、契約の締結にあたって、ユニバーサルのドナ・ラングレー会長は「劇場体験は今後も我々のビジネスの基本」と強調。「AMCとのパートナー関係は、映画配給の収益構造に確かな未来をもたらしたい、（映画の公開に）柔軟性と選択肢を求める消費者の需要に応えたいという考えによるもの」だとコメントした。また、AMCのアーロンCEOは「すべての家庭にキッチンがあってもレストランが繁盛しているように、業界の状況を長い目で見つめれば、パンデミック後には大勢の映画ファンが劇場を訪れてくれると確信している」との声明を発表した。
ともあれ、今回の契約は映画業界に衝撃を与えるものだ。この動きを受けて、ユニバーサル以外の大手映画会社、AMC以外の映画館チェーンも同様の契約に動き出す可能性は高いとみられている。クリストファー・ノーラン最新作『TENET テネット』が米国ではなく海外で先行公開されることが決まったタイミングで、映画館と配信プラットフォームの関係性にも変化の兆しが見えてきた。コロナ禍の苦境にあるハリウッドは、映画公開のありかたをさらに変えていくことになるのかもしれない。
