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ハンス・ジマー、日本独占インタビュー ─ 『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』音楽に託した魂

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ ハンス・ジマー
© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

ハンス・ジマー。現代映画音楽における最も偉大な作曲家だ。

代表作は数知れず。アカデミー賞に輝いた『ライオン・キング』(1994)はもちろん、誰もが胸踊らせる『パイレーツ・オブ・カビリアン』の雄大な楽曲。バットマンの『ダークナイト』3部作や、あまりにも有名な『インセプション』(2010)のホーン、『インターステラー』(2014)の壮大なる神秘、『マン・オブ・スティール』(2013)『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)の重厚感あふれる神々しい楽曲、『ブレードランナー 2049』(2017)に『ワンダーウーマン 1984』(2020)……。

ときに美しく、ときに重量級に。ときにオーガニックに、ときにエレクトリックに。ドイツが誇る巨匠ハンス・ジマーは、最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンド最後の戦いをドラマチックに演出している。

この巨匠との一対一の単独インタビューが、日本ではTHE RIVERだけで実現。“巨匠”とされるイメージとは裏腹に、素顔のハンス・ジマーはとても気さくだ。日本の読者に向けて、ここでしか聞けない特別な話をたくさん披露してくれた。ハンス・ジマーとの単独対話という、世界的にも貴重な機会をご堪能あれ。

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ ハンス・ジマー
© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ハンス・ジマー 単独インタビュー

──こんにちは!

こんにちは。お元気ですか?

──はい、元気です。ありがとうございます。今日はTokyo, Japanからお繋ぎしています。

Tokyoと言ったら、Japanは言わなくて良いですよ(笑)。東京は何度か訪れたことがあるのですが、驚くほど素晴らしい場所ですね。これまで行った中でも、特にエキサイティングな街です。

──ちなみに、日本でコンサートをされたことはありましたか?

いいえ、でも……、準備中です。

──えぇっ!本当ですか?

本当に準備中です。なかなか簡単にはいきませんが。特に昨今のウイルスの状況で、企画も少し後戻りすることになってしまいました。でも、どうにか(日本でコンサートをやる)機会をいただけて、より良いコンサートを作るために動いているところです。実現したら、派手にやるつもりですので、絶対に見逃せないと思いますよ(笑)。

──凄い。待ちきれないです。必ず行かせてください。あなたの音楽の大ファンなんです。あなたのサウンドトラックを普段からよく聴かさせていただいていて、特に『ダークナイト』と『インターステラー』がお気に入りです。ですから、今日はこうしてお話させていただくことができて、本当に光栄です。お忙しい中、お時間を割いていただいてありがとうございます。

こちらこそありがとうございます。その2作(『ダークナイト』『インターステラー』)は、確かに個人的にもとても重要な作品です。私には“お気に入り”というのはないんですけどね。お気に入りを作るわけにはいきません。ただ、その2作は私にとっても特別です。

──今作はジェームズ・ボンド映画です。『007』のテーマ曲といえば、映画音楽史上最もアイコニックな音楽ですね。

その通りです。

──そして、ついに『ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開となります(編注:このインタビューは日本公開前夜に行われた)。ずっと待っていた作品ですが、あなた方にとってはとても長い道のりだったのだろうと想像します。今の率直なお気持ちは?

よし、私の今の気持ちを正確にお話ししましょう。まずはヘトヘトに疲れました。この2週間が本当に忙しかったものでね。それで、今は信じられないほど良い気持ちです。満員になったアルバート・ホール(編注:本作のプレミアが開催されたロンドンの劇場)で、人々がまた繋がっていく様子を見ることができました。たとえば『インセプション』の頃、映画館業界にストリーミング業界が入ってくるだなんて、誰も考えていませんでした。しかし、(実際の劇場での様子を見て)人間性が再び繋がったのです。

これはただの映画ではありません。映画以上の何かです。私たちの夢に、人々を再びお招きしているのです。大きなスクリーンで鑑賞し、素晴らしい音を聴くことができるのです。

それから、私が非常に大切だと思っていることが他にもあります。ダニエル(・クレイグ)がボンドを演じる、最後の作品だということです。これがどういうことを意味するのか、私には少しわかります。先程『ダークナイト』が話題にありましたが、私はバットマン映画を3作やりました。みなさんにとっては“3作の映画”ですが、私にとっては“人生の12年間”なのです。ダニエルにとっては、“人生の15年”。ひとりの人間の人生としてはかなり大きいですよね。ですから私たちは、演技や作品、シリーズだけでなく、ダニエルの仕事に敬意を払うことを意識しました。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

プロデューサーのバーバラ・ブロッコリは長年の友人なのですが、友人と仕事をすると、仕事もしっかりやりたいと思うものです。なぜなら友人を失いたくないからですね。それと同時に、ファミリーに招かれたような気持ちにもなります。私は娘がいるのですが、スタッフ全員が私の娘を優しくもてなしてくださいました。まるでひとつのファミリーですよ。私の友人で、よく一緒に仕事をする素晴らしいミュージシャン、スティーブ・マッザーロ(作曲家)とジョニー・マー(ギタリスト)の2人も、ファミリーに迎えていただきました。

それから、フィニアスとビリー・アイリッシュ(主題歌『No Time To Die』)も加わって。彼らは、最初はアメリカから参加していたんですね。私は、それは違うんじゃないかと言いました。曲を作るのなら、ここに来て、映画を観て、ファミリーとして加わるべきだと。でも、それを伝えきる前に彼らはすでに飛行機に乗っていたんですけどね。

この作品は、1年半前に仕上げ終わっていたものです。それが今、“経験(experiencing)”できている感覚。人々がまたひとつの空間に集まって、同時に拍手をする。それはつまり、私たちが用意したものに対して、人々が同時に同じ感情になっているということです。素晴らしい経験です。

──数年前のインタビュー(Vanity Fair)で、あなたはこんなことをおっしゃっていました。“新たな形で物語を伝えようとするときは、それがうまくいくか分からないものだ”と……。

今回の場合はもっと辛かったですよ!何せ、完成させてから1年半も、うまく出来たのか失敗したのかもわからずに待ち続けていたんですから。

(プレミア上映の際、)上映が始まって最初の5〜7分は、息を殺して見ていました。そこから次第に観客の反応や歓声が聞こえてきて、ああ良かった、良かったみたいだと実感できました。お世辞の言葉ではなく、言葉には現れないものが、観客の目に現れていました。そうして、「よし、うまくいったんだ」と急に実感できるんです。

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Getty Images for EON Productions, Metro-Goldwyn-Mayer Studios, and Universal Pictures

──これまでいくつもの作品を手掛けたあなたであっても、今なお披露目の上映までは不安を感じられるのでしょうか……?

恐くてたまらない。様々な責任がかかっているからです。先にお話ししたように、ファミリーの存在や友情に伴う責任がまずひとつ。それから、シンプルに莫大な資金ががかかっていることを知っているから、ということもあります。

この2週間で、私の手掛けた映画が2作公開されます。(『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の他に)ヴェニスで『DUNE/デューン 砂の惑星』も公開され、そこからここロンドンに飛んできています(笑)。この2作は非常に重要な作品で、大スクリーンで観るべき映画です。“映画館を生かし続ける”というプレッシャーを、ここのところ、フィルムメーカーたち同様に絶えず感じています。ですから、「不安を感じますか」と聞かれたら、「色々な理由で不安を感じます」と答えます。それに、私には2人の子どもがいるのですが、映画館に連れて行って「パパ、酷い仕事だったね」なんて言われたくない(笑)。でも、私も成長したもので、以前みたいに試写の真っ最中に「待ってくれ、やっぱりここは書き直したい」と途中で飛び出さなくなった(笑)。

最近、2週間くらい前かな、人にこんなことを言われたんです。「スローダウンはしないんですか」と。私はもう、相手が言い終わるよりも先に「とんでもない!まだまだ始まったばかりなのに!」と言い返しました。今の私にはアイデアがたくさんあるし、やりたいことがたくさんあるんです。まるで私の初仕事を手掛けた時みたいに、興奮と不安を感じているところなんです。その気持ちは消えません。

そう、その気持ちは消えないのです。必要なのは、謙虚さと尊敬、仕事相手への愛。「当たり前」だと思わないことです。私は恵まれているんです。そうなんです。私は、すごく、恵まれているんです。とんでもない機会をたくさん与えていただいているんです。非常にありがたいことです。

結局、私の仕事とは、人の心を動かせるのか、動かせないのか、それに尽きるんです。あなたが音楽を好きになってくれる理由を説明することはできませんが、願わくば私の楽曲で、あなたの心の中に何かが起こり、繋がりを生み出してくれたらと思います。私たちは、言葉がなくとも繋がれるんです。

──『007』のテーマ曲こそ、言葉を超えて誰もが知っているクラシックですね。この音楽を新たに手掛けるにあたって、どんな挑戦がありましたか?

挑戦というと、ジョン・バリーによるテーマも含め、これまでのすべてのボンドテーマにこだわることでした。そこに、ジョニー・マーのギターを加えて。そういえばジョニー・マーに、「絶対にギターで弾くべき映画音楽と言えば?」と聞いたら、「ボンド!」と返ってきたので、「よし!キミにきめた!」という経緯がありました(笑)。

オーケストラのミュージシャンの多くは、他のボンド映画でもたくさん演奏している方ばかりでした。だから私は、その中では子どもみたいで、いろいろと聞いてばかりでした。相方のスティーブ・マッザーロと一緒に、どうやって橋渡しをするかを試しました。本作では物語が進んでいくと、音楽がどんどん本作特有のものになっていくのですが、ここでは徐々に別のスタイルに遷移していくようにしています。

それから、フィニアスとビリー・アイリッシュにも随分と助けてもらいました。あの曲(編注:主題歌「No Time To Die」)は、冒頭からモダンなトーンを作ってくれています。彼らと仕事をすることができて、本当に良かった。

……さっきから私は“仕事(working)”と言っていますが、仕事ではないですね。“演奏(playing)”です。音楽を演奏するんです。みんなで音楽を演奏できて、素晴らしかったです。

──ありがとうございます。残念ながらお時間になってしまいましたので、これで最後の質問です。あなたにとって、“優れた映画音楽”の定義とはなんですか?

“忘れられない映画音楽”であるということです。

──同意します。あなたの音楽はどれも忘れがたいです。

ありがとうございます。昔は、「映画音楽はBGMであるべきだ」なんて言われていましたが、私はそうは思いません。エンニオ・モリコーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『ドクトル・ジバゴ』や『アラビアのロレンス』の音楽、ジョルジオ・モロダー、『ラストエンペラー』や『戦場のメリークリスマス』の坂本龍一……。これほど美しい音楽はありません。映像が音楽を満たし、音楽が映像を満たすのです。

──ありがとうございました。お話できて本当に光栄でした。

こちらこそ、ありがとうございました。またすぐ、日本でお会いしましょう。


ハンス・ジマーのフィルモグラフィーを見れば、その数の多さはもちろんのこと、有名作や大作が無数に並んでいることに、映画通であっても改めて驚くはずである。まさに“百戦錬磨”で、“天才”、“巨匠”とされるハンス・ジマー。それでも、手掛けた作品がお披露目になるまでは、未だに「恐くてたまらない」と感じていること。60代半ばに入った今、ようやく「まだまだ始まったばかり」と実感されていること。常に自分自身は恵まれているのだと言い聞かせ、謙虚さと感謝を忘れないと話したこと。神がかった音楽を絶えず繰り出すハンス・ジマーが、このように語る意義は、すべての世代の人々にとって、あまりにも大きいのではないか。

親切に、楽しそうに、ワクワクしながら私に話を聞かせてくれた姿は、映画と音楽が大好きな、ひとりの気さくな男性といった様子だった。日本のファンに向けて本作を語ることが嬉しくてたまらないといったような、充実感に満ちた姿だった。『007』という、映画史上最も偉大なシリーズの音楽を手掛けた後もなお、「今の私にはアイデアがたくさんあるし、やりたいことがたくさんあるんだ」とはしゃぐ、少年のような輝き。日本でのコンサートまで予告し、「派手にやるからね」と嬉しそうにしてくれた笑顔。近い将来、日本のファンの前に、大勢のミュージシャンを引き連れて現れる日を楽しみに待ちたい。セットリストには、きっと『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の、痺れるようなスコアも含まれるはずだ。

ハンス・ジマーが楽曲を手掛けた『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は大ヒット上映中。映像と音楽が織りなす究極のドラマを、ぜひ劇場でお楽しみ頂きたい。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。