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【インタビュー】『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ベテラン製作者2人が語るダニエル・クレイグへの別れ「1つの時代が終わった」

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Getty Images for EON Productions, Metro-Goldwyn-Mayer Studios, and Universal Pictures

この映画はダニエルにとって、ジェームズ・ボンドというキャラクターへのお別れなんです。

『007』史上最もジェームズ・ボンドという男の内面を描いた、ダニエル・クレイグ版シリーズの正真正銘ラストとなる映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が世界各国で封切られた。2006年の『007 カジノ・ロワイヤル』に始まったダニエル・ボンドのファイナルチャプターだ。

冒頭の一言は、映画『007』シリーズ生みの親アルバート・“カビー”・ブロッコリの実娘にして、5代目ピアース・ブロスナンから『007』シリーズのプロデューサーを務めてきたバーバラ・ブロッコリが、THE RIVERとの単独インタビューにて語った言葉だ。このたびバーバラと、彼女と共にプロデューサーとして先人の遺志を継いできたマイケル・G・ウィルソンが、多忙な日々のわずかな時間をTHE RIVERに割いてくれた。

10代の時から父親が率いる『007』シリーズの撮影現場に足を運び、今ではフランチャイズに欠かせないバーバラと、ロジャー・ムーア版やティモシー・ダルトン版シリーズでは脚本も手がけたウィルソン。取材の中でふたりが、ボンドという1人の男を通して現代に光をあたえてくれたダニエル・クレイグへの感謝を繰り返し伝えていた姿が印象的であった。

パンデミックという予期せぬ障壁にぶち当たり、度重なる延期などの逆境を乗り越えて公開される本作に、今ふたりは何を思うのか。ダニエルから受け継がれるこれからのジェームズ・ボンドについての意見を交えながら、率直な気持ちを明かしてくれた。

 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Getty Images for EON Productions, Metro-Goldwyn-Mayer Studios, and Universal Pictures

ダニエル・クレイグが引き出したボンドの「感情的側面」

── お話できて光栄です。私自身、待ちわびていた『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』、やっと公開されますね。今のお気持ちはいかがでしょうか?

ブロッコリ:いまはすごく安心しています。やっと映画を観客の皆さんにもお見せすることができますからね。この映画のことはとても誇りに思っていますし、ダニエル・クレイグが築き上げたレガシーに敬意を払うことができたとも感じています。壮大な結末で、ダニエルにとってジェームズ・ボンドというキャラクターへのお別れ(farewell)でもあります。

エキサイティングで、アクションも満載で、ロマンスもたっぷりあって。そこには多くの感情が介在しているんです。なので、日本のファンの方々がこの作品を愛をもって大切にしてくれて、ダニエル・クレイグと最高のお別れをしてもらえたらと願っています。

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
© 2019 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

── ダニエルがジェームズ・ボンドとして歩んできて15年間。ついに本作で最後となります。おふたりにとって、『007 カジノ・ロワイヤル』に始まったこの15年はどのようなものでしたか?

ブロッコリ:この上なく素晴らしい旅でした。(原作者の)イアン・フレミングの小説第1作である『カジノ・ロワイヤル』で始まって。この作品は長いことずっと伝えられずにいました。私たちは、完璧な男、完璧な俳優でこの作品を伝えることができたと思います。1作目でダニエルは、ジェームズ・ボンドという男の生活の感情的側面を引き出すことに大きく貢献してくれました。そのおかげで私たちは、世界が進んでいくなかで、1人の男がいかにしてジェームズ・ボンドになったのかを理解するようになりました。彼とヴェスパー・リンドとの関係もそう。彼女に裏切られて心を痛めたボンドは、内なる感情をシャットダウンしてしまうんです。

なので、その後の映画では、ボンドというキャラクターが内に秘めた感情を掘り下げていくことが肝でした。ダニエルは並外れた俳優ですから、彼はこの役を本当に上手く演じてくれたなと。同時に今では、彼にお別れしなければいけないことがとても悲しいです。

撮影最終日の「記念碑的な瞬間」

── 本来、ダニエルは『007 スペクター』(2015)で引退すると言われていましたが、あなた方が“まだ描いていないことがある”とダニエルに直談判したことで、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』への続投が決まったそうですね。ダニエル・ボンドのストーリーを続けていく上でのモチベーションは何だったのでしょう。この映画では、どのような完結が意識されているのでしょうか。

ウィルソン:『スペクター』の後のダニエルは、とても疲れていたと思います。すっごく飽き飽きするような気持ちだったのかなと。特にあの映画で私たちが抱えていた問題というのは、ダニエルにとっても辛いものだったでしょう。あの時のダニエルは固く決意したような感じでした。でも、同じくらい私たちも(可能性を)真剣に考えていたんです。実際に続編(『ノー・タイム・トゥ・ダイ』)へのアイデアを持っていたのはバーバラでしたけどね。

ブロッコリ:そうだ、私でしたね(笑)。あの時、私たちはダニエルに少し休む時間を取ってもらいました。その後ちょっとして、また彼にアプローチして、“ねぇダニエル、ボンドの旅には残されたチャプターがまだあるでしょ?”って伝えたんです。それである時、マイケルとダニエルと一緒に可能性を模索していたんですけど、彼はものすごく大きな反応を見せてくれました。結果的に『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のストーリーを開発する全体のプロセスで、彼は不可欠な役割を担ってくれて。私たちは“この映画はジェームズ・ボンドとして素晴らしい歩みを見せてくれたダニエル・クレイグにとって、壮大な完結になる”とよく言っていますが、あっという間であり寂しいお別れなんです。

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Getty Images for EON Productions, Metro-Goldwyn-Mayer Studios, and Universal Pictures

── ドキュメンタリー作品「ジェームズ・ボンドとして」では、撮影の全行程を終えたダニエルが目に涙を浮かべながら、共演者や製作陣に感謝を伝える姿が印象的でした。今振り返ると、あの日はどのような瞬間でしたか?今も強く印象に残っていますか?

ブロッコリ:もちろんはっきりと覚えています。あの日はくたくたで疲れていたんですが、ジェームズ・ボンドのシリーズにとって記念碑的な瞬間のようにも感じました。それだけではなくて、映画史にとっても大きな瞬間だったかなと。彼(ダニエル)が映画界にもたらした影響はとてつもなく大きなものですから。私たちはそのような瞬間を残したんだと強く思いました。

あの場にいた誰もが気持ちを高ぶらせていて、ダニエルに感謝を伝えたがっていました。どれだけ彼が愛されていたかということを。この映画が、彼の捧げた15年間を祝福するものであるのと同じように、あの場にいた全員がダニエルを祝福していました。

マイケル:あの瞬間は私にとっても最高の瞬間でした。ダニエルがいなければ、ジェームズ・ボンドの世界を先に進めることはできなかったと思います。彼は本当に素敵な俳優です。良い出来の脚本ならどの俳優でも大丈夫なんて言う人もいるかもしれないですが、今回はそうじゃない。彼だったからこそ、ストーリーが存在できたんです。彼が、私たちが求めていた役を演じられる人だったからこそなし得たことなんです。そして本作で『007』シリーズの1つの時代が終わったと実感しました。だからこそ、(最終日は)グッときました。

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Getty Images for EON Productions, Metro-Goldwyn-Mayer Studios, and Universal Pictures

「血を流し、涙し、複雑になった」ジェームズ・ボンド

── “『007』シリーズは時代を象徴する”というブロッコリさんの言葉を紹介していた記事が印象に残っています。ダニエルと歩んだ15年間を振り返り、ダニエルが築き上げた『007』はどのような時代だったと思いますか?

ブロッコリ:私たちが(6代目ボンドを)キャスティングしていた時、21世紀におけるジェームズ・ボンドを再定義できる俳優を求めていました。そしてそれこそ、彼が成し遂げたことです。21世紀における男らしさとは何なのか。ヒーローとはどんな存在なのか。いまの時代に、ボンドの人間らしさを上手く引き出してくれたことこそ、ダニエルの功績なんです。血を流し、涙し、以前よりもずっと複雑になった人間であり、男である彼を。

── ダニエルの『007』シリーズでは、MやQ、マネーペニー、フェリックス・ライターなど、ボンド以外のキャラクターも引き立てられていると思います。もはや、ダニエル版一番の魅力は、ボンドと他キャラクターとの交流だとも私は思っているのですが……!彼らのキャラ形成には、どんな工夫が施されてきたのでしょう?

ウィルソン:あなたがおっしゃったキャラクターたちは、これまでも常に『007』シリーズの一部でした。重要だったのは、21世紀の『007』に彼らをいかにして蘇らせるかということでした。彼らはどんな存在になっているのかと。なので、それぞれのキャラクターはそれぞれ別のやり方で作られていきました。ジュディ・デンチのMは前のシリーズからそのまま継続されましたし、女性諜報員も描いてきました。それが現実の世界における秘密情報機関の姿でもありましたから。マネーペニーは元々現場あがりのエージェントで、チームの一員になることを決めた女性です。

Qも前からアップデートされて、今回のシリーズではパソコンオタクみたいでしょ?このような感じで、それぞれのキャラクターがそれぞれにあった方法で作られていったんです。そして最終的に、彼らはボンドにとって家族となった。この映画が作られる頃までには、みんな家族になったんです。あとはアウトローなラシャーナ(・リンチ)のキャラクターも新しく登場して、ボンドと関わっていくことで家族を探していくんです。

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Credit: Nicola Dove / © 2019 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

次期ボンド役は「ハードルが高い」と思わせるダニエルの偉業

── そういえばこの間、日本最大級の映画館(グランドシネマサンシャイン池袋)に行った際、館内ではなぜか『007 美しき獲物たち』(1985)でデュラン・デュランが歌った主題歌「A View To A Kill」が流れていたんです。私はこれを聴いて、遂にジェームズ・ボンドが帰ってくるんだと思い、とても気持ちが高まったんです。

ブロッコリ:なんと、素敵なストーリーですね。教えていただいてありがとうございます。

ウィルソン:それは、すごく興味深いですね。

── 『美しき獲物たち』はキャリー・フクナガ監督にとって最初の『007』映画だったとも聞いたのですが、私が映画館で「A View To A Kill」を聴いたのは、ただの偶然だったのでしょうか。それとも、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』との繋がりがあったりするのでしょうか?

ウィルソン:はっはっは(笑)。あの映画(『美しき獲物たち』)は良い作品でした。あの映画がキャリーにとって最初の『007』で嬉しいですよ。ボンドを知るにはもってこいの映画ですから。それが彼(キャリー)のなかに今も残っているんだと思います。彼は私たちにとっても素晴らしい監督でしたし、それに素晴らしいボンドのファンでもあります。それは恵まれていることでもあって。

彼には日系としてのルーツがありますし、日本をモチーフとした才覚をストーリーに取り入れてくれました。(悪役サフィンの)能面なんかは映画でもシンボルのようなものです。映画を通して皆さんが観ることになるデザインタッチなんかには、彼自身の日系としてのバックグラウンドが反映されています。すごく興味深いことです。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

── すごく楽しみですね。そして、ダニエルが卒業した後は、新しい時代で新たなボンドが誕生します。ダニエルが築き上げたレガシーは、どのようにして次世代へと受け継がれていくでしょうか。

ブロッコリ:ダニエル・クレイグという男は、ジェームズ・ボンドという男を(良い意味で)永久に変えてしまいました。なので将来にやってくる次の誰かにとって、キャラクターを再定義するハードルは高いでしょう。幸いなことに、我々が(その人物を探すことに)向き合い始めるのは今年ではなく、来年(2022年)です。今年は『ノー・タイム・トゥ・ダイ』とダニエル・クレイグを祝福するためだけに過ごしたいんです。将来のことは、そのあとですね。

── お時間が来てしまいました。素敵なお時間をありがとうございました。成功とおふたりの健康を祈っています。

ブロッコリ:こちらこそです。映画を楽しんでくださいね。

ウィルソン:ありがとう!日本の皆さんが楽しんでくれることを願っています。

映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は全国公開中。

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。