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【アメコミ駄話】2019年にマーベルが映画版『キャプテン・マーベル』で直面する「スーパーマン問題」について

世界で一番有名なアメコミヒーローは、DCコミックスのスーパーマンだということに異論のある方はいないと思います。設定上与えられた能力もアメコミヒーロー界で随一と言っていいでしょう。Wikipediaによりますと、スーパーマンの能力は「80万トンの物体を持ち上げる怪力」「40メガトンの核爆発に耐える耐久力」「刃物や銃撃を見切る動体視力」「眼から熱線(ヒートビジョン)を放射」「最高時速800万kmで飛行」等々、まさしく全部乗せのチートキャラ。

こうしたスーパーマンのパワーについては、故郷のクリプトン星が地球に比べて非常に重力が強いため、クリプトン人の肉体は地球の環境下では非常にパワフルになってしまうということと、クリプトン人は地球の恒星太陽からエネルギーを吸収して自らのパワーとすることができるということ、この二つが主な理由として説明されています。確かに重たいものを持ち上げたり、素早く動いたりは重力うんぬんの話で、熱戦を放出するのも「彼の体内では、太陽エネルギーを変換して核融合なみのエネルギーが生み出されている」と言われれば納得はできます。問題は、スーパーマンの能力のうち最も有名な「空を飛べる」能力です。

なぜスーパーマンは空を飛べるのか

The red capes are coming. #BatmanvSuperman

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前述したように世界一著名なヒーロー、スーパーマン。しかし驚くべきことに彼がどういった理屈で空を飛んでいるのか、定説は存在しません

一番よく言われているのが、「スーパーマンは空を飛んでいるのではなく、超パワーで大ジャンプをしている」という説で、映画『マン・オブ・スティール』でも飛翔する前に屈みこんで力をためるような描写が見られましたが、それだと空中で加速したり、急停止したり、方向転換できることを説明出来ません。それを受けてか「スーパーマンは重力をコントロールすることができて、それによって飛んでいる」なんて説もありますが、言うまでもなく重力は地球の質量と遠心力に由来するもの。スーパーマンにかかる重力を弱めるということは、同時に森羅万象全てにかかる重力が弱まってしまうということです(問題はそれだけじゃありませんが)。垂直方向の力なので水平に飛べる理由もわかりませんしね。それにもし重力を任意にコントロールできるなんてパワーがあるなら、そもそもヴィランとわざわざ殴り合う必要なんかなく、そいつにかかる重力を大きくして動けなくするか、もしくは重力カットして宇宙へぶっ飛ばすかすればいいだけで、この説も矛盾が多いと言わざるを得ません。他には「サイコキネシス(念動力)で体を浮かせている」なんてのも支持が多い説ですが、これもスーパーマンが触れずに物体を動かした描写がなく、なぜ空を飛ぶときだけ超能力を使うのか納得できないですよね? 「ジェットおならで推進力を得ている」なんて失礼な説もあります。個人的には、体内で生成したエネルギーを肉体のどこかの器官から超高速で噴出しているという説は頷きやすいのですが、キン肉マンならいざ知らず、これはまあ当然ダメでしょう。

そうすると、やはりスーパーマンが空を飛んでいるのは「スーパーマンだから」と言うしかなさそうです。アメコミ史上最も長い歴史を持ち、世界的な認知度も非常に高いキャラクターであるからこそ、理由も説明されないまま、空を飛んでいることをあまり問題にされないわけです。「地球は丸く、空は青く、スーパーマンは空を飛ぶ」。これは多くの人にとって語るまでもない当たり前のことなんですね。

実写映画においてのフィクションライン

この「空を飛ぶ」というヒーローのアビリティは、アメコミに限らず日本の漫画やアニメでも非常に良くみられ今更珍しくもなんともないですが、こと「実写映画」となると話が違います。現実と地続きの世界を舞台に、実在の俳優が演じる実写映画では、観客がそれぞれ無意識のうちに「ここまではアリ」というフィクションラインを設定して鑑賞するものです。よって、いくら何でもありのコミック原作の映画と言えど、あまりに荒唐無稽だったり、設定上のロジックがなかったりする描写は、観客にとって受け入れづらいものとなってしまいます。

したがって前段のスーパーマンの空を飛ぶ能力はあくまで例外。そもそもこの「生身の人間(に見える存在)が空を飛ぶ」描写は、観客の意識下で「そんなことできるわけがない」と思われやすい、ハードルが高い表現のひとつです。その証拠と言っては何ですが、スーパーマンと同じくDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)のヒロイン、ワンダーウーマンも、コミック設定上は亜光速で空を飛ぶことができるにも関わらず、映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』ではその能力がオミットされていました。ワンダーウーマンがコミックで空を飛べる理由も「半神ワンダーウーマンだから」であるものの、スーパーマンほど大衆の認知を得ていないゆえの制作陣の判断だと思います(2017年8月25日公開の『ワンダーウーマン』で彼女が飛行するかどうかはまだ分かりません。予告映像を見る限り今のところ飛行はしていません)。

Happy birthday to our #WonderWoman, @gal_gadot! 💥

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MCUにおいての「空の飛び方」

さて、ここで話をDCEUからマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に移します。

2008年『アイアンマン』から始まった実写映画における一大ユニバース、MCU。これまでこの世界には10を優に超える数のマーベルヒーローが登場してきました。そしてこの中には「空を飛ぶ」ヒーローも複数含まれています。順番に挙げてみるとアイアンマン、ウォーマシン、ソー、ファルコン、スカーレット・ウィッチ、ビジョン、ドクター・ストレンジ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのメンバー、以上のヒーローが能力として飛行することができるのです。そしてお気づき頂けたと思うのですが、この全員に「空を飛ぶためのロジック」が存在します。アイアンマン、ウォーマシン、ファルコンはスーツ由来、ソーは神器ムジョルニアの力、スカーレット・ウィッチはあらゆる物質に作用する念動力、ストレンジは浮遊マント、ヴィジョンはインフィニティストーンのひとつマインド・ストーン、ガーディアンズはエアロ・リグというジェットパック。事ほど左様に、MCUは空を飛ぶことについて、作品ごとにその理由を丁寧に説明してきたわけです。

ご存知の方も多いかと思うのですが、原作コミックにおいて、アベンジャーズにはMCUに登場してきたヒーロー以外にも多士済々のヒーローが名を連ねており、その中にはワンダーマンやスパイダーウーマンといった、ガジェットなしに空を飛ぶヒーローも存在します。しかしMCUは、地球を舞台とする映画の場合、『アイアンマン』から始まった「なるべくリアル」路線を踏襲し続けています。よって、これらよくわからんけど飛ぶ連中(ファンの人ごめんなさい)は、そのポリシーや先に挙げたフィクションラインの観点からそぐわないため実写映画には登場しないのだ……と筆者は考えていました。(ヴィジョンは?と言う声も聞かれそうですが、あの人は…確かに登場が決まった時ビックリしましたが、まず容姿が人間とかけ離れてるし、額に埋まっている石は映画『アベンジャーズ』で凄まじい力を持っていることが説明されているので、例外ということにしてます)

ところが昨年(2016年)、その「理屈がわからないけど飛行するマーベルヒーロー」の代表格といっていいキャプテン・マーベルの単独映画が2019年に公開予定という発表があり、その予想は覆されてしまったのです。

どうやって描く?キャプテン・マーベルの能力

コミックにおいてのキャプテン・マーベルことキャロル・ダンバースは元CIAエージェント。ある事件の際に巻き込まれた爆発の影響で、クリー人である先代キャプテン・マーベル(男性)遺伝子が体内で融合してスーパーパワーを得ます。やがてヒーロー活動を開始した彼女は、ミズ・マーベル(バイナリィ、ウォーバードという名前の時も)を名乗りアベンジャーズに加入。やがて、先代キャプテン・マーベルの殉職を機に、「キャプテン・マーベル」を襲名して現在に至るわけです。

彼女の能力といえば「超人的体力と怪力」「手から放射するビーム」「ハイパーセンス」そして「飛行能力」。そう、DCのスーパーマンやワンダーウーマンと非常に良く似たスペックのヒロインなのです。マーベル・スタジオのトップ、ケビン・ファイギをして「マーベル界最強」と持ち上げる彼女ですが、さて実写映画においてこれらの能力はどのように描かれるでしょうか。

言うまでもないですが、キャプテン・マーベルの知名度は他のヒーローと比較しても決して高いとは言えません。実写映画でのみアメコミに触れる大半の観客にとって、キャプテン・マーベルは「ポッと出」なわけです。そんなキャラクターが、既出のヒーローを差し置いての最強設定、しかも見かけ上は体にピッタリしたコスチュームを着ているだけの華奢な女性が、握りこぶしからビームを出して、ガジェットもなくフワフワ飛んだとします……。ちなみに原作で彼女が飛行できる理由は「クリー人に強化されたヒーローの遺伝子を持っているから」というもので、これは従来のMCU作品ではおそらく通用しない理屈です。

要するに何が言いたいかというと、筆者は「キャプテン・マーベルの能力を原作のまま実写で描くと、多くの観客はついていけない」と推測するわけです(あくまで個人の見解です)。仮に前述したような理由から飛行能力をオミットすれば、剣や盾、魔法の投げ縄や銀のガントレットなどアイデンティティを象徴するガジェットが豊富なワンダーウーマンとは異なり、途端にキャラが薄くなってしまうのも問題です。しかし、これらのキャプテン・マーベルを取り巻く様々な懸念に、ここまでMCUを発展させてきたマーベル・スタジオ側が気づいていないはずもなく、それでもあえてこのヒロインを持ってきたということに未だ伺い知ることができない勝算を感じるわけです。

2019年公開予定『キャプテン・マーベル』は、語弊を恐れず言えば「MCU流スーパーマン系ヒーローの料理法」を目撃できる、全く新しいヒーロー映画になる可能性が非常に高いです。先日全米で公開されるや否や大ヒット、これまでDCEUと相性が悪かったRotten Tomatoesの評価もレビュワー、オーディエンス共に90%超のロケットスタート、大傑作らしいことが早くも判ってしまった『ワンダーウーマン』と見比べてみるのも興味深そうですよね。

Eyecatch Image: https://www.amazon.co.jp/Mighty-Captain-Marvel-Vol/dp/1302906054/

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。