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【インタビュー】『21ブリッジ』監督、チャドウィックの笑顔わすれない ─ 没入感とリアルタイム感へのこだわり語る

21ブリッジ
©2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマンが主演と製作を務めた最後の映画、『21ブリッジ』が、2021年4月9日より日本公開となる。危険なまでに正義を求めるニューヨーク市警殺人課のアンドレ刑事が、真夜中のマンハッタンを舞台に、コカインの強奪犯を命がけで追うクライム・スリラーだ。

犯人の逃亡を防ぐため、マンハッタンに架かる21の橋すべてを封鎖し、一夜限りの緊急ロックダウンで犯人を追い詰める。タイムリミットは午前5時。朝がやってくる前に、アンドレは逃げた犯人2人を捕まえなければならない。だが、追跡を進めるうち、夜よりも深い闇の陰謀が潜んでいることに気付いていく……。

THE RIVERでは、監督のブライアン・カークとの単独インタビューを敢行。監督はロンドンからビデオチャットをつなぎ、『21ブリッジ』の裏話や、故チャドウィック・ボーズマンへの思いをじっくり語ってくれた。

21ブリッジ
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マイケル・マン監督作からの影響

──お元気ですか?この映画を製作されたころから、世界はすっかり変わってしまいましたよね。この映画ではマンハッタンがロックダウンされますが、今では現実世界で、世界各地でロックダウンが行われているんですから……。(編注:撮影は2018年9月に開始されていた。)

その通りですね。映画製作や劇場鑑賞における集団体験、人と集まって隣に座れたことが、いかにありがたいものだったかを思い知らされました。ここロンドンでも、また劇場が再開される日を願ってやみません。昨年(2020年)は、知らない人たちと暗い場所(劇場)に逃避して、大好きな物語を観れることが恋しくてたまらなかった。

──僕はマイケル・マンの作品が大好きなのですが、『21ブリッジ』での夜景の写し方が、マン監督作のような雰囲気でグッときました。今作の撮影監督は、マン監督作の『コラテラル』(2004)と同じポール・キャメロンということもありますよね。やはり、マイケル・マンからの影響はありますか?

あります。幸運なことに、数年前にロサンゼルスで、マイケル・マンとテレビドラマ「Luck(原題)」でご一緒させていただいたんです。彼の影響で、もっと映画を作ってみたいという気になりました。『ヒート』(1995)や『ラスト・オブ・モヒカン』(1992)『インサイダー』(1999)や『コラテラル』は何度も観ていて、多大な影響を受けています。マイケルの映画はたくましくて、とても直感的で没入させられる。細かさとスケール感のバランスが素晴らしく良いんです。

今作でも、何よりもアンドレ(チャドウィック・ボーズマン、主人公の刑事)とマイケル(ステファン・ジェームス、強盗犯)の立場に立って、正反対のふたりがやがて一体になっていくような感覚を味わってほしかった。それと同時に、軍事侵略スペクタクルらしさも出したい。その両立が難しいところでした。それから第3の要素としては、刻一刻と状況が動くリアルタイム感です。たとえば『コラテラル』でも顕著ですね。

撮影のポール・キャメロンは、マイケル・マンのみならず、トニー・スコットなど錚々たる人たちと仕事をしてきた経歴がありますが、それよりも私が魅せられたのは彼のライティング(照明)です。人の皮膚の照らし方がすごい。今作のように、主人公と相手役の両方がアフリカ系で、夜の街を駆け回るということになると、スキントーンや顔の形を繊細に捉えなくてはなりません。ただドンパチやってるアクションフィギュアみたいなものではなく、しっかり人間らしく描くためです。

21ブリッジ
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チャドウィック・ボーズマンとの思い出

──この映画について語るにあたって、チャドウィックが亡くなったという事実は、どうしても避けられません。正直なところ、彼の新作がこうして今も日本で公開されるとあって、まだ彼がいなくなったことが信じられないです。

私も彼の不在が想像できず……、チャドウィックはまだ旅を始めたばかりだったのに。映画スターになって、すばらしい仕事をされて、文化的なリーダーにもなった。そういう責任感もわかっていた。これからは、そうしたアイコニックな存在になっていく道半ばでした。

撮影現場でも、とても存在感がありました。その時も、死の病と闘っていただんて信じられません。とても活き活きとしていました。印象的なのは、彼のしびれるような笑顔です。自分の務めにも、非常に一生懸命でした。それなのに、人知れず病と毎日闘っていたんですね。

『21ブリッジ』
©2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

撮影開始の前日のことを覚えています。チャドウィックがLAから飛んできて、私たちはニューヨーク市警にブルックリンを案内してもらいました。その翌日の朝、ニューヨーク市警の元戦術指揮官の方から訓練を受けるために射撃場に向かいました。みんなで車に乗り込むと、彼が「すごく具合が悪い」と言うんです。私は時差ボケかなと思ったんですが、彼は「今日はどれくらいできるか分からない」と。私が、「別にいつでもできるわけだから、今日は2、3時間だけやりましょう」と言うと、彼も「わかりました、2、3時間だけ」ということで、朝8時に射撃場に出発しました。

それで、結局帰ったのは夕方5時です。チャドウィックは一度やり始めると、ものすごい集中力で。それも、ただトレーニングをするだけでなく、その向こう側にあるキャラクターの精神性、人間性までをも吸収していくんです。アメリカで生きる黒人として、警察官の役にすんなりと自分を見出すというのはできないでしょう。それだけ準備を丁寧にやって、役を身につけていったんです。だからこそキャラクターがきちんと仕上がったんです。

21ブリッジ
©2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

彼は毎日、笑顔で仕事をしていました。最後に撮影したのは、午前3時のマンハッタンの場面です。実は彼はもうその夜、先にクランクアップしていたのに、現場にやってきて最後の撮影を見届けてくれたんです。本当に、撮影を始める前から、最終日の最後の瞬間まで、一生懸命、私たちを助けてくださいました。(撮影後の)編集作業でも意見をくれたし、宣伝にも協力してくれました。すさまじく寛大な方です。大きな遺産を残してくれました。役者として、映画スターとして、そして、心の扉を開けてくれる人として。

最も悲しいのは、彼のそういった姿が、もう見られないということです。

──彼が亡くなってから、『21ブリッジ』を観直しましたか?

はい。訃報を聞いた次の日には『ブラックパンサー』を観ました。自分の中で、ニュースを受け入れるために。

彼の死はたいへん悲しいですが、同時に、彼の旅に加わることができた自分はとんでもなく幸運だったのだとも思います。最も偉大な役者と一緒の時間を過ごすことができたのですから。彼の記憶は失われないでしょう。

21ブリッジ
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──チャドウィックと、『21ブリッジ』の続編や新作の話はされていましたか?

いいえ、話していません。でも、彼がまもなく別の映画に取り掛かろうとしていたことは知っていました。そちらの準備も非常に熱心にやっていました。また何か一緒にやりましょうということは話していました。具体的な話まではしていませんでしたが。

──『アベンジャーズ』シリーズで知られるルッソ兄弟が製作に参加していますね。彼らとの仕事はいかがでしたか?

最高でしたよ。私をこの企画に招き入れてくださって、チャドウィックの参加も彼らのおかげですし、あらゆる場面で、キャストやクルーの招致を手伝ってくださいました。言うならば、この企画のゴッドファーザーですね。おふたりとも、あらゆる場面で我々に挑戦と安心を与えてくださいました。

──『21ブリッジ』の公開は、ここ日本が世界的に最後の国となりました。そして、チャドウィックの死後に公開されるということになりました。日本の観客に伝えたいことはありますか?

昨年(2020年)の出来事で、私たちはみな隔離された状態になりました。この映画の根底にあるのは、「つながり」への欲求です。それに、映画館で映画を観るということも、物語を通じて「つながり」を感じられる体験ですね。この映画を劇場で観るときに払うお金というのは、映画だけでなく、その製作や物語、人と人がつながる芸術にも向けられています。御礼を言いたいです。

──ありがとうございました。できれば、この映画のPRで日本にも来られたら良かったですよね。

本当に、映画の公開に合わせて日本に行きたかったです。残念ながら叶いませんでしたが、きっと次回作で。日本の観客の皆さんと一緒に『21ブリッジ』を観たかったです。後ろの座席に日本の観客がいる感じを味わいたかった。

まだ日本に行ったことはありませんが、日本には素晴らしいフィルムメーカーがたくさんいますし、文化も風景も素晴らしい。いつか必ず行きます!

このインタビューの中で監督は、映画のクライマックスシーンの解説も披露してくれた。そちらはネタバレ内容ということで、後日別記事にてお届けする予定だ。お楽しみに。(追記:記事を公開いたしました。【ネタバレ】『21ブリッジ』クライマックス解説 ─ 『フレンチ・コネクション』からの影響、衣装の意図

映画『21ブリッジ』は2021年4月9日、日本公開。

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THE RIVER編集部THE RIVER

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