【レビュー】『28年後… 白骨の神殿』は地獄を見せてくれる ─ 残虐なる新境地、それでもなお美しい
生き延びた。前作『28年後…』(2024)から、命からがら生還した。でも……あれは別の形の地獄の始まりに過ぎなかった。この世界に、救済など存在しなかったのだ。2026年1月16日公開の続編『28年後… 白骨の神殿』、準備はいいか。
原点作『28日後…』(2002)は、いわゆるゾンビ映画のジャンルにおいて「走る感染者」「感染パニック」「終末世界のリアリティ」といった新たな視点を取り入れ、革命的な作品となった。新シリーズを立ち上げた前作『28年後…』までは、感染者から逃げ延びるためのサバイバルと緊張感が支配的だった。だが本作ではテーマを拡張。人間はどこまで残虐になれるのか、人間はどこまで善を信じられるのか、という二律背反の問いを鋭く突きつける。
前作『28年後…』では、オリジナル版で描かれたパンデミックから28年後を舞台に、孤島での過酷な生活を送るスパイク少年(アルフィー・ウィリアムズ)とその両親が描かれた。支配的な父に背き、たった一人で危険な本土に旅立ったスパイクは、前作のラストで感染者に襲われたところ、全員金髪のカルト集団“ジミーズ”に救われていた。
物語は、スパイクがジミーズへの加入儀式を強いられる場面からスタートする。彼が身を置くことになるのは、“覇王の息子”を自称するジミー・クリスタル(ジャック・オコンネル)が支配する、猟奇的な暴力と偽りの信仰が渦巻く一団だった。彼らは、悪魔の名の下に残虐行為を正当化する鬼畜たち。感染者と違って言葉は通じるはずなのに、常識も倫理もまるで通用しない、“非人間”の恐ろしさ。

感染者たちは、相変わらず容赦なく襲いかかってくる。だが本作において、彼らはもはや最大の脅威ではない。物語の重心は、悪魔崇拝者ジミーとその教団が体現する、非人間の狂気と暴力へと不気味な形で移行している。勇敢に成長した前作主人公のスパイクでさえも慄いて、彼らの凶行にできるだけ関わるまいと、物語の影に隠れようとするほどだ。
代わって中心人物となるのが、前作にも登場した医師イアン・ケルソン(レイフ・ファインズ)。彼は無神論者でありながら、善そのものを信じ続けている。文明が崩壊した世界で、亡き人を弔う記念碑に暮らしながら、旧世界の性善説をたった一人で護り続ける存在だ。「メメント・モリ(死を想え)」と前作で優しく説いたケルソンは、本作で“善”の最後の砦となっている。

ケルソンが試みるのは、極めて凶暴な感染者の個体、いわゆる“アルファ”であるサムソン(チ・ルイス=パリー)を、暴力ではなく“治療”によって鎮めること。単なる医学的挑戦ではない。奇跡でも、祈りでもなく、人間の手によって人間性を取り戻そうとする、この劇中世界において痛ましいほどに尊い試みである。
ここで浮かび上がるのが、本作の明確な対立構造だ。感染者よりも残虐な悪を体現する悪魔崇拝者ジミーと、神ではなく人の善を信じて積み上げる医師ケルソン。本作は鏡像的に配置された二者の狭間を揺れ動くようにして進み、やがて「誰がどう生き延びるか」ではなく、「何が人間として残されるのか」という地点へとたどり着く。
ジミーの恐ろしさとは、暴力性そのものよりも、暴力を「物語」に変換してしまう点にある。彼は自らを“覇王の息子”と名乗り、信仰めいた言葉を振りかざしながら、手下たちの残虐行為を正当化していく。そこには感染者のような衝動はない。むしろ冷静で、計算され、言葉によって共有される悪だ。本作が描く恐怖の本質は、理性を失った怪物ではなく、理性を保ったまま人を惨たらしく殺せる存在が生まれてしまったことにある。
感染者と戦う極限サバイバル・スリラーから、猟奇的な人間ドラマへと発展した点は好みが分かれるかもしれない。しかしながら新シリーズ2作目にして題材面や視覚面でのマンネリを鮮やかに回避し、新たな可能性や謎の解明に挑んだのは、紛れもなく賢明な進化だ。シリーズはさらなる野心のもと、救いなき世界の血塗られた深部へと進む。強烈なほどに暴力的でありながら、どこか詩的な儚さを帯びていた前作に続き、この続編の中核にも思いがけず尊い美しさを見つけることができる。
シリーズ創設メンバーのアレックス・ガーランド(『シビル・ウォー アメリカ最後の日』2024)が前作に引き続き脚本を執筆。1作目と前作監督のダニー・ボイルは製作に周り、メガホンは『キャンディマン』(2021)を甦らせた若きニア・ダコスタに継承された。前作で大きな話題を呼んだiPhone撮影による野生的な映像演出もきちんと踏襲しながら、ゴア描写はより過激化。スナッフめいたハードコア描写も噴散する。

「本作のホラー要素は何段階にも分かれている」と、監督のニア・ダコスタは巧妙なレイヤー分けがなされた恐怖演出を語っている。「ジャンプスケアもあるし、アクションホラーもあれば、正体不明のジミーズという心理的ホラーもある。流血や暴力といった直接的なホラーもあって、心を揺さぶる角度がどれも違う。その一つ一つを的確な場所に配置して、確実に作用させるように注力した」
スパイク役のアルフィー・ウィリアムズ、ジミー役のジャック・オコンネル、ケルソン役のレイフ・ファインズらは前作から続投。前作でMVP級の存在感を放ったファインズは、この荒寥とした続編にも深い人間味をもたらしている。オコンネルは『罪人たち』(2025)でも見せた悪夢的な笑みで、またも観客をゾッとさせる。“アルファ”個体であるサムソン役のチ・ルイス・パリーの野生的な演技は、予想もしない共感性をもたらすほどに魅力的だ。
神は沈黙し、奇跡も起こらない。それでもなお、善を信じ、行為を重ね、誰かに託されていく人間性だけが、神話として残されていく。『28年後… 白骨の神殿』は、救いなき時代に生まれた、極めて残酷で、人間臭く、そして歪な創作神話なのかもしれない。すでに続編となる3作目の製作も決定済みで、本作では次に繋がるサプライズも飛び出す。劇場でリアルタイムに体験するべきだ。

ここまで過酷な新境地を、誰が想像できたものか。映画『28年後… 白骨の神殿』は2026年1月16日、日本公開。
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