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音楽は映画の世界への架け橋!ピアノ教師がお薦めする「冬休みに観たい音楽映画」6選

カンヌ映画祭で最高賞に輝いた、私の尊敬するミヒャエル・ハネケ監督による『愛、アムール』は、作中ではピアノを弾くシーンがありますが、BGMやエンドロールには音楽がまったく使っていません。時として音楽は鑑賞者の想像力の邪魔をする、というのがその理由です。
一方、2015年の第87回アカデミー賞で作曲賞を受賞した、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』は、民族調の音楽をふんだんに使うことによって、ストーリーを力強く引っ張っています。どちらが良いというわけではなく、表現方法の違いなのですね。

映画音楽は主張し過ぎてもいけませんが、ほどほどに聴覚を刺激してくれると本当に心地良いものです。先日観てきた『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の音楽は大変バランスがとれていて、エンドロールの曲まで創り手の想いが込められていました。音楽の力は偉大です。
そこで今回は、音楽がモチーフの映画を6つご紹介しましょう。クラシック音楽がメインの作品と、そうでないものがあります。私はピアノ教師をしているのですが、映画を観る上で、音楽はその世界観への架け橋になると考えてチョイスしてみました。

1.『ヤング@ハート』(2008年)

音楽は心の薬

平均年齢80歳のコーラス隊「ヤング@ハート」の活動を追った音楽ドキュメンタリーです。普段はクラシックやオペラ、ミュージカルが好きなおじいちゃん、おばあちゃん達が、ロックやパンクのポジティブな歌詞に人生のメッセージを感じ、パワフルに歌い上げます。

言葉、音楽にはエネルギーがあると言われています。その言霊、音霊の相乗効果で、希望と生きる力が溢れてくるのかもしれません。美しい音楽や話を聴いたとき、美しい風景や絵を見たとき、ふと涙がこぼれるのは何故でしょうか。それは“真、善、美”のエネルギーに反応し、感動するから、また私たちが生まれながらに“良心”を持っているからです。
この映画ではメンバーやスタッフ、観客の一体感を味わえるほか、みんなと一緒に歌うのが楽しくて歌う彼らの喜びは、じつは観客が喜ぶことでもあり、人の役に立てることがどんなに幸せなことかも教えてくれます。コールドプレイの名曲も出てきますよ~!

2.『奇跡のシンフォニー』(2007年)

直感を研ぎ澄ませて、希望よ天に届け!

孤児の少年が音楽と出会い、音楽によって両親との絆を取り戻す感動のファンタジードラマ。『ネバーランド』『スパイダーウィックの謎』の子役、フレディ・ハイモアが主人公の少年を熱演し、今は亡きロビン・ウィリアムズも良い味を出しています。ギターがカッコいいのでギター好きの方にもお薦めです!

音楽を演奏する両親の元に生まれた主人公オーガストは、その遺伝子を受け継ぎ、神様からの贈り物である類稀なる才能を持っています。そんな彼は、音楽を演奏すれば両親に会えると信じているのです。
この確信はどこからくるのでしょうか。それは、やはり直感だと思うのです。直感は幸せへと導いてくれるメッセージで、歩むべき方向性や人生のテーマを示しています。シンクロニシティ(意味のある偶然)もまた、「やることがこっちの方向にありますよ」というメッセージで、目に見えない力が働いていることが解ります。
幸せになるためには、理性よりも直感を信じて従うことだそうです。直感を研ぎ澄ますには、音、色、香り、味、手触りといった五感を大切にして、自然や動物に触れて、感情を抑え込まずに思いっきり泣いたり感動したりすることがよいのです。

監督自身が「スピリチュアルな物語」と言っているように、本作は女性監督ならではの感性で、直感・奇跡・導き・シンクロニシティなど、目に見えない力の存在を十分に見せてくれる秀作です。ストーリーや結末などは予測できても、ラストの演奏シーンでは思わず涙がこぼれます。そこに言葉はありません。全てが繋がった瞬間、あるのは音楽と愛と……。私の人生でベスト10に入るラストシーンを、ぜひ体感してください!

3.『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007年)

憎しみを糧として生きてきた男の血の涙

ブロードウェイ・ミュージカルの巨匠、スティーヴン・ソンドハイムによるトニー賞受賞ミュージカルを、ティム・バートンが映画化した作品です。ジョニー・デップが、これまでにも映画や舞台で数多く取り上げられてきた伝説の殺人鬼、スウィーニー・トッドを演じています。

注目は、登場人物たちのクセや嫌味がない心地良い歌声と美しいハモリ。ジョニー・デップはアラン・リックマンと口笛でデュエットまで披露してくれてびっくり! 「ズンチャッチャッ」という不気味なワルツが、復讐への歓喜と狂気を奏でます。
怒りや憎しみというネガティブな感情に心を乗っ取られるうちに、同じような波長を持った人間たちを引き寄せてしまう、そんな彼の人生の結末は……?

人間なら誰でも持っている“闇”の部分をこれでもかと見せつけてくれる作品です。心のアンテナをピンと立てて、彼の人生を想像してみてください。慈しみの涙が流れてくるかもしれません。

4.『僕のピアノコンチェルト』(2006年)

大空に羽ばたく飛行機のように

周りになじめないピアノの天才少年が、自分の道を見つけていく物語。祖父役を『ヒトラー ~最期の12日間~』などの名優ブルーノ・ガンツが演じています。12歳のヴィトスに扮するのは天才ピアニストのテオ・ゲオルギュー。彼の演奏シーンが見所です!

シューマンの「ピアノ協奏曲第1楽章」冒頭の力強い付点のリズムから、主題のオーボエの甘く切ない旋律へ。それがピアノへと引き継がれ、少年は飛行機へと近づいていく……。この序章が映画のラストへと繋がっていくのです。
主人公ヴィトスは、6歳にしてIQが高すぎて計測できないほどの天才児。両親は彼の才能を伸ばそうと音楽学校に入れ、自分たちの敷いたレールの上を歩ませようとしますが……。生まれながらにして与えられた才能は誰にでもあります。それが余りに秀でていると“天才”や“神童”と呼ばれ、表面的な華やかさとは裏腹に、孤独や苦しみが付きまとうものです。

ヴィトスはオーケストラという舞台(人生)の中で、ピアノという楽器でその才能を発揮しながら、周りのフルートやヴァイオリンなどの楽器(人)と調和をとり、愛というハーモニーを奏でることができるのでしょうか?

クラシック音楽を知らなくても楽しめる映画です。サントラも発売されていますので、クラシック音楽を好きになるきっかけになるかもしれませんね。

5.『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』(2007年)

愛すること、歌うことは生きること

フランスの伝説的歌手、エディット・ピアフの壮絶な人生を描いた作品です。

マリオン・コティヤールの目の動きや顔の角度、垢抜けない若い頃の前かがみの姿勢、おどおどした感じ。そして絶頂期の美しく堂々とした風貌や、40代にして老人のようになってしまった晩年の痛々しい姿。ピアフへの思い入れがひしひしと伝わる熱演ぶりに魅了されます。
劇中ではコティヤールが歌を実際に歌った(一部は古い録音も使った)そうで、インタビューでは、努力と特訓の末に声の出し方や立ち振る舞いまでがピアフと同化し、彼女が自分の中に存在するかのような奇跡が起こったと言っています。きっとマリオン・コティヤールにしかできない、彼女が演じるべくして演じた役なんですね。

ピアフの低音で力強い、のびやかでハリのある歌声が、多くの人々の心を揺さぶり訴えかけるのは、生まれついた才能と生い立ち、様々な体験と愛があったからなのだと気づかされる作品です。波乱万丈で凄まじい人生を送り、自由奔放に周りを振り回しながらも、大切な人々との友情を育んで、自分に正直に生きてきたエディット・ピアフ。47歳という若さでこの世を去ってしまった、彼女の人生の一部を疑似体験してみませんか?

6.『オーケストラ!』(2009年)

宇宙との一体感

昔は一流オーケストラの天才指揮者だった中年清掃員が、急きょ出演できなくなった楽団の代わりに、昔の楽団仲間を集めてコンサートに出場しようと奮闘する物語です。前半はユーモアたっぷりで笑えます。
注目は、ヴァイオリンの弾き方は多少ぎこちなさがあるものの、『イングロリアス・バスターズ』よりも更に美しさを増したメラニー・ロラン。またアレクセイ・グシュコブの指揮振りはしなやかで温かみがあり、まるで本当の指揮者のように見えます。

「何故、苦しい状況にあっても演奏するのか?」という問いに、ベルリンフィルのベテランの楽団員が以前こう語っていました。「オケのハーモニーがぴたっと合う瞬間がある。そのためだけに演奏する。それは宇宙との一体感だ」と。この映画でもそういうシーンがあるので、是非その一体感を味わってみてください。

12分22秒間の素晴らしいコンサートで奏でられる、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」。この世のものとは思えない美しさに涙が止まらなくなるはずです。そら(宇宙)に届くほど高く、まさに崇高な高みへと、観る者を連れて行ってくれることでしょう。この曲を知らなかった方でも、大好きになってCDを買いたくなるかも……。は~い、「あり得ない」と言うツッコミが聞こえてきそうですが、ひとまずそこは考えずに笑って泣きましょう!

Eyecatch Image: http://etv2.err.ee/v/lasteekraan/lastefilmid/koolivaheaja_filmid/saated/946a404b-00b7-444a-9fca-616536187bdf/koolivaheaja-film-imelaps-vitus-sveitsi-2006

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プルーン

ピアノ教師、美容研究家、ライターetc.

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