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じっくり堪能『アド・アストラ』、ブラピ熱演に魅せられて ─ 見どころを映画ソムリエ東紗友美が解説

アド・アストラ
(c)2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ブラッド・ピットがキャリア史上最高と評される圧巻の演技を観せた『アド・アストラ』ブルーレイ&DVDが、2020年1月8日(水)に発売&レンタル開始となる。これに先がけて、2019年12月18日(水)には先行デジタル配信も開始されている。

地球から遥か43億キロ離れた、太陽系の彼方で消息を絶ったロイ・マクブライド(ブラッド・ピット)の父、クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)。初の太陽系外有人探査計画の司令官であるクリフォードは、探索に出発してから16年後に消息を絶った。だがクリフォードは、人類を滅ぼす脅威として生きていた……。

深奥な宇宙を舞台に、ふと心に残るのは人間愛的なメッセージ。『それでも夜は明ける』(2013)『ムーンライト』(2016)など、アカデミー賞作品賞に輝く数々の傑作を生み出す「プランB」がこだわり抜いて製作した、壮大さと繊細さを兼ね備えたような作品だ。

この作品のリリースを記念して、THE RIVERでは特別ゲストに映画ソムリエの東紗友美さん(@higashisayumi)をお招きした上映会を開催。『アド・アストラ』についてのお話をうかがった。

特別ゲスト:東 紗友美さん

成城大学文芸学部卒業。4年間在籍した広告代理店を退職し、映画ソムリエとして独立。テレビ・ラジオなどで映画紹介する他、映画イベントMCや、ウェブや雑誌でも映画コラムを執筆中。また、映画をコンセプトにしたカフェのプロデュースなども幅広く活動。今年、一児の母に。この冬から若手監督向けの映画祭審査員や映画番組の司会も決まっており、映画業界を目指す若き才能を育む活動も展開。

「自分自身と人間関係の再構築」描く

東さんは『アド・アストラ』について「これまでのSF映画にはない、非常に深い普遍的なメッセージがある」と力説。「自分の弱さを知ることで、自分をゼロ地点に戻して、改めて再構築していく話でもあります。『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007)『キャスト・アウェイ』(2000)を彷彿とさせられました」と、ソムリエらしく過去の名作との比較も。「友達でも家族でも恋人でも、疎遠になってしまった相手と物理的な距離が縮まることで、否応無しにも向きあわざるを得なくなるという意味では『クレイマー・クレイマー』(1979)、呪われたホテルに戻ることで自分自身と向き合う『ドクター・スリープ』(2019)にも似ている部分があります。」

さらに、「吹き替えで観たんですが、新海誠作品のようにも感じました」との持論も語った。「吹き替えで観ると、主人公の自分語りがより印象的なんです。少し殻に閉じこもったような……。」劇場では字幕版で観たという方も、ブルーレイ&DVDでもう一度吹き替え版で楽しんでみて欲しい。「また違った面白さがありますよ。」

アド・アストラ
(c)2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

東さんによれば、『アド・アストラ』の「衣装」には変わったこだわりが込められているのだという。それは、「できるだけ印象に残らないように作る」こと。「そんなオーダー、なかなか無いですよね。宇宙を舞台にしながら、印象に残らない衣装を作るのって、逆に難しいと思うんですよ。引き算をして、広大な宇宙の中にある孤独が際立つように、メッセージだけを切り取るようにして仕上げたんだなと。」実際に本作の衣装デザイナーのアルバート・ウォルスキーは「ジェームズ(・グレイ監督)はありふれたスタイル、ほぼ普通のものを望んでいた」「目立たないこと、当たり前であることほど、難しいことはない」と、またジェームズ監督も「登場人物が、着るべきものを着ているというだけにしたかった」と語っている。こうしたデザインからも、『アド・アストラ』が従来的なSF映画の概念に囚われず、より真実味のあるドラマを描こうとしていることが分かるだろう。

アド・アストラ
(c)2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ブラッド・ピットが魅せたキャリア史上最高の演技

これを支えるのが、ほぼ一人芝居とも言えるブラッド・ピットの熱演だ。東さんは今作のブラッドについて「過去最高の演技。今年は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』もありましたが、全然違う演技を見せています」と評し、こう分析する。

「なぜブラピの演技が素晴らしかったのか?彼の実生活が影響していると思うんです。本作の撮影は2017年頃からですが、ブラピは2016年にアンジェリーナ・ジョリーと離婚していて、そこで揉めてるんですよね。最近ではお互い近所に住んでいるくらいに落ち着いたそうなんですが。劇中にさらっと登場する恋人役のリヴ・タイラーも、アンジーにどこか印象が似ているような気もして……。

ブラピとアンジーの間には実の子供が3人、養子が3人いますが、長男のマドックス君との仲が良くないらしい。でも、ブラピはマドックス君のことが好きなはず。『アド・アストラ』の親と子供という視点は、相当意識しているのでは。ブラピから子どもたちへの、ラブレターのようにも思います。」

そんなブラッドが「キャリア最高の演技」を見せていると絶賛が止まらない東さんは、「2回目を観た時に、ブラピの演技の素晴らしさをひしひしと感じました」と続ける。「クライマックスに近づくにつれ、演技が変わっていくんですよ。無感情だったところから、漏れ出してくるような感情の演技。特に、動転する目の演技が素晴らしかった。」

物語で最大の鍵となるのが、探索に出発してから16年後に太陽系の彼方で消息を絶った父クリフォード。演じるのは、東さんが「宇宙と縁のある男ナンバーワンでは」と言うトミー・リー・ジョーンズだ。「“この惑星の住人は…”の缶コーヒーのCMも、今年で13年目ですって。『メン・イン・ブラック』でも宇宙人と対決しているし。それから忘れられないのが『スペース・カウボーイ』(2000)。本作のドナルド・サザーランド(トーマス・プルイット大佐役)も出演しているんですよ。『スペース・カウボーイ』のトミー・リー・ジョーンズは宇宙に旅立って帰ってこない役どころでしたが、本作と比較してみるのも良いですよね。素晴らしい演技です。」

「心の旅のような作品」読者の鑑賞レビュー

上映会に参加した読者も、『アド・アストラ』の染み入るようなメッセージを堪能したようだ。「心の旅のような作品」「涙があふれて仕方なかった」(“きゃも”さん)、「広大な宇宙に小さな世界。その対比に感動」(“ひろひろ”さん)、「すんなりと主人公に感情移入できてしまい、共に宇宙を旅している気持ちになれた」(“うさぎ”さん)といった感想が寄せられた。

内省的な物語については、「『インターステラー』『2001年宇宙の旅』…外に希望を求めていくのがSFの常。」「2019年、21世紀がもう未来ではなく今である現代に、宇宙飛行士でさえもかつてのカウボーイのように古い存在になったことを観客に叩きつける。少なくとも今目を向けるべきは、外でなく内、遠くでなく近くである」( “谷山亮太”さん)との鋭い考察も。「目新しいSFでした。シンプルで静かな映像が美しかった。」(“ちいまめ”さん)「いろいろ情報が削られているように見えて、複雑に交わっているように感じた」(“Roy”さん)、「設定がとても深く、丁寧に作りこまれて作品に入り込んで観ることができました」(“SUNSHOWER”さん)など、引き算的に洗練された世界観には多くの好評が集まっている。

「人とのコミュニケーション。思いやる気持ち、深求心。」(“森さおり”さん)「身近な人を大切にしたいと思いました。先のことはわからないけれど、心を開いて人にゆだねること。」(“イケダ”さん)……『アド・アストラ』は、広大な宇宙を舞台としながら、自分自身にとって大切な「何か」や「誰か」を改めて見つめ直すことができる、素朴で普遍的なメッセージが込められている。まるで、深呼吸するような作品だ。時間の取りやすい年末年始に、じっくり鑑賞するのにピッタリ。東さんは、「恋人とうまくいかないことがあっても、この映画のメッセージを大切にして欲しいですね」と締めくくった。

アド・アストラ

『アド・アストラ』ブルーレイ&DVDは、2020年1月8日(水)に発売&レンタル開始。先行デジタル配信中。

発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
©2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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