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【レビュー】『アヒルからの贈り物』小さな大冒険に心震える傑作【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

オリヴィエ・ランジェ監督のベルギー映画『アヒルからの贈り物』は、2人の少女の冒険と成長を描いた児童映画であり、文句なしの傑作だ。

『アヒルからの贈り物』あらすじ

キャシーの両親は離婚している。現実主義のママは、いつも自由人のパパの文句ばかり言っている。誕生日の朝、パパはキャシーに卵と孵化器をプレゼントした。「目にした最初のものをママだと思ってしまうから、孵化する瞬間は見逃さないように」と言って。ママは迷惑そうだったが、キャシーは卵がかえるのを楽しみに世話した。しかし、孵化の瞬間に居合わせたのはキャシーではなく、誕生会に遊びに来ていた車椅子のマルゴーだった。生まれたアヒルはマルゴーをママだと思ってしまった。キャシーは残念に思いながらも、マルゴーにアヒルの世話を託そうとするが、マルゴーの両親は猛反対で……。

ふたりの少女の強い意志と、大人たちの優しさ

マルゴーの両親にアヒルの引き取りを拒否されたキャシーは、いったんは持ち帰るものの、元気をなくしたアヒルを見てこっそりマルゴーの家にアヒルを持っていく。隠れてアヒルを育てはじめるふたりだったが、紆余曲折あるものの、結局のところ親たちはなんとしてもマルゴーとアヒルを引き裂こうとする。

アヒルと自分とを重ね合わせて落ち込むマルゴーを見て、キャシーは思い切った行動に出る。キャシーとマルゴーの大冒険の始まりだ。たった2日間ではあるが、彼女たちは何度も挫けそうになりながらも、お互いを鼓舞して突き進んでいく。キャシーはアヒルを救うために、マルゴーのために。マルゴーは、アヒルを救うために、そして自分を信じるために。

静かで美しい自然と、ポーカーフェイスのキャシーと、思うように身体を動かすことができないマルゴー。派手な演出はなにもない。それなのに、決して饒舌でも表情豊かでもないふたりから発せられるパワーに、ただただ圧倒されてしまった。映画の冒頭、パパと会話するキャシーは、表情が乏しく少しぎこちない様子だった。その後、ママと会話するキャシーはニコリと笑う。私はてっきり、パパに心を開けていないのかと思ったが、それは間違いだった。徹底したポーカーフェイスの下に、誰よりも強い意志や激しいパッションを秘めているキャシーこそが、本当の彼女の姿だったのだ。頑固で、一本気で、行動力があって、利発で、そして誰よりも優しいキャシー。娘を心配しすぎている両親により、自信を失いかけていたマルゴーもまた、強い意志と行動力を持ち合わせていた。ふたりは無敵のペアなのだ。

そして、ふたりをとりまく大人たち。詳しくは実際に本作をご覧いただきたいのだが、ふたりの冒険をとりまく大人たちは皆、ふたりのことを“信じて“あげた。それは、アヒルを飼うことは不可能だと決めつけたマルゴーの両親(と、キャシーのママ)が見失っていたポイントだった。子供の成長のために最も必要なことは、信じてあげること。そして、子供が成長するために最も重要なことは、自分自身を信じること。冒険を成し遂げたふたりの姿に、私の目からは次から次へと涙が溢れて止まらなかった。

『アヒルからの贈り物』		(C)Ring Prod
『アヒルからの贈り物』 (C)Ring Prod

『アヒルからの贈り物』は傑作だ。いや、大傑作だ。この作品を観て心が動かされない人間などいないのではないだろうか?ぜひ、自分の目で確かめてみてほしい。最後に、アヒルの子の可愛さにノックアウトされること間違いなし、という点も付け加えておこう。

『アヒルからの贈り物』 (C)Ring Prod

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umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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