【インタビュー】僕がひとりで長編アニメ『Away』を完成できた理由 ─ 「制約を逆手に取って考える」

3年半。たったひとりで、長編アニメ映画作りに勤しんだ。ストーリーはもちろん、キャラクターデザイン、アニメーション、編集、SE、そして音楽まで。だから、映画『Away』(2020年12月11日日本公開)のエンドクレジットに登場する制作者は、ギンツ・ジルバロディス。その、たったひとりだけだ。
ラトビア出身、1994年生まれ。本記事時点26歳だ。アニメ作りを始めたのは8歳のころ。2010年には、始めて短編アニメ「Rush」を公開。冬の夜の街を舞台に、雑踏をさまよう男性を描いた1分25秒の作品だ。その後も1〜2年おきに短編アニメを公開した。

本編時間約75分の『Away』はジルバロディスにとって、始めての長編アニメとなった。「それが自然な流れだと思ったからです」と、ジルバロディスはTHE RIVERに語った。「短編作品をたくさん作ってきて、今度はもっと違ったことを、よりキャラクターを掘り下げられることをやりたいと思いまして。いつも長編映画を観ながら、『いつか自分も』と思っていたんです。その時点で、自分の中で準備は出来ていました」。
『Away』では、無人島を舞台に、主人公の少年がバイクに乗って幻想的な景色の中を駆ける冒険が描かれる。飛べない小鳥と出会いながら、なぜかひたすら追いかけてくる黒い影から逃げる様子を、単独で作り上げたとはにわかに信じられないアニメーションで紡いだ。
ひとりで、全部 制約を逆手に取って
ひとりの想像は無限だが、実際にアニメーションに起こすとなると、そこには様々な制約が生じる。ジルバロディスは、その制約を逆手に取ることを考えた。主人公は劇中を通じてバイクに乗って移動するが、これは「キャラクターは座っていればいいので、(歩きや走りのように)動かさなくても良い」からだ。「アニメで作りやすいんですよね。ループをひとつ作ったら、アングルを変えて再利用できるから」。

ストーリーを考える段階から、「これを自分でアニメ化するんだということを意識しているので、できるだけ簡単になるよう、まず制約について考える。そうすると後が楽になる」と語るジルバロディス。そのため、登場するキャラクターの数も絞っている。「全部のキャラクターをアニメ化していたら、仕事が増えるから」とシビアだ。
「例えば『Away』では、黒いネコがたち出てくるシーンがあります。最初はそれぞれのネコに違うデザインや性格を考えていたんですが、それは難しすぎるし時間が食われる。だからネコはひとつのデザインで、それを何体もコピーすることにしました。コピーは簡単ですからね。正直、1体を何度もコピーしたら奇妙で機械的な印象になってしまうんじゃないかと心配だったのですが、結果として良い感じになったと思います。奇妙さが、いい意味で出てくれました。」

制約を利用した側面は他にもある。『Away』に限らず、ジルバロディスのアニメ作品には基本的にセリフがない。そうすると声優も不要になるからだ。『Away』で島を舞台にしたのも、「キャラクターが他人と話さなくていいから」という理由だ。「僕の他の短編では、耳が聞こえない人を描くものもあります(『Inaudible』)。その場合も、人の声を描かなくていい。それから、音を立てないよう忍び足の犯罪者を描く短編(『Followers』)もあります。そこでも話し言葉は不要になる。そうやって、制約を逆手に取ってストーリーを考え始めるんです」。
「ほとんど趣味でした」
たったひとりでアニメ映画を作ると聞くと、辛く、孤独な制作を想像してしまいがちだが、ジルバロディスに言わせれば利点の方が多い。「大予算、大規模チームで仕事をするよりも、自分ひとりなら全て自分のやりたいように出来ますし」と飄々と語る。