【特集】『バトルシップ』出演のリアーナ、歌姫からタフな海軍兵曹へ ─ 出演のきっかけはあの事件

映画『バトルシップ』(2012)で、口が悪く気の強い女性海軍兵曹コーナ・レイクスを演じるのはリアーナ。いくつもの世界的ヒット曲を持つリアーナは、何故キャスティングされたのか。また映画初主演となるリアーナにとって、役者の仕事はどう感じたのか。
この記事では、『バトルシップ』に登場した歌姫リアーナをめぐる事実の数々を、複数のインタビュー発言から解き明かそう。

リアーナ、米軍仕込みのトレーニングでしごかれる
「私の役は、レイクスというイケてる女です。超タフで、男の中に混ざっている。男たちと同じくらいハードにこなすんです。」
アメリカ海軍「ジョン・ポール・ジョーンズ」CICに所属するコーナ・レイクスは、男勝りな性格で他の男性クルーのケツを叩くようなパワフルなキャラクターだ。映画序盤のアメリカ対日本のフットボール試合では、モッシュ系ハードコアバンド”HOODS”のカットオフTシャツ姿で登場。倒れた男性プレイヤーを「だらしない、あんたオカマ?」と叩き起こした。
1988年生まれのリアーナは、2005年に歌手としてアルバム・デビュー。以来、トップチャートの常連アーティストとしてカリスマ的な人気を得る。ミュージック・ビデオやステージ・パフォーマンスでの彼女はセクシーでグラマラスなディーヴァのイメージが強いが、『バトルシップ』では屈強な女海軍兵曹を演じぬくため、小柄な身体を鍛え上げた。「武器を沢山担ぐから、上半身を鍛えなくっちゃいけなくて」と振り返る彼女は、「この映画のために、人生で一番腕立て伏せに励みました」と語る。
リアーナのトレーニングには、本物の兵士がトレーナーとして就いた。米軍仕込みのスパルタ教育で、心身ともにしごかれたようだ。
「面と向かって何度も罵られました。あの人は絶対に私をリアーナと呼ばなかったし、問いかけに答えてくれることもありませんでした。」
鬼トレーナーの存在に、しばらくはビビりまくっていたという。「彼が来たら、ハイヒールを全部隠して、ショッピングに出かけた後のショップバッグも、ピンクのiPodも全部一瞬で片付けていました。」
その厳しい訓練が『バトルシップ』の現場で役立った。「撮影現場に行けば、(演じる)キャラクターは表面的なものではいけないし、取り繕いも通用しない。自分の中にキャラクターを構築しておかなければいけないんです。だから(トレーニングは)必要不可欠でした。」
世界的歌姫を、荒々しい海軍兵曹の役として選んだ監督の思惑は何だったのだろうか。リアーナがピーター・バーグ監督の目に止まったのは、とある事件がきっかけだった。
『バトルシップ』リアーナ抜擢の理由
2009年、一枚の写真が世界中に衝撃を与えた。顔面を痛々しく腫らしたリアーナの顔写真だ。誰もが憧れるポップ・アイコンの顔は赤黒い痣に忌々しく歪められ、リアーナは暗闇の底で絶望に打ちひしがれ、瞳を閉じている。
2009年2月8日。第51界グラミー賞授賞式前夜、華々しいパーティを終えた後だった。リアーナは当時交際していた人気歌手のクリス・ブラウンと車内にいた。
クリスの携帯が鳴った。見ると、元カノからのメールだった。リアーナは腹を立て、口論になると、クリスは激昂。リアーナの頭部を窓に叩きつけ、左目を殴った。クリスは「マジで殺すぞ!」と叫んだというが、リアーナによれば「あの時、彼の目には生気がなかった」という。
沈黙を貫いていたリアーナだったが、事件から12日後、現時点で本件に言及することはないこと、自分は元気であること、サポートに感謝するとの旨の公式コメントを発表。約8ヶ月が経った同年11月には、テレビ番組のインタビューに登場。事件について、自分の言葉で詳細を語り、全米中の注目を集めた。
https://youtu.be/DjV8PWdZYR0
『バトルシップ』ピーター・バーグ監督も、視聴者の1人だった。インタビュワーの目を真直ぐ見据え、誠実に言葉を選び語る彼女の姿は、ピーター監督の胸にも響くものがあった。監督は語る。
「しっかりしているなと、興味をそそられました。リアーナを候補として考え始めたのはそれがきっかけです。ヒップホップを歌っているセクシーな女の子ってだけではないんだと。」
別の記事では、同インタビューをこのように振り返っている。
「彼女はシンプルな服装で、そんなにメイクもしていなくって、ダイアン・ソイヤー(インタビュワー)とフランクに話していた。その時、“この娘、思ってたよりもずっと強くて賢い人なんだな”と思ったのを覚えています。インタビューの中で、それが一番印象的でした。彼女には知られざる魅力がたくさんあって、ブリトリー・スピアーズではないんだなと、そんなことを考えていました。」
このインタビューをきっかけに、リアーナは「カリスマ性と自身に溢れている人だとはっきりわかった」という。この発見は好都合だった。実は監督自身も、かねてより作品にミュージシャンを出演させてみたかったというのだ。