【レビュー】『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』が教えてくれる、人生と死にまつわるメッセージ
ハチドリは何を象徴している?
劇中、ベンジャミンがマイク船長を看取る際、彼が「心配しないで、天国はいいところだ」と声をかけるとハチドリが羽ばたきます。もっといえば、少年となり認知症を患ったベンジャミンが屋根から「飛びたい」と口にする場面は“ハチドリの羽ばたき”を思わせます。ハチドリは“旅立った人の魂”や、その再生を象徴しているのかもしれません。死とは恐れるものではなく“新たな旅立ち”なんですね。
あるとき森が燃えていました。森の生きものたちは、われ先にと逃げていきました。でもクリキンディという名のハチドリだけは、いったりきたり、口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落としていきます。動物たちがそれを見て「そんなことをしていったい何になるんだ」と言って笑います。クリキンディはこう答えました。「私は私にできることをしているの」
[参考文献:『私にできること~地球の冷やし方』(ゆっくり堂)、 『ハチドリのひとしずく』(辻信一監修、光文社)]
この映画におけるハチドリの存在には、上記の物語にインスパイアされたかのような、「自分のできることをやり遂げ、自分らしく充実した人生を生きたい、ハチドリのように永遠に……」という、創り手の想いが込められているのだと私は解釈しました。
すべての経験が“宝”
劇中に何度も出てくる「人生は分からない」という言葉は、“宿命は変えられないが、宿命を受け入れた時に運命は変わる。運命は自分で創ることができる”とも解釈することができるでしょう。人は感動と経験をするために生まれてくる、ともいいますが、宿命という課題を克服し、喜怒哀楽の全てを経験することで心が豊かになるものです。「これが自分の人生です」「自分は人とは違うのだ」と胸を張って言えれば素敵ですよね。
そう考えると、無駄な経験はひとつもなく、すべての経験が宝なのです。ベンジャミンの“数奇な人生”は、まさにこのことを教えてくれました。どんな人生であっても、“生き抜くことに価値がある”んですね。思いを込めて精一杯生きることに……。
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