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【レビュー】『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』が教えてくれる、人生と死にまつわるメッセージ

今年も残りわずかとなりましたね。人それぞれだと思いますが、私にとって映画とは、自分とは全く違う人生を疑似体験することができる、かけがえのないものです。その疑似体験によって想像力を養うことができ、想像力が豊かになると生きることが楽になります。苦しいことや辛いことがあっても「AがダメならBがある。BがダメならCがある」という風に、想像力によって“ケセラセラ”の心で乗り切ることができるからです。

生と死、出逢いと別れ、人生の選択、夢と挫折、愛……。今回は、私たちが生きていく上で大切なメッセージが沢山ちりばめられた、宝石のような珠玉の作品『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)をご紹介しましょう。私が愛してやまない、人生の指針のようなこの作品を一年の終わりに観て、来年への希望につなげたいと思います。皆さま、良いお年をお迎えくださいね!

F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説を、『セブン』『ソーシャル・ネットワーク』『ドラゴン・タトゥーの女』『ゴーン・ガール』のデヴィッド・フィンチャー監督が映画化した傑作です。第一次世界大戦時から21世紀までのニューオーリンズを舞台に、80代で生まれ、徐々に若返っていく男の人生が描かれています。主演はブラッド・ピットです。

【注意】

本記事には、映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のネタバレが含まれています。

「人と違う」「あなたは特別」と言われた続けたベンジャミン。しかし、自分と同じ人生の人はいません。人は、誰もが乗り越えなければいけない“宿命”を背負って生まれてくると言われています。どの国に生まれたのか、男性か女性か、どんな容姿か、障がい(個性)を持って生まれてきたか……など、変えることができないものを宿命といいます。

ベンジャミンの宿命は“80歳で生まれ、歳をとるごとに若返っていく”ことです。彼は孤独を感じながらも、淡々と宿命を受け入れていきます。出逢った沢山の人々や、愛する人々との死別を経験します。それは、もしかしたら自分が死ぬより辛いことかもしれません。

http://collider.com/the-curious-case-of-benjamin-button-review/
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豊かなエピソードや台詞の数々

たとえば、ベンジャミンにピアノを教えた老婦人はこう言います。「上手く弾こうと思わないで、感じようとして」、「音楽に身を任せて」と。この台詞は、「上手く生きようとしてもがかないで、人生を味わい、時には流れに身を委ねて」という意味に聞こえました。

また、外交官の妻エリザベスは「これが正しい紅茶の入れ方よ」と語りますが、この台詞はむしろ、正しい生き方や選択というものはなく“人生は自由に選択できる、運命は変えられる”というメッセージだと解釈することができます。フィンチャー監督は、このように意図と真逆の台詞をあえて言わせることで、言葉とは正反対の意味を提示することがあるのです。映画の終盤、ベンジャミンが娘に宛てた葉書の内容も、同じく強烈なメッセージとして私たちにも訴えかけます。

たとえ苦難でも出来事には意味がある

「人生はどうにもならない出来事の積み重ね」「永遠なんてない」、果たしてそうでしょうか。ベンジャミンはこう考えます。「もしも、あの人が靴紐が切れなかったら」、「もしも、あの人が寝坊しなかったら」、「もしも、あの人がカフェに寄らなかったら」、デイジーは事故に遭わなかったのだと。

しかし、私はこう考えます。もしもデイジーが事故に遭わなかったら、彼女はダンサーとして成功したがゆえにベンジャミンと再会することもなく、二人が結ばれることはなかったのではないか、と。このエピソードからは、苦難であっても全ての出来事には意味があることに気づかされます。またデイジーは、ダンサーとして挫折して夢を諦めたかのように見えても、きちんとダンス教室を開き、ダンサーの夢をちゃんと活かしています。「夢を叶える道は一つではない」、ベンジャミンの口から語られた「望みはどんなことも、いつか叶う」というメッセージが伝わってきます。

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その後、デイジーは妊娠し、ベンジャミンは自分だけが歳をとることに苦しみ、彼もまた自分では父親にはなれないことに葛藤します。たくさんの死を見てきたベンジャミンが、人生の最期に選択したのは、最愛の人の手の中で息絶えることでした。彼女をしっかりと記憶にとどめて……。素晴らしい最期だった、これ以上にない旅立ちだったと思います。

ハチドリは何を象徴している?

劇中、ベンジャミンがマイク船長を看取る際、彼が「心配しないで、天国はいいところだ」と声をかけるとハチドリが羽ばたきます。もっといえば、少年となり認知症を患ったベンジャミンが屋根から「飛びたい」と口にする場面は“ハチドリの羽ばたき”を思わせます。ハチドリは“旅立った人の魂”や、その再生を象徴しているのかもしれません。死とは恐れるものではなく“新たな旅立ち”なんですね。

https://nilesfiles.wordpress.com/2010/06/28/the-blind-clockmaker-david-finchers-the-curious-case-of-benjamin-button/
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やや余談になりますが、以下は南アメリカの先住民に伝わるハチドリの物語です。

あるとき森が燃えていました。森の生きものたちは、われ先にと逃げていきました。でもクリキンディという名のハチドリだけは、いったりきたり、口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落としていきます。動物たちがそれを見て「そんなことをしていったい何になるんだ」と言って笑います。クリキンディはこう答えました。「私は私にできることをしているの」
[参考文献:『私にできること~地球の冷やし方』(ゆっくり堂)、 『ハチドリのひとしずく』(辻信一監修、光文社)]

この映画におけるハチドリの存在には、上記の物語にインスパイアされたかのような、「自分のできることをやり遂げ、自分らしく充実した人生を生きたい、ハチドリのように永遠に……」という、創り手の想いが込められているのだと私は解釈しました。

すべての経験が“宝”

劇中に何度も出てくる「人生は分からない」という言葉は、“宿命は変えられないが、宿命を受け入れた時に運命は変わる。運命は自分で創ることができる”とも解釈することができるでしょう。人は感動と経験をするために生まれてくる、ともいいますが、宿命という課題を克服し、喜怒哀楽の全てを経験することで心が豊かになるものです。「これが自分の人生です」「自分は人とは違うのだ」と胸を張って言えれば素敵ですよね。

そう考えると、無駄な経験はひとつもなく、すべての経験が宝なのです。ベンジャミンの“数奇な人生”は、まさにこのことを教えてくれました。どんな人生であっても、“生き抜くことに価値がある”んですね。思いを込めて精一杯生きることに……。

Eyecatch Image: https://www.presto.com.au/movies/the-curious-case-of-benjamin-button
© MMVIII Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment Inc.

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プルーン

ピアノ教師、美容研究家、ライターetc.

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