Menu
(0)

Search

ハリウッドで音をデザインする日本人 ─ ドラマ「ブラックリスト」手掛ける石川孝子さんに訊く、音へのこだわり

ドラマ「ブラックリスト」サウンドエフェクト 石川孝子さん

ハリウッドの第一線で活躍を続ける日本人がいる。サウンド・デザイン&エフェクト・エディターを務める石川孝子さんだ。

東京出身の石川さんは、高校卒業後に渡米。バークリー音楽大学で学んだ後、ロサンゼルスのポストプロダクション会社に入社。2000年からはソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントに移り、2004年にHBO製作の『デッドウッド~銃とSEXとワイルドタウン』で第56回エミー賞に輝いた。サウンドエディティング部門では日本人初の快挙だ。現在は、大人気ドラマ「ブラックリスト」を担当。映像に合わせ、効果音を加えていく「サウンドエフェクト」を手掛けている。

映画やドラマに迫力や臨場感、そしてリアルさを感じられるのは、実は「音」の効果に拠る所が大きい。THE RIVERでは、ロサンゼルスの石川さんにインタビューを行い、サウンド・デザインのこだわりを聞いた。

ドラマ「ブラックリスト」サウンドエフェクト 石川孝子さん
ハリウッドで活躍するサウンド・デザイン&エフェクト・エディター、石川孝子さん
合わせて読みたい

銃声や車のエンジン音……音の効果で迫力生み出す

銃声や車の走行音などの効果音から、街の雑踏といった環境音まで、「音をデザインする」のが石川さんの仕事だ。たとえば、銃声。「ハンドガンなんかは、たとえ実物だとしても、実際はクラッカーみたいな音なんですね。パン、パンって。ところがTVや映画では、もっと『バーン』って聞こえるじゃないですか。これも音のデザインです。そのままだと迫力を欠いてしまうので、音の効果を与えているんです。」

カーチェイスなどで車が走るシーンも、いかに自然な走行音を加えるかが重要になってくる。撮影では、実際に車を走らせずに撮っていることがほとんどだからだ。「それを本当に走っているように見せて、スピード感の効果を与える。音によって、シーンがリアルになるんです。最近の車は静かに走りますが、音を入れてあげないと、“感じ”が出ないですよね。走り出す瞬間の、タイヤがスピンして“キュルルル”という音、止まる時の、“キュッ”という音。」

それに、一口に「車が走る音」と言っても、ゆっくり走っている時と、フルスロットルで走っている時では、聞こえるエンジン音も全く異なる。つまり、音の素材にも多岐にわたるバリエーションが求められるわけだが、「例えばポルシェが走っているだけのシーンでも、素材が足りない時があるんですよ」と石川さん。「そうすると、同じようなエンジンの大きさの車の音を持ってくるんです。」ちなみに車の走行シーンは、車内のカットと車外のカットが頻繁に切り替わることが多く、音の「切れ目」が生じやすいため、サウンドエディター泣かせなのだとか。

さり気ない音を加えるのも、石川さんの仕事だ。「例えば、登場人物がアパートにいるシーンがあるとします。外からゴミ収集車の“ピーピーピー”、“ガーッ”って音が聞こえてくると、生活感が出てくるでしょう。もちろん、脚本には“外からゴミ収集車の音が聞こえる”なんて書かれていません。想像力を使って、リアルに聞こえるように音を与えていくんです。後からプロデューサーが『ここはもうちょっと静かにいきたいんだよね』と判断すれば、ミュートしてもらえれば良いので。」

ドラマ「ブラックリスト」サウンドエフェクト 石川孝子さん

ドラマ「ブラックリスト」サウンドエフェクト 石川孝子さん
石川孝子さんの仕事場

キャラクターによって音が違う?

音に意識すれば、これまでにない作品の楽しみ方に出会えそうだ。石川さんは、「キャラクターごとの音の違い」を意識しているという。「『ブラックリスト』の場合は、レッド(主要キャラクターの名)の銃声っていうのが基本的に決まっているんです。もちろん、いつもと違う銃を使うシーンでは音も違いますけど、彼が撃つ音は、だいたい同じ様な音に統一しています。他のキャラクターも同様です。これは、シグネチャー・サウンドと呼ばれています。車のエンジン音も同じで、これは彼の車の音、というのがだいたい決まっているんですよ。」

ブラックリスト
銃声も、シーンによって音の違いが発生しないようキャラクターによって統一されている。 © 2019 Sony Pictures Television Inc. and Open 4 Business Productions LLC. All Rights Reserved.

石川さんは、ふだん映画やドラマを鑑賞する際にも、「音が“忙しい”アクションシーンなんかは、観ていて疲れちゃうんですよ」と言う。「これ、大変だったろうな、どれだけ時間かかったんだろう、って考えちゃって(笑)。」

まさにサウンドエディターならではの職業病だ。日常生活の中でも、手元にレコーダーさえあれば、何気なく聞こえてくる音を録音することもあるという。「工事現場のクレーンがガタガタいう音とか。日本に行った時には、街の雑踏や車の音を録って、(実際の作品で)使うこともありますよ。パトカーや救急車のサイレンの音を録ることが多いですね。交通の音は国によって違うので、日本のシーンで使えるんです。」

石川さんがハリウッドで仕事を始められてから23年。「世界が狭くなってきている」と感じることがあるという。中国や韓国といったアジアの映画業界とハリウッドとの間で、人材や技術、ノウハウが相互的に行き来するようになったのだ。

「昔はハリウッド、ハリウッドと言ったものですが、今ではハリウッドが世界中に散らばっている。中国と韓国はかなり来ています。中国はもう何年も前からですが、最近は韓国が本当に凄いですね。彼ら(中韓)はハリウッドとの合同製作として、一緒に作品を作り上げている。」実際に、石川さんの仕事仲間も、中国での製作に携わるケースがあったという。アジアとハリウッドの境界線が無くなってきているということだ。日本はどうか。

「私は日本人なので、『日本も』と思っているのですが……。日本(の製作)もこちらに来るんですけど、どうしても『日本でやりたい』と閉ざしているんですよね。もっとグローバルに、チームでやればいいのにと思います。一緒にやろうよ、何人(なにじん)でも良いんだからって。」

ハリウッドを目指すなら

本場ハリウッドを志す日本の若者に向けて、石川さんが心構えとして伝えるのは、まず仕事を探す以前の計画、つまり就労ビザ準備の重要性だ。

「ハリウッドのどんな分野でもそうなんですけど、一番大変なのは、アメリカというのは外国なので、そこに行くこと、そして居続けるということです。アメリカに限らず、どうやって外国で仕事ができる立場になるか。それが出来ないと、仕事にもならない。生活をどうするんだということになります。きちんと計画を固めないと、辿り着く前に崩れちゃうんですよ。忘れられがちですが、実はここが一番苦労するところです。」

「やる気も大切ですが、現実的にどうするかというところも大事」と話す石川さんの元には時々、ハリウッドを夢見る日本人の若者からメールが届くことがあるという。「こうすれば絶対に上手くいくという方法なんて存在しませんが、私はこういう風にやったよ、ということは伝授できる。自分がこれまでに学んだ術は伝授したいですね。」

石川さんがサウンド・デザインを手掛ける大人気ドラマ「ブラックリスト」は、2020年4月28日(火)22:00より「スーパー!ドラマTV」にて独占日本初放送。「音」の効果にも耳を立ててお楽しみあれ。

Writer

アバター画像
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。