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『ブレードランナー』スローすぎとの当時の批判に「勝手にほざけ」「全然スローじゃない」「今じゃ最重要SF映画だ」とリドリー・スコット大反撃

ブレードランナー
TM & ©2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

SF映画の金字塔『ブレードランナー』(1982)が特別な傑作として今も語り継がれるのは、こうした逸話がまだ出てくるからだろう。リドリー・スコット監督は英Total Filmで、製作当時に受けた批判は間違っていたのだと40年越しに反撃した。

スコット監督は、『ブレードランナー』製作の日々について「撮影はすごく嫌な経験だった。協業パートナーが酷いものでね。出資関係の連中に、毎日イラつかされていた」と振り返っている。「私は会社経営も非常に上手くできていたし、良いものを作っているという自信があった。だから、決してノーとは言わない」。

“出資関係の連中”との不和があった。「連中はわかっちゃいない。撮影して、編集して、ミックスして、製作も折り返しのところまで来ると、どいつもこいつも“(テンポが)スローすぎる”と言う。映画監督として学ぶべきことに、『全員の意見は聞けない』というものがある。私は、とても特別なものを作っているのだと、自分でわかっていた。今になってみれば、SF映画史上最も重要な一作になっただろう。全ての映画において」。

作品はその後、長い年月をかけて進化した。いくつものバージョンが作られたことで様々な要素が補完され、ファンはこの哲学的な映画をより深く理解するようになった。ハリソン・フォードが演じた主人公デッカードもレプリカント(人造人間)なのかといった、劇中では曖昧にしか描かれない判別に関する神秘的な議論も続いている。観るべきSF映画は何かと尋ねられれば、多くの映画ファンは『ブレードランナー』を真っ先に挙げるだろう。スコットが自負するように、本作は正真正銘の傑作映画に数えられるようになった。

しかし、1983年の公開当時はそうではなかった。暗くて難解で退廃的なSF映画はウケが悪く、大衆がこぞって詰めかけたのは同時期に封切られた『E.T.』の方だった。

ブレードランナー ファイナル・カット
Blade Runner: The Final Cut © 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

批評家からもコテンパンにされた。当時最も影響力を持っていた映画評論家のポーリン・ケイルは、「ベイビー、雨を降らせて(Baby, the rain must fall)」と題したThe New Yokerの批評記事で、「サスペンスのないスリラー」とこき下ろした。

『ブレードランナー』印と言えるサイバーパンク的な美術について、ケイルは「独自のルックがあり、独自のルックがある先見的なSF映画は無視することができない」とする一方、「私たちは常にセットをセットとして認識している。確かに退廃したような映像は魅力的だが、見られるものに意味がない」と断じた。スコットの不得手をいくつも指摘して、最後はこう締めた。「『ブレードランナー』には観客に与えるものが何一つない。人間の視点で考えられていないのだ。もしも誰かがヒューマノイド検査にやってきたら、おそらくリドリー・スコットと彼の関係者は身を隠すべきだろう。劇中に充満する煙のせいで、この映画に関わる全ての人は煙道を清掃する必要があるように感じられる」。

ブレードランナー
(c)Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

1982年に執筆されたケイルのこの批評記事は、今では米The New YorkerのWeb版アーカイブで誰でも読むことができる。ケイルがわざわざタイトルに引っ張ってきた「雨」とは、『ブレードランナー』の形容しがたい哀愁を象徴するものだ。「とんでもない皮肉だ」と、スコットは話している。

「彼女は、あの映画をたった4ページの批評で破壊した。私は打ちのめされた。苦労して作ったのに、特別な一作を届けることができたと思っていたのに。それが台無しにされた……。実際、映画のリリースにも影響した。その4ページは切り取って、額縁に入れ、オフィスの壁に飾ることにした。今もあるよ。“手に入れたと思っても、まだわからないもんだぞ”という戒めになっているからだ。」

しかし、歴史は『ブレードランナー』とスコットを味方することとなった。スコットにとってこの映画は愛おしくも厄介な作品になったのだろう。20年間、自分で全く見返すことがなかったという。そして、最近になって見返した。

「全然スローじゃない。生物学的な創造の話だとか、地球外での採掘の話だとか、劇中で伝えられてくる情報がすごく独創的だし、面白い。当時は馬鹿馬鹿しいなんて言われたものだ。“勝手にほざいてろ(Go f**k yourself)”と言ってやりたいね。」

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Source:Total Film via SlashFilm

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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