『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』クララ・マクレガーにインタビュー ─ 父ユアンへの想い、感動ラストに込めたもの

ユアン・マクレガー俳優デビュー30周年。複雑な関係にあった実娘クララと、身大の父親役で親子W主演を果たした感動作『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』が2024年7月5日より日本公開。名優ユアン・マクレガーと実の娘で俳優・プロデューサーのクララ・マクレガーがW主演で親子役を演じ、父と娘の“愛と回復の物語”だ。
アメリカで強く問題視される親子間での依存症の連鎖を真摯にかつ、優しい眼差しで描いた本作は、ワールドプレミアとなった2023年サウス・バイ・サウスウエスト映画祭にて絶賛を浴び、アメリカではApple TVが配信権を早々に獲得(劇場はリミテッド公開)。日本では貴重な劇場全国公開となった。
娘のドラッグ過剰摂取をきっかけに、父親は彼女を連れてロードトリップに繰り出す。疎遠になっていた親子関係はかなりこじれていたが、旅が進むにつれて思い出される美しい過去の記憶や、様々な人々との出会いが2人の距離を少しずつ近づけていく──。
ユアン・マクレガーは実生活では22年間連れ添った妻と離婚、5年後の再婚の際に娘クララが猛反対したことが大きな話題になった。互いの人生の変化に傷つき、会わない時期もあった2人だが、ある日クララが父へ1つの脚本というラブレターを送ったのだ。その時のことをユアンは「物語の美しさに度肝を抜かれた。(私たちの)実際の話ではないけれど、私たちのことを感じられる内容だったんだ」と語っている。そうして『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』は生まれたのだった。
THE RIVERでは、ユアンの実娘であり、この映画で主演・製作・共同脚本を務めたクララ・マクレガーに特別に単独インタビュー。本作の裏側や父との思い出、感動的なラストシーンについてタップリ聞いた。動画でもお楽しみいただきたい。

『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』クララ・マクレガー 単独インタビュー
──この映画のテーマとなったレオナ・ルイスの楽曲『ブリーディング・ラブ』は、日本でも有名なヒット曲です。あなたとお父様にとって、思い出の曲なのですか?
そうなんです。父も私もレオナ・ルイスの大ファンだから、この映画で使用させていただけてすごく嬉しかった。私が7年生の時、父が彼女にハマっていたんです。それに、家族みんなでハマっていました。車で学校に送ってもらうときに、いつも流れていました。本当に思い出の曲って感じで、子供時代を分かち合った一曲です。その曲を今使わせてもらえるなんて、面白いし、すごいことです。
──この映画みたいに、車の中で一緒に歌っていたんですか?
はい!少し成長して、しばらくは(歌うのが)恥ずかしかったです。「やめてー」みたいな(笑)。でも、また大人になったら、恥ずかしさもなくなりました。今も一緒に歌っていますよ。
──本作では共同脚本やプロデュースも手掛けていらっしゃいますね。映画製作を志したのは父の影響があると思いますか?
そうだと思います。もちろんです。両親とも映画関係者でしたから。母は素晴らしいプロダクションデザイナーで、小さい頃から両親の職場に行っていましたが、それはつまり映画のセットです。現場にいるだけで、映画制作の様々な面が大好きになっていきました。特に子どもでしたから、みんなが世界を作っていて、それをスクリーンで見るわけです。小さかった私は、本物の魔法だと思っていました。その魔法の裏側を見るのもすごく楽しかった。小さい頃に映画制作の現場を見られたことと、父が演技をする姿を見られたことに、とても感謝しています。それに、母も父もいつも私に名作映画を見せてくれました。映画を志したのは、間違いなくそういうことがキッカケです。

──ってことは、『スター・ウォーズ』の現場にも?
そうですよ。いるだけで最高のセットでした。『ビッグ・フィッシュ』(2003)もそうです。当時は7歳になったばかり。ティム・バートンの作る現場は、セットという感じがなく、本当にそういう世界を歩いているようでした。サーカスの動物がいて、本物の魔法のようでした。きっと、あれが全ての始まりでしたね。毎日ここにいたいって思いました。
──父親役にはニコラス・ケイジも検討していたそうですね。父ユアンとニコケイ、どちらが第一候補でしたか?(笑)
完全に私の父が第一候補でした(笑)。父がオーケーしてくれて良かった!もし断れていたら、彼に依頼していたでしょうね。
──父娘が旅の途中で出会う人々は風変わりでしたが、基本的には悪意がありません。家族、孤独な女性、擬似家族と、さまざまな人々と出逢います。あの脇役たちは、どのような意図で配置をしたのですか?
良い意見ですね。確かに一番最後に登場したカップル以外、彼らに悪意はありませんね。脇役が魅力的で活き活きしているのは、ヴィンセント・ギャロの『バッファロー’66』(1998)を参考にしているからです。あの映画に出てくる脇役たちはどれも素晴らしく、どんなに短い出番でも、とても奇妙で、ユニークで、すごくリアルなんです。
私たちはあの映画を見て、脇役はある意味で私たちを導いてくれて、最終的にはキャラクターをあるべき場所に導いてくれる存在だと考えたんです。そして、彼らがいる世界に説得力を与えてくれる。今作の脇役たちが大好きですが、自分の手柄ではありません。ソフィー・ハードマンという素晴らしい衣装デザイナーが仕立ててくれましたし、プロダクションデザイナーのステフォニックもそうです。彼らが息を吹き込んでくれました。脇役に少し変わった面があって、一人一人にそれぞれの目的があるところが気に入っています。

──妹のエスター・マクレガーも出演しているそうですね。
はい。妹と仕事をするのは楽しいです。一緒にファッションの仕事もしてるんですが、映画をやるのはこれが初めてかな。妹は親友でもあって、一緒に仕事をするのはいつも最高。彼女が演じているのは……本編で見つけて欲しいんですが、エイリアンの格好をしています。エイリアンの車に乗っていますよ。私に嫌味を言うキャラクターです。

──つまり、あなたとお父様と妹さん。現場ではちょっとした家族の時間だったわけですね。
本当に、ちょっとした家族の時間でしたね。でも、本作はずっとそんな雰囲気でしたよ。製作パートナーのヴェラ・ボールダーも映画に出ているし、彼女の旦那さんのジェイクも出ているし、そのジェイクのお母さんのキムも牽引車のドライバー役をやっていましす。その一家も関わっていましたし、たくさんの友達と、ファミリーで作り上げました。みんなで特別な時間を過ごせたのも良かったです。
──劇中で親子は単に“父”と“娘”、あるいはターボと呼ばれます。キャラクターに名前をつける考えはありましたか?
いいえ。脚本を書いている時から、キャラクター名はありませんでした。ある意味、名もないキャラクターで、ただそのキャラクターや仕事内容が書かれているだけでした。アルコホーリクス・アノニマス(AA)という団体があるのですが、それは「匿名のアルコール依存症者たち」という意味です。誰にもレッテルを貼らないというのは、そこから派生した思考プロセスだったのかもしれません。普遍的な感覚があって、名前というのはあまり重要ではないと思ったんです。どういうわけか、(名前によって)気が逸れてしまうような気がして。
だから、AAの治療プログラムのように、匿名性を持って演じました。ただ彼女たちが存在するということ、あの瞬間、どんな人物であったことが大切でした。
──車中のシーンが多いですが、シーンごとに2人の関係性の変化がわかります。
エマの撮り方が上手かったと思います。撮影監督のクリス・リプリーもすごかった。2人の協力が素晴らしかったです。私たち2人が車中にいるシーンで、私だけを切り取ったカットがあって、続いて父だけのカットを入れている。2人は同じ空間にいるのに、フレームを共有していないわけです。編集やショットの中に、そうやって2人の距離を感じさせるトリックがたくさんあるんです。

そして映画が進んでいくにつれて、2人がショットを共有することが増えていく。そうして距離の近づきを表しているんです。それに、この映画はクローズショットから始まって、映画が進むにつれて車や景色へと広がっていきます。2人の距離が近づくにつれて、映像がよりオープンになっていく。エマとクリスが、視覚を通じて素晴らしく伝えてくれました。
キャラクターの見せ方、フレーミングの仕方だけで、たくさんのことを伝えることができます。特に車中のシーンでは、ストレートにずっと同じ構図のままにすることもできる。でも、エマとクリスがフレーミングやアングルを工夫してくれました。カメラの視点を通じて、父と娘が互いをどう感じているかを表現しているんです。

──旅の途中、ある時点で2人はわりかし仲良くなって、上手くいっているように見えるところもあります。しかし次の場面では、互いを最も効率的に破壊できる言葉で罵り合う。家族とはそういうものですね。あなたにとって家族関係とは?
そうですよね。私は、自分の家族、両親、姉妹に恵まれていると思います。私の拠り所であり、私を安定させてくれるものです。それと当時に、家族とは時にすごく複雑なものになる。あなたの言うように、最も近しく、最も愛する相手だからこそ、相手のことをよく知っているから、汚い戦いもできてしまう。それはかなりの痛みを伴うものです。誰よりも知っている家族が相手だからこそ、攻撃が深い深いところに届いてしまう。
誰しも違う事情がありますが、2人について興味深かったのは、どちらも存在しうるということ。娘は父親との関係を切望しているが、父親はそこに至る方法がわからない。お互いが心地よく、相手を知り合う瞬間もありつつ、それはいとも簡単に裏返ってしまう。互いをよく知るということは、互いをよく傷つけられる、ということでもあるからです。
──この映画を経て、父との関係に変化は?
変化があったとは思いません。より親密になったかなと。あんなにずっと一緒にいられたのは嬉しい。絆が深まったと思います。もともと仲良しでしたけどね。大人になると、なかなか両親と一緒に過ごすこともないですよね。だから(撮影が)楽しかったし、絆が深まりました。変化というものがあったなら、それはポジティブなものですね。
──ちなみにクララさん、これまで日本に来たことは?
東京に2日だけ!短すぎて、行ったうちに入りませんよね。とにかくまた行きたいです。日本のどなたか、仕事をください!日本で用事ができたら、行きたいです。また行きたくてたまらない。もともと好きだし、日本で過ごしてみたい。今は行ける機会を待っています。すぐにでもね。
──その2日ってのはいつのことですか?
4〜5年前ですね。6年前だったかな?父と一緒に二日だけ滞在しました。
──お父様のプロモーションツアーですか?
そうです。父が日本で仕事があって、一緒に行きました(編注:『プーと大人になった僕』)。もっとゆっくりできたらよかったんですが、弾丸旅でしたね。
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