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【レビュー】『ブルーバレンタイン』の恋愛を、男女それぞれの意見から改めて考える

“バレンタイン”と聞くと、映画好きな方ならどうしても思い浮かべてしまう作品の一つが『ブルーバレンタイン』だと思う。一組の夫婦、ディーン(ライアン・ゴズリング)とシンディー(ミシェル・ウィリアムズ)の愛の始まりと終わりを描いた、“トラウマ恋愛映画”とも呼ばれる、哀しく切ない物語だ。

劇中では、冷めきった夫婦生活と、出会ったばかりの幸せな場面が交互に映し出されて私たちの心を締め付ける。ライアンの禿げ上がった頭と、ミシェルのだらしないボディが、作品の生々しさを倍増させている作品だ。

ところで、この『ブルーバレンタイン』、男性と女性では感想が少し異なったものになるのではないだろうか。そこで今回は、筆者が映画好きな男性に聞いた意見を参考にしつつ、男女それぞれの感想をご紹介したい。今一度、ディーンとシンディーの愛の形について、改めて振り返ってみよう。

男性からの感想

この映画を観た男性陣からは、ライアン演じる夫のディーンに対して同情の声が上がっているようだ。

  • 「ディーンはホテルに連れて行ったり、シンディーとの関係を修復しようと頑張っているのに、シンディーは受け入れようともしていない。かわいそう」
  • 「愛する女性の子供とはいえ、娘のフランキーは別の男の子供。それでもディーンは愛情を持って育てている」
  • 「スーパーで昔の男と話して、そのあとディーンに普通に報告するか?」
  • 「(シンディーに)あれほどそっけない、冷たい態度をとられたら傷つく」
  • 「ディーンもしっかりしてないけれども、シンディーの方が非はあると思う」

……などなど。確かに劇中では、ディーンはシンディーとの関係を修復しようと努力している。「もう手遅れなのでは」と分かっている観客としては、ホテルで一生懸命に甘いムードを演出しようとするディーンの姿は余計に物悲しかった。

女性からの感想

では、女性陣からの意見はどうだろうか?

  • 「ディーンも根っからの悪い人ではないと思うけど、頼りなさが見え見えで……。ライアン・ゴズリングの禿げた頭が“だめんず感”を増してる」
  • 「シンディーにもひどいと思うところはあった!でも病院に殴り込むようなキレる男とは一緒にいたくない」
  • 「この人とはもうダメとか、もう好きじゃないって一回思うと、本当に無理になっちゃう気持ちは分かる。相手が向かい合おうとしてくると余計に」
  • 「シンディーはもう気持ちが冷めてたから、あのホテルは決定的にダメだったと思う。生理的に無理!ってなっちゃいそう」
  • 「映画を観ていると、あそこまで拒絶するシンディーもひどいと思ったけど、自分に置き換えるとシンディーと同じような態度を取るかもしれない」

確かにあの生え際はとてもリアルだったが……まあ、男女によって捉え方はやはり違うようだ。いったいどうして、ディーンとシンディーの夫婦はここまですれ違ってしまったのだろう?

結局どちらが悪かったのか?

かくいう筆者も、ディーンが悪人だとは思わない。シンディーに恋をして、彼女の娘を心底愛しているし、夫婦の関係も修復しようとしている。ただ、やはり酔っ払って暴力事件を起こすのは論外だ。それに、病院で働いている自分をさしおいて、朝からお酒を飲んでいる姿を疎ましく思うのは仕方がないと思う。

もっとも、一方のシンディーも、とうとうディーンを愛しきれなかったのではないか。いや、彼女はまだ、人のことを心から愛せたことがないのではないか……。ディーンと出会った時、彼女は確かに恋をしただろう。けれども当時のシンディーは、元カレのDV男、ボビーと別れたばかりだった。彼女にとってディーンは、恋人を失った寂しさを埋めてくれる新しい男性であり、自分のことを好いてくれる相手だったのではないかと思う。ディーンはシンディーを、シンディーは“新しい恋人”を求めていたのではないだろうか。

そんなシンディーの“埋められない心の隙間”は、彼女の家庭のシーンから察することができる。きっとシンディーは、幼い頃から家庭でもきちんと安心できずに育ったのだろう。思いきり甘えられないまま、素直に両親に「抱きしめて」と言えないままに育ったのかもしれない。

こんなシーンがある。

「あなたにはいろいろな才能があるのに、(ペンキ塗りの仕事は)もったいないわ」
「俺は父親になりたいとか、夫になりたいなんて思っていなかった。でも今はこれが幸せだ。俺は家族のために戦っているんだ」

ディーンはシンディーと正面から向き合おうとしていた。慎ましやかでも、家族三人で仲睦まじく、彼はそう思っていただろう。しかし、シンディーはディーンと同じ方向を向こうとしていた。真正面から向き合うのではなくて。

自分は努力して病院勤務、かたや夫はペンキ塗り。「自分は夢を叶えようと努力したのに、あなたは何もしないの?」「家族のために戦うのなら、なぜもう少し稼げる仕事を探さないのかしら?」、彼女はそのように考えていたのかもしれない。しかしシンディーが、もう少しディーンに温かい態度を見せていたら。娘のためにも、もう少し改善の努力を見せていたら。二人の関係にも修復の余地はあったのではないかと考えてしまう。

方向性の違い、価値観の違い、気持ちの温度差、仕事の格差。二人の恋愛の終わりには、いろいろな理由を当てはめられることだろう。二人と同じ経験をしたことがなくても、甘く苦く切ない。『ブルーバレンタイン』は、だからこそ多くの人に共感され、トラウマにも似た衝撃を与えるのだ。

しかし現実の恋愛は楽しいことばかりではないとはいえ、この映画はこんなことも教えてくれる。一番大切な人と手をとって話し合い、利己的ではなく利他的に考えてみよう、ということを。「仕方がない」という言葉がしっくりくる恋愛もあるかもしれないが、それでも精一杯相手を大事にしようということを。

思えば、筆者が初めて『ブルーバレンタイン』を観たのは高校生の時だった。何度か観るたびに、いつも異なる思いが胸中を渦巻く。きっと自分が結婚した時、子供ができた時に観たら、また違う感想が生まれるのだろう。その時には、シンディーの気持ちも、またディーンの気持ちも察することができるのかもしれない。

まぎれもないトラウマ恋愛映画、しかし一度は観たい素晴らしい恋愛映画『ブルーバレンタイン』。ただし間違っても、バレンタインなどにカップルでは鑑賞されませんよう。

Eyecatch Image: http://www.emptykingdom.com/featured/blue-valentine/
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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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