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『007』次回作の監督はクリストファー・ノーラン?複雑すぎる製作状況、噂の背景を解説

人気シリーズ『007』の次回作をクリストファー・ノーランが監督するのではないか、という噂が浮上している。真実ならば世界中の映画ファンに衝撃を与えるニュースだが、どうやら事態は一筋縄ではいかなさそうだ。そこには『007』シリーズの現状をめぐる複雑な背景があったのである……。

発端はデータベースサイト「IMDb」

“『007』をノーランが撮るかもしれない”、この噂の発端は映画データベースサイト「IMDb」だった。映画情報サイト「BIRTH. MOVIES. DEATH.」の記者フィル・ノビーレ・Jr.氏は、同サイトの有料サービスにてノーランの設立した製作会社シンコピー・フィルムズの情報を調べたところ、そこに『007』シリーズの次回作『Bond 25(仮題)』が掲載されていたことを報告している。

https://twitter.com/PhilNobileJr/status/859832199180423168

すなわち、この投稿を見た映画ファンたちが騒ぎ出したことが今回の噂の始まりだったのだ。しかしノービレ氏自身は、IMDbには誤った情報が掲載されることもあるとして、この情報を信じていなかった。ところが、ある『007』ファンがIMDbにコンタクトを取り、『Bond 25』にシンコピー社が関与していることは事実だという証言を得たのである。

IMDbがシンコピー社の関与を保証してもなお、ノービレ氏は『Bond 25』をノーランが撮ることはないと主張している。その論拠は、ノーランの作風が『007』シリーズのセクシーなテイストに合わないこと、そして『007』シリーズに必要なのは有名監督ではなくスター俳優であるということだ。同じく映画情報サイト「コライダー」も、ノーランがボンド映画を監督することはないだろうと予想する。

こうして“『007』次回作の監督はクリストファー・ノーランか?”という噂は、その真相よりもむしろ「ノーランはボンド映画に合うか」という論争にまで発展しつつある。しかしながら、『Bond 25』は現在とても複雑な状況に置かれている監督がノーランになるかどうか、はっきり言って予想不可能な状況なのだ。

『007』新作、マジでなんにも決まっていない説

かねてから映画ファンの間では大きな話題になっているが、『Bond 25』で主人公のジェームズ・ボンド役を務める俳優はまだ決定していない。前作『007 スペクター』が公開された際、ダニエル・クレイグはボンド役からの卒業をほのめかしていた。その後クレイグの口からは事実上の続投宣言も飛び出しているが、2作品で1億5,000万ドルという出演料が支払われるともいわれるなか、未だ契約は結ばれていないようである。

一方、クレイグの出演が決まらないうちから『Bond 25』の脚本作業は始まっていたようだ。本作を執筆するのは、1999年の第19作『ワールド・イズ・ノット・イナフ』から前作『スペクター』までの全作品を手がけるニール・パーヴィス&ロバート・ウェイドだという。脚本の初稿はすでに完成しているようなので、もはやクレイグが条件を受け入れさえすれば……という状況かと思いきや、『Bond 25』はまだ大きな問題を抱えていた。配給会社が決まっていないのである。

スタジオ5社の配給権争奪戦

『007』シリーズのライセンスを有するMGM社、そしてイーオン・プロダクション社は、同シリーズの作品で製作のみを手がけ、配給を別の映画会社に任せていることが特徴だ。クレイグがボンド役に就任した、2006年『カジノ・ロワイヤル』以降はソニー・ピクチャーズが配給を担当していたが、ソニーと両社の契約は2015年に満了。『Bond 25』をめぐっては配給権の争奪戦が行われることになる。

ニューヨーク・タイムズ誌によると、『Bond 25』の配給に名乗りを上げているのは、ソニー・ピクチャーズワーナー・ブラザースユニバーサル・ピクチャーズ20世紀フォックス、そしてアンナプルナ・ピクチャーズだ。アンナプルナという名前を知らない方も少なくないだろうが、『ソーセージ・パーティー』『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』『her/世界でひとつの彼女』『ゼロ・ダーク・サーティ』など、実に多彩な話題作を手がける製作会社である。

ノーランが監督する可能性は低い?

主演俳優と配給会社が未定、脚本は初稿の時点で止まっている……という、ほとんど何も決まっていない状況の『Bond 25』に、ノーランが監督としてプロジェクトに関わる余地はあるのだろうか? ここで改めて冷静に考えると、ノーランが次回作でメガホンを取る可能性は低そうだ。その理由を3つに分けて解説していこう。

①有力な監督候補がいる

まず『007』シリーズのプロデューサーであるマイケル・ウィルソン氏とバーバラ・ブロッコリ氏が、ドラマ『SHERLOCK』を手がけたポール・マクギガンを監督の有力候補として検討しているという情報がある。マクギガンの新作映画『フィルム・スターズ・ドント・ダイ・イン・リバプール(原題:Film Stars Don’t Die in Liverpool)』をイーオン・プロダクションが製作していることからも、この情報は信憑性が高そうだ。

②ビジネス的に無理がある

映画情報サイト「コライダー」は、そもそもシンコピー社が『Bond 25』に関与しているという噂に否定的な立場だ。『007』シリーズの権利を守り続けているイーオン社が、わざわざ新作をシンコピー社と共同製作して利益を配分するわけがない、というのである。同じくビジネスの観点でいえば、シンコピー社が『バットマン・ビギンズ』以降に手がけた作品はすべてワーナー・ブラザース社が配給に関与しているが、現時点で『Bond 25』は配給会社が不明の状況だ。

③ノーランのスタイルに合わない

従来ノーランが手がけてきた映画は、ことごとくノーラン自身が脚本を執筆している。ところが『Bond 25』はすでに脚本の初稿が完成しているため、すでにノーランの製作スタイルに一致していないのだ。もっとも監督の決定後、脚本が丸ごと書き換えられる映画はそれほど珍しくないが……。

『Bond 26』はノーラン&トム・ハーディ?

しかしながら、噂の発端となったIMDbはシンコピー社の『Bond 25』への関与を保証している。これが本当ならば、ノーランがなんらかの形で同作に関わっていることは間違いないだろう。シンコピー社が製作に名前を連ねた作品で、ノーランが監督を務めていないのは2013年『マン・オブ・スティール』と2014年『トランセンデンス』の2本。ノーランは前者で原案を、後者でエグゼクティブ・プロデューサーを担当している。

今回の噂を受けて、多くのノーラン・ファンが“これならありうる”としているのが、『Bond 25』でノーランがプロデューサーの一人を務め、つづく『Bond 26』で正式に監督に就任するというコースだ。クレイグがボンド役を続投する場合、あと何本に出演するのかは不明だが、『Bond 25』が最後となる可能性もあるだろう。「『Bond 26』はノーランが監督、トム・ハーディがボンドを演じるに違いない!」と予想するファンもいるようだ……。

ノーランは自らが『007』シリーズの大ファンであること、そしてボンド映画を撮りたいという希望があることを公言している。『ダークナイト』3部作でヒーローの再解釈に成功したノーランは、世界一有名なスパイをどう料理するのだろうか? ぜひ実現してほしい“噂”がまたひとつ増えたことになる。

ところで現在のところ、IMDbはシンコピー社の情報から『Bond 25』を削除している。まだ公表してはいけない情報だったのか、それともやっぱり誤報だったのか……。

Sources: http://screenrant.com/james-bond-25-christopher-nolan-producer-syncopy/
http://birthmoviesdeath.com/2017/05/04/christopher-nolan-producing-bond-25-5-4
http://collider.com/christopher-nolan-bond-25-rumor/
http://screenrant.com/james-bond-25-writers-daniel-craig-deciding/
http://screenrant.com/daniel-craig-return-decision-bond-25/
https://pagesix.com/2017/04/03/daniel-craig-ready-for-more-007-after-slash-my-wrist-diss/
https://www.nytimes.com/2017/04/20/business/media/james-bond-sony-mgm-eon-productions.html
http://screenrant.com/james-bond-25-director-paul-mcguigan/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。