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『ブラックパンサー』のラスト、キルモンガーの重要なセリフが削除されていた ─ 編集段階で大幅変更、その理由とは

ブラックパンサー
©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ

2018年、米国を中心に社会現象的な大ヒットを記録した映画『ブラックパンサー』。この作品で脚本・監督を務めたライアン・クーグラーは、主人公ティ・チャラ/ブラックパンサーと悪役エリック・キルモンガーの物語の結末にてワカンダの美しい風景を示してみせた。

実はこのラストは、編集段階で当初の構想から大幅に変更されたものだったという。編集を担当したマイケル・P・ショーバー氏は、キルモンガーの重要なセリフを削除していたことを明かしている。

この記事には、映画『ブラックパンサー』のネタバレが含まれています。

マーベル『ブラックパンサー』

キルモンガーのセリフ、なぜ削除されたのか

『ブラックパンサー』のクライマックス、ティ・チャラとエリック・キルモンガーの戦いは、キルモンガーの敗北によって幕を閉じる。瀕死の重傷を負ったキルモンガーは、ティ・チャラに連れられて、自分のルーツであるワカンダの夕陽を見つめながら息絶えるのだった。

米CinemaBlendにショーバー氏が語ったところによると、「キルモンガーの死」からエンドクレジットまでの展開は、再撮影を経て組み立てられた「新しいエンディング」だという。当初の構想では、キルモンガーは倒れる直前、ティ・チャラにひとつの問いかけを残していたのだ。

「ライアン(監督)は、再撮影によって新たなエンディングを作ろうとしていました。キルモンガーが死ぬシーンだけでなく、もっと大きな変更です。もともと撮影されたシーンでは、脚本通り、キルモンガーが(夕陽を見て)“美しい。この景色を見られない人たちのために、お前は何をするんだ?”と言っていましたね。すばらしかった、力強くて見事な場面になりました。」

しかし監督やショーバー氏は、このキルモンガーのセリフにいくつかの問題を発見したという。

「ひとつはキャラクターの問題です。これではティ・チャラは、自分の疑問の答えを(自力で)得られなくなってしまいます。彼が必要とする答えが、また彼のなすべきことが、悪役の口からそのまま出てきてしまう。そしてふたつめは、(マイケル・B・ジョーダンの)演技が本当にすばらしかったこと。この男に死んでほしくないと思うと、観るのがつらくなってしまう。それは、このキャラクターにはふさわしくないことでした。」

ラストシーンに込められた「キルモンガーの問いかけ」

ライアン監督はキルモンガーのセリフを削除することを決め、そのかわりに新たなシーンを付け加えることにした。それが、エンドクレジットの直前にあたる“本編のラストシーン”である。ティ・チャラは妹シュリとともに、映画冒頭の舞台となるオークランドを訪れるのだ。ワカンダの科学技術によって作り上げられた戦闘機(ロイヤル・タロン・ファイター)を隠すことなく着陸させると、かつてキルモンガーが父と暮らしていたアパートの建物を買い取り、そこに福祉施設を作ることを宣言する。

「ライアンは脚本家として優れた仕事をしてくれました。[中略]このシーンには、もともとキルモンガーに語らせていた精神性が込められています。“もしも人々が美しい風景を見られたら、もしも自分自身の可能性に気づけたら、きっと物事は変わる”と。
新しいシーンでは、ティ・チャラ自身の行動が示されることになりました。映画の一番最後には、ひとりの子どもが彼に“あなたは誰?”と尋ねます。その“自分は何者なのか”ということこそが、この映画のテーマ、アイデンティティです。その質問にティ・チャラが答える必要はありません。なぜなら彼は、その問いかけに答えたばかりですから。」

自分なりの正義によってワカンダや世界に脅威をもたらそうとしたキルモンガーを退けたティ・チャラは、自分にしかできない方法で、王としての行動に出る。キルモンガーに語らせるのではなく、ティ・チャラ自身の行動によって物語の結末が到来するのだ。

ちなみに“オークランドに始まり、オークランドに終わる”という構造には、監督やショーバー氏の研究の成果が表れているという。

「“映画史上に残る最高の結末トップ10”の作品をすべて検討して、気づかされたことが二つありました。ほとんど、どんでん返しが待っているか、あるいは『ゴッドファーザー』(1972)なんです。(『ゴッドファーザー』では)最初にマイケルが登場する場面で、彼は自分の家族が好きじゃないことをケイに話しますよね。“僕は別だ、彼らは彼らだ”と。そしてラストシーンでも、マイケルはケイに自分の家族が好きではないことを伝えている。[中略]すべてが変わってしまったわけですが、二人は同じことを話しているんです。物語が一周することの本質は、開かれた結末であるにもかかわらず、きちんと円が閉じたように思えることにあるんですよね。」

映画『ブラックパンサー』MovieNEXは発売中。

Source: CB

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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