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FOXサーチライトはここから始まった ─ 映画『マクマレン兄弟』に、インディペンデント精神の原点を見る

マクマレン兄弟
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

心に残る良質な一本を探しているなら、FOXサーチライト・ピクチャーズの照らす灯りを目印にするのがいい。第90回アカデミー賞作品賞に輝いた『シェイプ・オブ・ウォーター』や、同年2部門を受賞した『スリー・ビルボード』を始めとする数々の名作や、ギレルモ・デル・トロにダニー・ボイル、ウェス・アンダーソンといった多くの才能に光を当てることで知られる信頼のスタジオだ。『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)、『(500)日のサマー』(2009)、『ブラック・スワン』(2010)…数え切れぬ良作揃いのラインナップを見れば、必ず一作は思い入れの深い作品が見つかるはず。

そんなFOXサーチライトが、1994年の設立から今年(2019年)で記念すべき25周年を迎える。これを記念してTHE RIVERでは、FOXサーチライトが初めて世に送り届けた記念すべき第1作『マクマレン兄弟』に着目。彼らが最初に照らしていたのは、キラキラと眩しく輝くインディペンデント精神の結晶だった。

FOXサーチライトの原点『マクマレン兄弟』とは

1995年(日本1996年)に公開された『マクマレン兄弟』は、その後『プライベート・ライアン』で注目を集めるエドワード・バーンズの初監督作品だ。TV番組の製作アシスタントとして働き、ウディ・アレンを敬愛していた当時27歳のエドワードは、『マクマレン兄弟』の製作に心血を注いでいた。少ない資金で撮影するため、ロケ地は実家。街中での撮影も、大急ぎでゲリラ的に済ませた。2年がかりで準備して、週末を使った12回の撮影は8ヶ月に及んだ。「映画祭に出品したり、映画プロデューサーやエージェントへのツテなんて無くて。」2015年のインタビューで、エドワードはこう回顧している。

そんなエドワードに転機が訪れる。当時アシスタントを務めていた番組に、映画監督/俳優であり、サンダンス映画祭主宰のロバート・レッドフォードがゲスト出演したのだ。収録を終えて去ろうとするロバートを追いかけたエドワードは、エレベーターの手前ギリギリで捕まえて、まだ製作途中だった本作のテープを手渡す。「どうかこれを観てください」と。

その後、作品を気に入ったロバートが『マクマレン兄弟』をサンダンス映画祭に導く。世界中のインディペンデント映画が集まる祭典だ。当時わずか27歳のエドワードの手腕が評価され、本作は見事グランプリを獲得。追加の編集予算やサラ・マクラクランが歌う主題歌の権利と共に、FOXサーチライト第1弾としての配給契約にこぎつけたのだ。後に映画ファンに最も愛されるスタジオとなるFOXサーチライトが最初に選んだ『マクマレン兄弟』とは、一体どんな作品なのか。

悩める男兄弟を素朴に描く

マクマレン兄弟
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ニューヨークはロングアイランドが舞台の『マクマレン兄弟』は、誰しもに訪れるだろう「人生のターニングポイント」を素朴な視点から描いている。長男ジャック、次男バリー、三男パトリックの三兄弟は、どうやらロクでもない男だったらしい父を失い、母は故郷のアイルランドに自分を想い続けていた男がいるからと、息子たちを置いてあっさり帰郷してしまう。

愛妻家のジャックは長男として兄弟たちをまとめようとし、脚本家志望の次男バリーは女好きで、妻帯者として1人の女性に落ち着くジャックが理解できない。三男のパトリックは敬虔なクリスチャンで、神が与えた「真実の愛」を信じ、婚前の性行為は御法度。もちろん、バリーはそんなパトリックの恋愛観も分からない。

恋愛や結婚に対して全く異なる価値観を持つ三兄弟が、新たな出会いや辛い別れ、浮気など数々の問題に直面し、それぞれ相談に乗りながら人生の階段を登っていくわけだが、なにせ三兄弟の全員が最適な答えを持ち合わせないところがくすぐったい。誰しもに訪れる「大人になる上での選択」に悩む彼らを描く本作は、まるで近所の三兄弟をのぞき見ているよう。等身大に人間くさく、とにかく素朴なのである。

ゆったり優しく、見守るように

マクマレン兄弟
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

THE RIVERは2019年5月、読者を招いて本作『マクマレン兄弟』上映会を開催。参加した”平岡さやか”さんは「優柔不断で、まだまだ子供から抜けきれていない3人」が大人になっていく様を「ゆったりと優しく、見守るように」描かれた点が良かったとレビューした。ほか、”ノイ”さんも「語りたいストーリーを素直に表現していて、受け入れやすかった」と評している。「男三兄弟ってこんな感じですよね」と身近に感じた”匿名”さんは、「自由に見えて、家族にとらわれながら生きている。そんな滑稽さが懐かしい感じです」と振り返った。

きっと三兄弟の誰かに自分自身を重ねられるのも、本作の楽しみ方のひとつ。上映会の参加者からは、「パトリックが好き!」「自分が好きになるなら、バリーだな…」と共感の声も寄せられている。「この映画を観て少しだけ男性の精神世界的なものが分かった気がします」と、最近男性の多い職場で働き始めたという”ま”さんは言う。付き合っている彼氏に浮気されてしまったことがあるという”蒼”さんは「『本当はどう思っているんだろう』『こう思ってくれているのかな』と女性目線で考えることができました。」いつの時代も、男って本当に…。

マクマレン 2.0

マクマレン兄弟
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『マクマレン兄弟』には自らも女たらしの未熟な若者バリーとして出演したエドワード・バーンズも、現在では妻と子を持つ50代。2015年には、映画業界のキャリアで学んだ教訓を詰めた自伝本『Independent Ed』を上梓した。副題は『大志を追ったキャリアや数本の映画、そして人生最高の12日に学んだ事(What I Learned from My Career of Big Dreams, Little Movies, and the Twelve Best Days of My Life)』。「人生最高の12日」とは、『マクマレン兄弟』の撮影で過ごした日々のことだ。エドワードは同書で、「役者は無償で働かなくてはならない」「撮影には12日以上かけるべきではない」など、『マクマレン兄弟』を通じて学んだインディペンデント映画撮影の心得を、「マクマレン 2.0」と名付けて説いているのだ。

「僕が映画学校の学生だった若い頃、ロードマップやハウツー本なんてありませんでした。ある時街を歩いていたら、スパイク・リーを見かけたんです。彼の後を6ブロックもつけて。『どうやったら低予算映画が作れますか』『どうやって資金調達すればいいですか』『撮影クルーは』『配給は』って、質問攻めにしたかったですよ。」エドワードはこの自伝本を紹介するにあたって、こう述べている。「さすがにそんなことは出来なかったんですけど、でも今はこの本がある。」

『マクマレン兄弟』は、今もなお良質なインディペンデント映画の好例として語り継がれており、若きフィルムメーカーに有意義な教訓を与えている。思えば、ロバート・レッドフォードに直接テープを手渡せた強運や、そのままサンダンスでグランプリを獲得するというサクセス・ストーリーも痛快。これぞ、『シェイプ・オブ・ウォーター』で「異例」とも言われるアカデミー賞作品賞に輝いた例に代表される、FOXサーチライトのインディペンデント物語の原点なのだ。「パチン」と、ライトが灯る音が聞こえる一本である。

『マクマレン兄弟』

暴力的で自分勝手だった父親の葬儀で「私と同じ過ちは犯さないと約束してね」と言い残したマクマレン家の母親は、35年間彼女を待ち続けた男の元へ旅立っていった。後に残された3兄弟の長男ジャックは、愛妻家ながら浮気の衝動に駆られ悩んでいる。脚本家を目指す独身主義の次男バリーは極度の“結婚恐怖症”。敬虔なカトリック信者の三男パトリックは、彼女と婚前交渉をしてしまった罪悪感と闘っていた。恋愛、セックス、結婚、仕事点3兄弟それぞれが人生のターニングポイントを迎えて、本当に大切なものは何かを見つけていく──。

マクマレン兄弟
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『マクマレン兄弟』ブルーレイ&DVDは、2019年6月5日(水)発売。

『マクマレン兄弟』公式ページ:http://www.foxjapan.com/brothers-mcmullen

Source:The Week,Today,Indie FilmHustle

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。