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【インタビュー】『キャンディマン』主演俳優、その名を唱えることに恐怖はなかったのか? ─  キャンディマンは悪か英雄か

キャンディマン
© 2021 Universal Pictures

“その名を5回唱えると、死ぬ”

凶悪な殺人鬼による忌まわしき都市伝説を描いたカルトホラーシリーズ『キャンディマン』が、リブート版として復活した。『ゲット・アウト』(2017)『アス』(2019)のジョーダン・ピールが製作・脚本を務め、現代へと語り継いでいく。

舞台は、米国に現存する公営住宅地区「カブリーニ=グリーン」。その界隈では、鏡に向かって5回その名を唱えると、右手が鋭利なかぎ爪になった殺人鬼に体を切り裂かれるという怪談めいた都市伝説が語り継がれていた。老朽化した公営住宅が取り壊されてから10年が経ち、ビジュアルアーティストのアンソニーは、創作活動の一環として、“キャンディマン”の謎を探求していた。調査を進めていく中で、アンソニーは公営住宅の元住人だという老人から、その都市伝説の裏に隠された悲惨な物語を聞かされる。アンソニーは恐ろしい過去への扉を開いてしまったのだ……。

メインキャラクターのアンソニー役を演じるのは、『アクアマン』シリーズではブラックマンタ役を担当し、『アス』(2019)『シカゴ7裁判』(2020)をはじめとする映画や、ドラマ「ウォッチメン」(2019)などでも高い注目を浴びた俳優、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世。今後の作品としては、『マトリックス レザレクションズ』(2021年12月公開)など多数の注目作を控えている。そんな気鋭俳優が、THE RIVERの取材に応じてくれた。キャンディマンというキャラクターは俳優にとってはどんな存在なのか。悪か英雄か。それとも?

キャンディマン
© 2021 Universal Pictures

その名を唱えてはならない

キャンディマン
© 2021 Universal Pictures

──『キャンディマン』についてはオファーされる前からご存じでしたか?

1作目の記憶はありませんでしたが、もちろん存在は知っていました。 キャンディマンの都市伝説と共に育ちましたから。僕の家族では、キャンディマンのゲームをよくやっていたんです。キャンディマンの名前を鏡の前で唱えていました。5回まで唱えることは絶対にしませんでしたけど。

──劇中では、5回鏡の前で名を実際に唱えていましたが、それに対しては恐怖を感じなかったのですか?

いいえ、感じませんでした。自分自身に許可みたいなものを与えていましたから。自分が口にすることが台本に書かれていれば、問題はないみたいな。だから、カットがかかったら、それ以上はその言葉を言うことはありませんでした。そうして撮影中は自分の身の安全を確保していましたよ(笑)。

キャンディマンは英雄か悪か

キャンディマン
© 2021 Universal Pictures

──世界中で旋風を巻き起こした『キャンディマン』ですが、その背景は何だったと思いますか?

『キャンディマン』が人気を博したのには、いくつかの理由があります。ひとつは、黒人居住区に住むブギーマンのようなキャラクターだったからでしょう。僕たちと同じような境遇にいる人だと感じて、親近感が湧いたんです。もうひとつの理由は、その象徴的な姿。身体は蜂に包まれていて、右手は鉤爪、つまり恐ろしい存在だったわけです。 

──オリジナル版では、現代にも色濃く残る黒人への人種差別が描かれていました。そんな映画が、ジョーダン・ピールの脚本により現代に蘇ることになったわけですが、主演依頼を受けたときの気持ちを教えてください。

電話で依頼を受けた時は興奮しました。今の時代にやるには、これまでとは何か違うことをしなければならないと思っていたので。そのまま同じ映画を作ることはできませんから。ただ、ジョーダン・ピールはホラーというジャンルに社会的側面を上手く取り入れてきた方なので、『キャンディマン』の物語に新たな捻りを加えることができるだろうと思ったんです。

キャンディマン
© 2021 Universal Pictures

──その続編となる本作でもまた、人種差別や都市の高級化が色濃く反映されている作品だと思いますが、前作からアップデートされているところはありますでしょうか?

これまでのキャンディマンはヴィランのように幽霊的存在として登場していました。テーマは変わりませんが、今回の映画では観客が登場人物に共感する機会を与えています。キャンディマンがキャンディマンになるまでの歴史がさらに詳しく説明されています。自分の意思に反して怪物的存在にされてしまったというのはよくあることですから。これらの背景を踏まえた上で、僕たちがより共感できる人物として描かれているでしょう。

──単なる恐怖の都市伝説というわけではないということですね。

1992年に一作目が公開されたときは、キャンディマンを呼び起こしたり、召喚したりすることに、ある種の期待感が持たれていましたが、この映画が公開された後は、別の意味合いに変化すると思います。

──キャンディマンは自分の意志に反して、悪の存在となりましたが、あなたにとってはどんな存在ですか?

キャンディマンには様々な背景や要素があります。悪の存在として彼が多くの人々から見られていることは知っていますが、その中には彼を英雄的な存在として考えている人もいるでしょう。私にとっての彼は被害者としての過去を持つ存在で、悲劇的な過去を持つ人物だと思っています。それは、キャンディマンが自分の意志に反して、怪物的存在と化してしまったという過去があるので。つまり、この映画は不本意な殉教者の物語であり、最終的に祝福された人、あるいは犠牲になった人が、その死に方によって悲惨な結果を招いてしまったというわけです。

彼には深い悲劇が隠されているわけですが、どのように思うのかは、自分の置かれた立場にもよるのではないでしょうか。ある人は彼を英雄と見なし、ある人は犠牲者と見なすでしょう。ただ、僕としては、彼はある種の自由を求めている悲劇的な人物であると考えています。

目に見えない恐怖

キャンディマン
© 2021 Universal Pictures

──本作では目には見えない恐怖が多く潜んでいました。それは黒沢清監督の作品をはじめ、日本の映画から多く観られる要素だと思いますが、その影響についてはいかがでしょうか?

イエスと言えるほどの知識は僕にはありませんが、あったかもしれません。アーティストの仕事というのは、どこからでも影響を受けることだと思っているので。

──この映画を観て恐怖心を抱くよりも心が痛みました。ホラー映画ではありますが、本作を通して観客にはどのような感情を抱いて欲しいですか?

僕たちの仕事というのは、人を楽しませること。ですから、ホラー映画の体験を期待する観客には、ホラー映画における約束的要素を届けることが出来ればと考えています。ただ、議論を引き起こすために作られた作品であれば、その主題に観客が共感と理解を示し、衝撃を受けて欲しいのです。そして単なる娯楽作品ではなく、ジェットコースターのように激しく感情を揺さぶられてもらいたい。

俳優としての影響

キャンディマン
© 2021 Universal Pictures

── アンソニーが、キャンディマンの謎にのめり込み過ぎていく姿には衝撃を受けました。身を削りながらの演技にさえ見えるほどでしたが、私生活での影響はありませんでしたか?

そういうことはとくにありませんでした。仕事は仕事で、家に役を持ち帰らないようにしていますから。ただ、映画の中では、今でも心に残っていることがあります。

──それはどんなことでしょうか?

例えば、カブリーニ=グリーンを歩いていると、ゴーストタウンのようになっていることに気がつきました。映画には登場していなかった家族や彼らの人生について想像したとき、ほかのみんなはどこに行ってしまったのだろうと。建築物は残っていても、人がいなくなったその場所を歩くのは、とても不気味な感じがしてなりませんでした。それは撮影後、今日に至るまで心に残っている感情のひとつです。

『キャンディマン』は公開中。

Writer

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Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。

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