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【解説】『キャプテン・マーベル』サミュエル・L・ジャクソンが25歳若返ったウラ側 ─ 「目標は観客が気にならないこと」

キャプテン・マーベル
MARVEL/PLANET PHOTOS 写真:ゼータ イメージ

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『キャプテン・マーベル』では、ニック・フューリー役のサミュエル・L・ジャクソンやフィル・コールソン役のクラーク・グレッグが最新のVFX技術により若返って登場する。米The Wrapと米IndieWireは、視覚効果スーパーバイザーのクリストファー・タウンゼンド氏にインタビューを実施。サミュエルの25歳もの若返りを実現した舞台裏を伝えている。

『アイアンマン』ニック・フューリー
『アイアンマン』(2008)のニック・フューリー © Paramount Pictures 写真:ゼータイメージ

若々しいがゆえのメリットと困難

MCUにおいて、VFXを使用して俳優の“若返り”が行われるのは本作が初めてではない。これまで『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)でロバート・ダウニー・Jr.が、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)でカート・ラッセルが、『アントマン』シリーズでマイケル・ダグラスやミシェル・ファイファーらがそれぞれ“若返ってきた”のである。

だが『キャプテン・マーベル』が過去の作品と大きく異なるのは、“若返り”の技術を短い一場面ではなく、本編の大部分に施さなければならなかったこと。特にニック・フューリーは本編の3分の2に登場するため、過去作品で使用されてきたボディダブル(代役)を用いての撮影は、時間的な面でも不可能だった。

そこでマーベル・スタジオは、本作のVFXを担当したLola Visual Effectsにボディダブルを用いずに“若返り”を実現することは可能なのか実験するよう要請。その結果、ボディダブルなしでの撮影が可能となり、撮影時間を半分に短縮することができた。本作のVFXチームは、『ジュラシック・パーク』(1993)や『ダイ・ハード3』(1995)、『187』(1997)、『交渉人』(1998)、『スフィア』(1998)など、サミュエルが1990年代に出演した映画を参考にして作業を進めたそうだ。

キングコング 髑髏島の巨神 サミュエルLジャクソンインタビュー
©THE RIVER

なお今回の“若返り”においては、サミュエルが70歳という実年齢にしては非常に若く見えること、肌の状態が良かったこともプラスに働いたという。視覚効果スーパーバイザーのタウンゼンド氏は「首の皮膚を伸ばすなど、メイクアップの力も少しありました。ですが、みなさんが映画で観るサム(サミュエル)は人工皮膚を貼り付けるなどしておらず、ただほっそりさせ、張りやスムーズさを足しただけの姿です」と語っている。しかしその一方、サミュエルの若々しさがVFXチームにとってのハードルになった部分もあったという。

「単純に人からシワを取り除くと、その人を10歳から15歳ほど若く見せることができます。ですが、サムみたいにあまりシワがない人の若返りを行う場合、より生理学的な変化に基づかないといけません。筋肉組織や肌のきめ、首やあごへの重さのかかり方などが時間とともに変化していくんです。」

「目標は観客が気にならないこと」

タウンゼンド氏をはじめとするVFXチームは何年もの歳月をかけ、身体や顔の生理的な特徴を研究。一歩間違えればマネキンのような完璧人間に仕上がってしまうため、欠点をなくしきってしまうことのないよう、バランスには細心の注意を払って作業が進められたという。本作の“若返り”は、過去に比べて技術が格段に進歩したためではなく、ひとえにチームが経験を重ね、また身体や顔についての生理的特徴に関する知識を向上させたために可能となったのだとか。タウンゼンド氏は、フレームをひとつひとつを繰り返し編集し続けたチームの努力も賞賛している。

「一番難しかったのは、あるフレームからその次のフレームへの繋がりがスムーズに感じられること、顔が揺れたり動いているように見せないということでした。じっと集中し、もともとの演技をできる限り保とうと努める人物の芸術的手腕に全てがかかっていたんです。」

Lola Visual EffectsのVFXスーパーバイザーであるトレント・クロース氏も、「全編のすべてのショットにおいて、(フューリーを)サムに見せたかったんです。特に当時の年齢のサムに」と振り返っている。しかし大勢のスタッフが携わる『キャプテン・マーベル』の製作においては、それも決してたやすいことではない。

「何十人ものアーティストと一緒に何百ものショットを作業していると、それぞれのショットが独自の方向へ進んでしまい、すべてが別人のように見える可能性は大いにありました。そこで繋がりを維持するため、一貫性や内部でのチェックなどは非常に厳しく行わなければならなかったんです。」

継続性や自然な若返りを実現するため、VFXの作業は試行錯誤を重ねながら完成へと向かっていった。タウンゼンド氏は「サムの初登場では“うわっ、若いサムだ!”って思ってもらえるでしょう。でもその後は、そのことを誰にも気にしてほしくなかったんです」と意図を明かす。「私たちが仕事を全うできていたなら、きっと実現していることでしょう。観客がまったく疑問に思わず、そもそも考えすらしないでくれたらと思います」。“若返り”技術の完成度に注目が集まるのではなく、むしろ観客に気づかれないことこそが目標だったのだ。

キャプテン・マーベル
MARVEL/PLANET PHOTOS 写真:ゼータ イメージ

“若返り”VFX技術の今後

俳優を“若返らせる”VFXは、もちろん『キャプテン・マーベル』にとどまらず、今後さらに用いられる機会が増えることになりそうだ。2019年の公開予定作品だけでも、アン・リー監督によるSFアクション『ジェミニ・マン(邦題未定、原題:Gemini Man)』ではウィル・スミスが自身の若いクローンを演じるため、マーティン・スコセッシ監督のマフィア映画『ジ・アイリッシュマン(邦題未定、原題:The Irishman)』ではロバート・デ・ニーロやアル・パチーノらが若い姿で登場するため、それぞれに技術が駆使される予定だ。

タウンゼンド氏は、この“若返り”技術について「たくさんの作品に出演してきた俳優を若返らせることには強みと弱みがあります。参考にできる作品は数多くありますが、同時にその出来栄えを批判したり、若い俳優と直接比較する専門家はたくさん出てくるでしょう」と述べている。こうした技術が使用される場合、俳優の演技をなるべく維持しつつ、物語の邪魔にならないよう細心の注意を払うべきだと強調した。

またクロース氏によれば、そう遠くない将来、人工知能(A.I.)の技術が“若返り”に用いられる見込みとのこと。しかし、氏は同時に慎重な考えも示している。「すでにA.I.は素晴らしい進歩を見せていると思います。ただし、手順通りに生成されるCG人間が長編映画の精密な調査に合格できるレベル(そしてアートディレクションに必要な柔軟性に対応できるレベル)に到達するには、まだ数年かかると思いますね」。

映画『キャプテン・マーベル』は2019年3月15日(金)より全国公開中。血のにじむような努力によって実現された若き日のサミュエルの姿を見つめながら、さらに映画界で存在感を示していくであろう“若返り”技術の未来に思いを馳せてみてほしい。

『キャプテン・マーベル』公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/captain-marvel.html

Sources: The Wrap, IndieWire

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Marika Hiraoka

THE RIVER編集部。アメリカのあちこちに住んでいました。

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