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『ブラックパンサー』監督、チャドウィック・ボーズマンへの追悼文を発表

ブラックパンサー
Black Panther (2018) Directed by Ryan Coogler ©Walt Disney Studios Motion Pictures 写真:ゼータイメージ

『ブラックパンサー』(2018)の脚本・監督を務めたライアン・クーグラーが、43歳の若さで死去した主演俳優、チャドウィック・ボーズマンへの追悼文を公開した。全文はマーベル・エンターテインメントの公式サイト(英語)などで閲覧することができる。

ライアン・クーグラー
ライアン・クーグラー Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/36203771036/

「偉大なるチャドウィック・ボーズマンの逝去について、私の思いを述べる前に、まずは彼にとって非常に大切な存在であるご家族へのお悔やみを申し上げます。特に妻であるシモーヌに」。クーグラー監督の声明文はこの一文から始まり、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)のアンソニー&ジョー・ルッソ監督とマーベルによるキャスティングを受け継いだことを振り返って、「これからもずっと感謝していくことでしょう」と記した。

「編集室で彼の出演シーンを観た時のことは決して忘れません。ブラック・ウィドウ役のスカーレット・ヨハンソンとの、それから南アフリカの名優であるジョン・カニが演じる、ティ・チャラの父親であるティ・チャカ王とのシーン。この映画(『ブラックパンサー』)を撮りたいと思った瞬間でした。スカーレットが去った後、チャド(チャドウィック)とジョンが、私の聞いたこともない言葉で話し始めたんです。そこにはよく知っている、アメリカの黒人の子どもがよく鳴らす唇の音がありました。無礼だ、不適切だと叱られることもある音です。けれど、古くからある、力強い、アフリカ的な音楽性がありました。」

この言葉は、ジョンの母語である「コサ語」だった。チャドウィックがコサ語を学び、セリフを話したという事実を知り、クーグラー監督は「まだチャドには会ったこともありませんでしたが、すでに俳優としての能力に敬意を抱いていました」と記している。コサ語は『ブラックパンサー』の舞台であるワカンダの公用語という設定となったが、これはチャドウィックが希望したもの。またチャドウィックは、西洋のそれではなく、アフリカのアクセントをセリフに採用することで、アフリカの王たるティ・チャラという人物を表現したいと考えていたという。

クーグラー監督がチャドウィックに会ったのは2016年初頭、『ブラックパンサー』の監督に正式就任した後のことだった。2人は互いの人生や過去の学業のこと、ティ・チャラやワカンダへの考え方などについて語り合ったという。クーグラー監督は「チャドのすさまじさはその時に分かりました」という。「落ち着いていて、自信があって、常に学んでいる。だけど親切だし、ほっとするし、世界一温かな笑い方をする。彼の目は年齢よりもずっと多くを見てきているけれど、何かを初めて見る子どものように輝いてもいました」。

チャドウィックは『ブラックパンサー』の準備段階から、クーグラー監督と議論を重ね、あらゆる決断に関わってきたという。出演者のオーディションにも参加し、エムバク役のウィンストン・デュークやシュリ役のレティーシャ・ライトとは、出演が決定する前から化学反応を見せていたそうだ。クーグラー監督が製作に苦労するさなかも、チャドウィックは「世界はまだ僕たちのしていることに心の準備ができていないだろうけど」「これは『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』よりも僕たちには大切だ」などと励ましの言葉をかけていたという。

「私は頷いて笑っていましたが、彼のことを信じてはいなかったのです。この映画が成功するかどうか、私にはわからなかったし、自分が何をしているのかもわかっていなかった。だけど振り返れば、チャドには私たちがわかっていないこともわかっていた。彼は先の長い戦いをしながら、仕事に取り組んでいました。」

撮影中、チャドウィックとクーグラー監督はセリフやシーンなどについての議論を続けていた。チャドウィックは「戴冠式ではワカンダ人が踊るべきだ」と提案し、初期の脚本で、エリック・キルモンガーがワカンダへの埋葬を求めていたことにもあえて疑問を提示したという。「もしキルモンガーが別の場所に葬るよう求めるとしたらどうなるのか、と聞いてくれました」。

なおチャドウィックは、自身のプライベートを非常に大切にしており、仕事相手には病の事実を隠していたとのこと。クーグラー監督も「ご家族の発表した声明を読んで、出会った時から闘病生活にあったことを知りました」と記している。

「彼は美しい人生を生き、素晴らしい芸術を生んだ。来る日も来る日もそうだった、それが彼という人間です。壮大な打ち上げ花火だったのです。その鮮やかな火花については、いずれお話しするつもりです。とても素晴らしいものを私たちに残してくださいました。

この大きな喪失を、私はまだきちんと悲しめていません。そうなるはずではなかったことの準備をし、想像をして、彼が口にする言葉を記すことに昨年(2019年)を費やしました。もうモニター越しに彼のクローズアップを見ることができない、それから彼のところに行って、もうワンテイクやりましょうと言うことができないということが分かって、本当につらいのです。

それから、もう話せない、FaceTimeができない、メールのやり取りができないと知ることはもっとつらいものです。パンデミックに対応するため、彼はよくベジタリアンのレシピや、食事療法のやり方を送ってくれていました。彼はがんの苦しみと戦いながら、私のことや、私が愛する人たちのことを気にかけてくれていたのです。」

クーグラー監督はこの文章を、『ブラックパンサー』でティ・チャラがワカンダの祖先たちとつながるシーンを撮影した際のエピソードで締めくくっている。撮影はアトランタの倉庫にて、ブルースクリーンを張り、照明機材を組んで行われたが、監督は「それでもチャドの演技がシーンを本物にしてくれました」と記した。「それは彼と出会った時から、祖先たちが彼を通して語ってくれていたからでしょう」。

“祖先”とは、アフリカにおいて、この世を去った愛する人々のこと。遺伝的につながりのある人であれ、そうでない人であれ、“祖先”と形容される。「私は彼が生き続けること、私たちを祝福し続けてくれることを信じていました。しかし彼の内側にあった大きな心、深い感謝の念をもって、私は、チャドが祖先になったという事実に向き合わなければなりません。それに彼は、また会える時まで、私たちを見守ってくれていると思うのです」。

Source: Marvel

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。