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【名作レビュー】青春とは、人生とは?一年の終わりに観たい『いまを生きる』

2016年ももうすぐ終わろうとしている。今年1年もたくさんの映画が公開されたが、皆さんが最も心に残った映画はどの作品だろうか?

観る映画を選ぶ時、人によって様々な基準があるかと思う。カルト映画ばかり観たり、はまっている監督の作品をひたすら観たり、泣きたい気分の時にはとことん悲しい映画を、失恋した時にはあえてスプラッター映画でモヤモヤを吹っ飛ばして。年末のこの時期には、「今年一年を何の映画で締めくくろう?」と考えている方もいるのではないだろうか。

もちろん映画館に行くも良し、まだ観たことがない作品を発掘するも良し。でもここでは、“いつ観ても良い、どの気分の時に観ても良い”永遠の良作を振り返ってみるのはどうだろう。今回改めてご紹介したいのは、ロビン・ウィリアムズ主演、若きイーサン・ホーク出演の『いまを生きる』(1989年)だ。

https://deadpoetssocietyrules.wordpress.com/themes/carpe-diem/
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ストーリー

https://youtu.be/wrBk780aOis

舞台は60年代、バーモントにあるエリートの全寮制学校だ。厳しい進学校にやってきた英語教師キーティング(ロビン・ウィリアムス)の、他とは全く違う独特な授業と人柄に、生徒たちはどんどん魅せられていき、やがて“人生とはなにか”について考えさせられていく……といったストーリーだ。

学校が舞台で、登場人物たちは10代の少年たち。それでもただの学園ものではない。彼らと同じ10代の時に観ても、大人になっても、いや大人になった時こそじっくり観るべき作品なのではないかと思う。

“詩”が訴えかけてくるもの

“詩”と聞くとなんだかハードルが高い。なかなか普段から詩に触れている人は少ないだろうし、きっと小説などよりも手に取りにくいだろう。

『いまを生きる』にはたくさんの詩が登場する。英語教師のキーティングが、詩を通じて人生や物事の考え方を生徒たちに語りかけるのだ。詩の美しさに感銘した生徒たちは、キーティングが学生時代に結成していた「死せる詩人の会」を復活させ、お菓子や飲み物を持ち寄り、自分の感情を彼らなりに詩に仕上げて読み上げる。10代の少年たちが、淡い恋心や自分についてちょっぴりクサい詩にして朗読する様子はとても微笑ましい。

詩は比喩的で奥深く、しかしその短い言葉は元からそこに存在しているかのようにしっくりとそこに収まっているから不思議だ。劇中で読み上げられる詩を聞くうちに、自分の普段使われない感情や神経が刺激されていることに気づくだろう。今まで言葉にできなかった、正解が見つからなかった何かが、柔らかく溶け出していくような感覚に襲われるのだ。どんな気分の時に観たとしても、この美しい言葉の数々に、きっと温かい涙が溢れてしまうに違いない。

学校、そして教師という存在

学校というのは不思議な場所だ、と思われたことのある方もいると思う。規則があり、制服があり、決められた授業を決められた時間に、同い年の仲間たちと机を並べて受ける。社会に出てしまえば制服はなくなり、頭髪の規則もなくなり、「解放された」という喜びと共に違和感を感じてしまう。

そんな「学校」という場所に欠かせないのは教師の存在である。

私たちに新しい物事を教え、将来へそっと背中を教えてくれる先生。社会に出て、大人になればなるほど、自分を導いてくれる人に出会うことは難しいのではないだろうか。何か教えを請いたい時には、逆に自分が教える立場になっていたり、また仕事には上司がいても、プライベートで“何かを教えてほしい”と言える存在はなかなかいないだろう。

自分で答えを見つけ、自分で道を拓いていく。それが大人になることでも、人間なら誰しも、路頭に迷ったような気持ちになることはあるはずだ。

http://abcnews.go.com/topics/entertainment/celebrity-deaths.htm
http://abcnews.go.com/topics/entertainment/celebrity-deaths.htm

そんな時、『いまを生きる』を見ると、久しぶりに“先生”に出会える。「あの先生の授業、おもしろいから好き」、「この前相談を先生にしたら、すごくすっきりしたの」。学生時代、友達との会話にあがったような、大好きで信頼していた先生を思い出す。

キーティングは人を導いていく強さがある人間だ。詩を通じて、会話を通じて、生徒たちに寄り添い、彼らを導いていこうとする。“人を導く”ことはそうそうできることではない。簡単なことではない。しかしこの映画は、言葉で、コミニュケーションで、誰かを少しでも救うことができる、そして導くことができると伝えてくれるのだ。

「何かに夢中になる」ということ

好きなことを見つける、ということは結構難しい。幼少期からスポーツや絵を習っていれば、大人になってからも趣味として続けていけるかもしれないが、大人になってから新しく趣味を見つけるというのも難しい。

http://www.indiewire.com/2014/07/watch-dead-poets-society-pals-ethan-hawke-robert-sean-leonard-go-to-new-york-for-an-audition-in-10-min-clip-84207/
http://www.indiewire.com/2014/07/watch-dead-poets-society-pals-ethan-hawke-robert-sean-leonard-go-to-new-york-for-an-audition-in-10-min-clip-84207/

この物語に登場する少年たちには好きなことがある。ある少年には初めて好きな人ができるし、ある少年は演劇が好きだ。好きなことに向き合う彼らの瞳はキラキラしているし、その姿はとても幸せそうだ。本当に夢中になれることがあるのは、とても素晴らしいことだし、また生きる意味でもあるのだと感じさせてくれる。

しかし、それでも自分が心からやりたいことを行動に移すこと、人に宣言できること、そして好きなことを続けていくことには覚悟がいる。周囲からの反対や自分の中での葛藤があり、また本当にやりたいからこそ、本当に好きだからこそ、真剣に取り組むことには勇気や覚悟が必要なのだ。

大人になってから自分の本当に好きなことに取り組んでいる人は、仕事にしている人はどれくらいいるのだろう。取り組んでいる人にしても、それまでの道のりはどれくらい大変なものだっただろう。それでも『いまを生きる』は、大好きだと胸を張って言えることがあるのは素晴らしいと教えてくれる。たとえ、それがすぐに見つからなかったとしても、それが何かを考えることに意味があるのだと。

「いまを生きる」というテーマ

タイトルでもある『いまを生きる』。私たちは映画のパッケージを手にとった時から考えるはずだ。「いまを生きる」とはどういうことなのだろうと。今を一生懸命生きること? やりたいことをやること? 悔いのないように生きること? どれも私たちにはきっと理解できることだ。でも言ってしまえば、そんな綺麗事ではうまくいかないのがこの社会だし、人生ではないだろうか。

厳しい進学校では、破天荒な授業を行うキーティングは異端者だ。きっちりと机に座らせ、たくさんの宿題を出し、点数で正確に成績をつける。他の先生たちはこの物語では頭の固い大人たちに思える。でも実際の社会だとどうなのだろう。こういった“周りと順応している普通の人たち”の方が順調に昇進し、波がたつこともなく、うまく生きていけるものではないだろうか。

『いまを生きる』は少年たちが友情を育み、恋をし、成長していく……というとびきりハッピーな青春ストーリーではない。すっきりとした後味の、「みんなが幸せになれました!」という物語でもない。しかしそれこそが、大人になってから観ても激しく感情を揺さぶられ、心に響く理由のひとつだろう。

『いまを生きる』を観て、作品のテーマについて思うことはきっと人それぞれだ。人によって、その人生はひとりひとり本当に違うものだからだ。でも私が思うのは、“人は生きている限りずっと成長し続ける”ということだった。どれだけ悲しいことやつらいことがあっても、自分の人生を続いていくということだ。

“今”が積み重なり、経験も増え、新しい感情も増えて、ずっと人生は続いていく。物語の終盤では、少年たちに厳しい現実が次々と降りかかる。しかし観終わったあとには「それでも、頑張らなくちゃ」と思える。一年が終わる時、もう一度この映画を観返そうと思った理由はここにある。

皆さんの心にいつまでも残る映画は、繰り返し繰り返し見たいと思える映画はなんだろうか?

Eyecatch Image: http://www.ibtimes.co.uk/rip-robin-williams-dies-10-memorable-quotes-dead-poets-society-1460744
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Writer

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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