Menu
(0)

Search

【ネタバレ無し】僕が『デッドプール』の大絶賛レビューを書かざるをえない理由

映画『デッドプール』評価・感想

6月1日、ついに映画『デッドプール』が日本で封切りとなった。海外では2月12日に公開されており、R指定映画としては異例の大ヒットを記録。アメリカでは5月10日にBlu-ray/DVDも発売されている。世界的なデップー旋風が吹き荒れる中置いてけぼり状態の日本のファンは「公開はまだか」と歯を噛んだものだ。

海外に遅れる事約4ヶ月、おあずけ状態を喰らってようやく会えた『デッドプール』、鑑賞後の満足感は高いものであった。なぜ『デッドプール』は素晴らしかったか、その理由を挙げたいと思う。

久しぶりにリラックスして楽しめるヒーロー映画

デッドプール 評価レビュー

マーベルとDCが手掛けるアメコミヒーローモノの映画作品は近年日本でも人気と知名度を高めており、今年は既に『バットマンvsスーパーマン』『シビルウォー:キャプテン・アメリカ』の公開で大きな盛り上がりを見せていた。
シリーズを重ねるにつれ、登場人物や世界設定などが壮大かつ複雑になっていき、何通りもの楽しみ方ができる『ユニバース』はファンに喜ばれる一方で、新参ファンが入り込みにくくなっていたのも事実だ。
たとえば、これまでマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)をあまり真剣に観ていない人が『シビルウォー』を観ても、キャラクターや組織、過去の事件などの設定の予備知識がない状態では分かりにくい部分も多く、かといって過去作をおさらいしようと思ってもその量は『アイアンマン1』から『アントマン』に至るまでそこそこ大量だ。「シビルウォーを100%楽しみたかったら、MCU関連作を観ておこう!」とそのラインナップの多さにゲンナリしてしまうのも無理はない。
原作や過去作を知らないと、語ることすら許されない、”にわか”は黙ってろ、とも感じとれる空気が立ち込め始めているアメコミ映画において、デッドプールがこのタイミングで「細かいことは気にせずに、誰でもウェルカムだぜ」とでも言いたげに映像化されたのは単純に嬉しい。

ストーリーのシリアス化もわかりやすい傾向だ。『ダークナイト』『バットマンvsスーパーマン』はその最たる例だし、アメコミ・ヒーローものの映画はもはや「スカッと楽しめるアクション映画」の範疇を超え、「ヒーローの葛藤」「人命の尊さ」などを描く重厚なシリーズに変貌した。もちろんこういったテイストに異議を唱えたいわけではないが、観客はいつのまにかヒーロー映画を観るにあたって肩に力が入った状態でシートに着席するようになっていたのではないだろうか。

そういった意味で2015年の『アントマン』はシンプルで楽しいヒーローアクションを見せてくれながらも、MCUに馴染みのない観客が「?」とならない程度で程よくMCUと絡めた意味で評価が高かったが、今作『デッドプール』はそんな「気軽に観られて、カッコよくて楽しいアメコミヒーロー」といった要素をブーストさせたような爽快さがあった。アメコミ映画が今のように複雑化しすぎる前…2002年の『スパイダーマン』一作目が公開された時のような、シンプルに新鮮でワクワクした頃の気持ちを思い出させてくれた。

「ヒーローに目覚めるまで」の描き方の妙

スーパーパワーを持つ変身系ヒーローが映画に初登場する際、観客はまず主人公がその能力に目覚めるまでのプレリュードに付き合わなければならない。…デップー風に言えば「前戯」といったところか。ところがそこは我らが「俺ちゃん」、前戯をすっ飛ばしていきなり本番をブチ込んできてくれる。ヒーロー映画の『儀式』とも言うべきシナリオ構成に中指を立てるがごとく、早い段階からいきなりコスチュームに身を包んでクールなアクションを決めてくれるデップーさん。一作目なのに、いきなりシリーズ物の二作目の勢いに乗ったスタートダッシュのようなノリで映画が始まった時点から、この映画は成功が約束されていたといっても良いだろう。

もちろん、デッドプールことウェイド・ウィルソンがいかにして不死身の体を手に入れ、いかにしてあの赤いコスチュームが出来上がったのかも丁寧に描かれる。お馴染みの「主人公が何らかの事件でスーパーパワーを得て、コスチュームを作って、ヒーローに目覚める」という構成で観客が陥りがちな「早くヒーローになって戦ってくれないかなぁ」という”飽き”に似た感覚は無く、「今目の前でクソ暴れまわってるこの訳の分からないデッドプールとかいうヤツは一体何者なんだ」と気になり始めたジャストタイミングで「スーパーパワーを得るまで」の説明が始まる。この時系列が前後する構成は見事だと思った。

コミックファン、映画ファンへのサービスも満載

デッドプールがアメコミに馴染みのない観客にも広く受け入れられやすい作りになっている一方、もちろん原作ファンへの愛情もたっぷり伝わる「小ネタ」が数えきれないほどに盛り込まれている。デッドプール役のライアン・レイノルズが『ウルヴァリン X-MEN : ZERO』で演じた失敗作版デッドプールや、これまた失敗作との烙印を押されたDCの『グリーンランタン』のパロディネタなど、ファンが吹き出すネタで何度も楽しませてくれた。小ネタの解説については、劇場で販売されているパンフレットに詳しい解説が掲載されているので参照して欲しい。

デッドプールは、自らをコミックのキャラクターであると自覚しており、観客(コミックの場合は読者、ゲームの場合はプレイヤー)と作品世界との間に存在する『第四の壁』をぶち破って観客に語りかけてくるというこれまでにない特徴を持ったキャラクターだ。映画でもその特性をふんだんに活かし、観客に語りかけてくるのはもちろん、カメラのアングルを勝手に変えたり、楽屋ネタを飛ばしたり、「いいぞもっとやれ!」なハチャメチャ振りで、色んな意味で暴れてくれるのである。

日本のプロモーションの素晴らしさ

全世界で記録的なヒットを飛ばしたデッドプール、前評判が高かっただけにその出来にも鑑賞前からある程度安心はしていたものの、唯一の不安といえば日本国内でのプロモーションだった。そもそも世界公開と日本公開におよそ4ヶ月の長い差があり、海外ではBlu-ray/DVDが発売されてしまっているという事態から、国内での取り扱いに不満があったのも事実だ。おまけにデッドプールというキャラクター、アメコミファンの間では人気者だが、一般層での知名度は決して高くない。その赤いコスチュームからスパイダーマンと見間違えられても無理は無い。
この知名度の低いキャラクターを、日本の配給会社、広告代理店はどうやってプロモーションしていくのだろうか…。『いいとも』のエンディング前の外タレ枠みたいに、雑に扱われたらどうしよう…。筆者の杞憂をよそに、デッドプールのマーケティングはファンを大切にした素晴らしい内容だったと思う。

「観客と直接絡む」という設定を活かし、マーケティングチームはまずデッドプールの公式SNSアカウントを開設。アカウントではデッドプールの劇中での口調そのままに、軽快なつぶやきを発信し、フォロワーの絡みにも積極的にリプライを飛ばしている。

また、巨大なスタチューを乗せたアドトラックが日本各地に出没し、SNSでその目撃情報が拡散された。

突然始まった「#かるたプール」シリーズも無事完結。

さらに、ライアン・レイノルズも日本のファンに向けたビデオ・メッセージにノリノリで対応。第四の壁を超える「絡めるヒーロー」であるが、主演俳優が直接コスチュームを着用して日本のファン限定に動画撮影してくれるのはけっこう凄い。

他にも、様々なメディアとタイアップし、日本独自のユニークな企画でその存在感をアピールしていた。
日本での洋画のプロモーションといえば、ファンや世界観を完全無視して、全く関係のないタレント声優を起用して舞台上でその名前を忘れらてしまったり、全く関係のないアニメと謎のコラボをされてしまったり、全く関係のないJ-POP曲をテーマ曲にされてしまったりと、水と油をカネの力で無理矢理混ぜて強引に飲ませるような虚しいものばかり目立っていたが、デッドプールはキャラクターのハチャメチャな設定を活かし、正攻法でのプロモーションに徹していたと思う。当然、ファンの間でも喜んで受け入れられた。

デッドプールのプロモーションは正しかったと思う。今作が日本でも大ヒットしてくれれば、関係のないセグメントに強引に結びつける謎のプロモーションは不要だった事の証明にもなる。ジャパン・プレミアでは、GACKTが「世界でずいぶんと興行の記録を塗り替えているので、日本が塗り替えられなかったら…、日本がつまらない国だと思われるのが嫌だな…というのがあるので、みんなで広げてくれたら嬉しいなと思います」ともコメントしている。デッドプールに込められた期待は大きい。日本でのヒット祈願の意味も込めて、ここに大絶賛の評価を下したいと思う。

まとめ

デッドプール レビュー
http://www.indiewire.com/2015/12/watch-deadpool-trailer-tease-and-imax-poster-continues-to-test-the-limits-of-characters-obnoxiousness-95842/

あらためて紹介したい映画『デッドプール』は、アメコミに詳しくない方でも充分楽しめるクールなヒーロー映画だ。並外れた銃の腕前に、日本刀を二刀流で操り、不死身の身体は刺されようが斬られようが穴が開こうがヘッチャラ。悪党はすげー悪いヤツで、デッドプールに同情してやっつけたいと思う。『テッド』ばりのお下劣ネタに、タランティーノ映画ばりのバイオレンス要素。小ネタも満載で、多くの映画ファンを唸らせるであろう巧妙な作品に仕上がっている。デップー最高!

おっと、この映画は15禁だから、ちびっ子はオトナになってから観ようね!

Writer

アバター画像
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly