地下鉄の乗客の似顔絵で大ブレイク、デヴォン・ロドリゲス日本独占インタビュー ─ 「あなたの情熱を追い続けて」

TikTokでの大ブレイク

誰もが自宅隔離を強いられ、暇を持て余していたこの時期、TikTokが急台頭した。デヴォンもチェックしてみたが、その時は「踊りを披露するためのアプリ」だと思っていた。「ばかばかしい。僕は踊りなんかやらないぞ」。
ある時、Instagramで10万人以上のフォロワーを持つ女の子と出会った。彼女は絵を描く様子を動画にして投稿していた。「やっていることは僕と一緒なのに、どうして彼女はこんなにフォロワーがいるんだろう?」デヴォンは興味を持って、彼女と友達になってみた。
どうやったの?と尋ねてみると、「TikTokをやりなよ」と勧められた。「TikTok?あの踊るアプリのこと?」「ううん、TikTokは別に何をやってもいいんだよ」。
デヴォンはすぐにTikTokを始めた。彼女みたいに、絵を描く様子を動画に撮って公開してみよう。再生回数は……、せいぜい500回だった。
これじゃあダメだ。今度は絵にニス塗りをする動画にしてみよう。再生回数は1,000回。
まだダメだ。それじゃあ、有名人の似顔絵を描く動画はどうか。再生回数は2,000回。
「そんな感じで、30通りのアイデアを試してみましたが、どれもうまくいきませんでした」。自分はTikTokに向いていないんだ。そう思って落ち込みながら、他に普段自分がやっていることを動画に収めた。地下鉄の見知らぬ乗客を描く様子だ。「今度は、うまくいくといいな……」。
しばらくして、スマホを開いてみた。再生回数は……、5万回!
「嘘だろ!」デヴォンは驚いた。嘘じゃない。10分後には10万回再生に伸び、みるみるうちに30万回再生になった。止まらなかった。その晩のうちに、500万回再生近くまで伸びた。ゼロだったフォロワーも、一夜にして10万人に増えた。
「すごい、すごいぞ!」デヴォンは大興奮だった。また明日、別の人を描いた動画を掲載してみよう。もし、そっちもヒットしたら、きっとこれは本物だ!頭の中で、皮算用の数字がぐるぐる回る。300万、400万、500万……。
そして翌日、新しい動画を掲載した。「頼む、500万回いってくれ、500万回いってくれ……」。結果は……。
2,100万回再生だった。フォロワー数は30万人に達した。デヴォンは祖母のもとに飛んで行った。「おばあちゃん、僕これから有名人になるよ!」「えぇ?どういうことだい?」「本当なんだ、僕を信じてよ!」
二週間後、彼のフォロワー数は100万人になっていた。ひと月もすると、スポンサー企業が現れるようになった。会社のロゴ制作依頼などで、「結構な依頼料」をもらえるようになった。24歳、デヴォンはついに祖母の家を出た。今では自身のスタジオを構え、アシスタントも雇用している。「TikTokのおかげです。もしもTikTokがなかったら、僕は今どうしていただろう?」
デヴォンの地下鉄動画では、最後に“すみません、あなたを描きました(Excuse me, I draw you)”と言って絵を手渡すのがお決まりだ。乗客は、はじめは怪訝そうにしたり、受け取りを拒否したりしようとする。しかし、自分の姿が細かに描きこまれた絵を見るや、驚いたり、子どものように笑ったりする。
それは、一見近寄りがたいような人、できれば隣の席には座りたくないと思うかもしれない人も同じだ。顔中にタトゥーが入っている人や、眼球にまでタトゥーを入れた黒目の人、額にシリコンの角を埋める身体改造を施した人などもいる。
相手が“コワモテ”な人でも、デヴォンはへっちゃらだ。「ブロンクスで育つと、危なそうな人はそこかしこにいましたから」。3歳の時に自分を見捨てた父親とも、17歳の時に再会した。「親父は顔にタトゥーが入っていました。そんな感じなので、僕は誰とでも分け隔てなく話すことができます。怖そうに見える人でも、実際にはほとんどは良い人です。そういうことを世界に示したい。誰だって愛そう、誰とでも友達になろうって」。
絵を受け取って、思わず泣き出す人もいる。「誰かが自分の特徴を見て、それを捉えてくれる。ありのままの自分を評価してくれた、そういう事実が心を動かすのだと思います」と、デヴォンは話す。人が自分のことを視界に入れてくれる。気にかけてくれる、ということの嬉しさだ。「それにニューヨークでは、見知らぬ人に親切にすることがあまりないから(笑)」。
地下鉄の乗客スケッチは、描き込みの度合いにもよるが、だいたい20〜30分ほどで仕上げられる。一番時間を要するのは髪の毛で、それだけで10分ほどかかる。
絵を描き終わらないうちに、乗客が降りてしまうこともある。「今はコンテンツとして仕上げないといけないので、最初に“どの駅で降りますか?”と確認するようにしています。“描かせてもらいたいので、スマホでも見ていてください”ってね」。