地下鉄の乗客の似顔絵で大ブレイク、デヴォン・ロドリゲス日本独占インタビュー ─ 「あなたの情熱を追い続けて」

スーパースターたちとの共演

時の人となったデヴォンを、企業が放っておくわけがない。強力なインフルエンサーとしてプロモーションに起用されるようになり、おかげでデヴォンはスーパースターたちに次々と対面した。DC映画『ブラックアダム』のレッドカーペットでは、ドウェイン・ジョンソンやピアース・ブロスナンら出演者に似顔絵を描いて渡した。そのほかにも、ロバート・デ・ニーロやアーノルド・シュワルツェネッガー、スティーブ・アオキ、ポスト・マローン、エド・シーラン……。さらにはホワイトハウスに招待され、バイデン大統領にも会った。「すみません大統領、あなたを描きました」。デヴォンの絵を受け取った大統領は顔を綻ばせた。「すごいな!写真みたいだね。そっくりだ」。
俳優でミュージシャンのジャレッド・レトとは2度コラボレーションした。ある日、デヴォンのTikTok仲間の女の子からメッセージが来た。「今ジャレッド・レトがウチに来てるんだけど、来なよ!動画撮ろうよ!」彼女はレトと仕事をしているらしい。地下鉄に乗ってデヴォンに絵を描いてもらう動画企画を提案してみたら、レトが快諾したという。「っていうわけで、今夜来れる?」
マジかよ、と思いつつ、デヴォンはレトに会いに行った。「君のアートは素晴らしいね」と言ってもらえた。「すごく気さくな人でした。それから一緒に地下鉄に行きました」。
コラボレーションの理由は「WIN-WINの関係」だと、デヴォンは説明する。レトは自身のバンド 30 Seconds To Marsの新曲リリースがあり、TikTokでプロモーションをしたいと考えていた。「僕は動画が作れるし、彼はバンドの宣伝ができるってわけです」。
それから半年後、レトのチームから再び連絡が入った。ニューヨークを訪れる予定があるので、また一緒に動画をやりませんか、という誘いだ。今度は地下鉄とは別の形でやりたいという希望を受けて、デヴォンはレトを自身のスタジオに招待した。
当日、レトはセキュリティもつけず、ふらりとやってきた。「うわぁ、すごいね」と言いながら、デヴォンのスタジオのあちこちを見てまわり、筆や画材にあれこれ触れていた。「彼はすごくカジュアルで、ノーマルな感じでした」。この日、デヴォンは油絵でレトを描いた。
様々なセレブリティに会ったが、特にマット・デイモンに絵を渡せたのは嬉しかった。普段はあまり映画を観ないというデヴォンだが、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)は大好きなのだという。
ガス・ヴァン・サント監督作、マット・デイモンとベン・アフレック出演の名作映画だ。数学の天才的な頭脳を持ちながらも、トラウマやトラブルを抱えた青年ウィル・ハンティングと、妻を失って孤独に苛まれる心理学者の心の交流を描く感動作。アカデミー賞では助演男優賞(ロビン・ウィリアムズ)と脚本賞に輝いた。
「彼(主人公ウィル)も、僕と同じように母親からの虐待を受けていました。僕と同じだと思いました」。辛い境遇を、マット・デイモンが演じたウィルに重ねた。「それでも彼には天才的な数学の才能があった。ボストンの小さな街出身というのも、僕の地元ブロンクスを思い起こさせました」。
辛い環境でも、自分の才能を信じれば、きっと何者かになれる。デヴォンはこの映画に勇気をもらった。「小さい頃に観て、“僕もこうなりたい、彼みたいになるんだ”と、強く思いました」。
映画のラストでウィルが街を飛び出したのと同じように、今やブロンクスを出たデヴォンの元に、マット・デイモンその人と会うチャンスがめぐってきた。彼が共同ファウンダーを務める慈善団体「water.org」のイベントだ。マット・デイモン、あなたを描きました。『グッド・ウィル・ハンティング』が大好きです、と、デヴォンは動画の中で言っている。憧れのマット・デイモンが、自分の絵を受け取って「これは素晴らしいよ」と頷いている。