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ディズニー、NetflixなどがAI関連の積極的求人を開始 ─ 脚本家・俳優ストライキも、技術導入の動き止まらず

https://www.flickr.com/photos/chrisgold/52879065935

2023年5月2日に始まった全米脚本家組合(WGA)のストライキ、7月14日からの全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが終結の予兆を見せない中、ハリウッドの大手映画スタジオ&ストリーミング企業は、いまや人工知能(AI)に対する取り組みを減速させない構えだ。

ウォルト・ディズニー・カンパニーやNetflixをはじめとする各社は、すでにAIや機械学習に関する職種を各部門に用意しており、ストライキのさなかに求人を開始している。米The Hollywood Reporterが報じた。

現在、AIの導入について最も強く懸念されているのは、AI技術を通じてスタジオが俳優の姿や声を何度も再利用し、その一方で報酬額を減らす(あるいはまったく支払わない)可能性があることと、ChatGPTなどの大規模言語モデルが脚本の執筆や改稿に使用されることで、人間の脚本家から雇用が奪われる可能性があることだ。したがって、WGAとSAG-AFTRAはAIの導入にガイドラインを設けるべきだと主張してきた。

この観点で大きなトラブルを生むリスクがあるのが、ディズニーが機械学習のシニアエンジニアを募集していることだ。対象とされているのは、「次世代の創作・生産テクノロジーを形づくりたい、映画の共有や劇場体験にまたがるイノベーションを直接的に推進したい」と考えている人物。主な仕事内容には、「マーベルやウォルト・ディズニー・アニメーション、ピクサー、ILMを含むディズニー・スタジオのパートナーと協働し、ニーズに対処する」との記述もある。

また、ディズニーランドなどのテーマパークに関する企画・開発などを担当するウォルト・ディズニー・イマジニアリングも、生成AIに関する研究開発イマジニアの求人を実施。こちらは「AIツールにできることの限界を拡張する野心や、デザイナーや作家、アーティストとデータの間にいかなる違いがあるかを理解する意欲」が求められる仕事で、第三者と協働しながら最新の生成AIの評価や採用に従事するとのこと。報酬は年間で最大18万ドル、ボーナスなどが支給される可能性もある。

現在、ディズニー社内にはAI関連の職種が6つ存在しており、ディズニープラスをはじめとする配信サービスのリサーチ部門でも機械学習のエンジニアが募集されている。こちらは利用者向けのパーソナライズにAIを使用する職務になるということだ。

ディズニー以外の大手企業では、NetflixがAIプロダクトマネージャーを募集し、年間最大90万ドルを支払う方針であることも判明している。以前からNetflixのリサーチ部門では、機械学習をパーソナライズだけでなく映画・テレビ番組の分析に活かし、製作に役立てる意向を表明してきた。ゲーム作品にも力を入れている同社では、ゲームのリサーチと開発に従事するテクニカルディレクターも募集し、こちらには年間最大65万ドルを支払う構えだ。

そのほか、AmazonやApple、ソニー、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー、パラマウント、NBCユニバーサルといったハリウッドの大手映画関連会社(とその親企業)は、いずれも何らかの部門にAI関連の職種を用意している。脚本家や俳優が懸念するように、創作の現場にAIが本格導入される日も遠くないであろう勢いだ。

ChatGPTの利便性がSNSでも大きな話題を呼び、一般に広く知られたことからも明らかなように、AIや機械学習をめぐる技術革新はとどまることを知らない。映画スタジオやストリーミング企業だけでなく、あらゆる巨大企業が早くからAIの導入に関心を示しており、ウォルト・ディズニー・カンパニーのボブ・アイガーCEOも、2022年11月の時点で「将来的に、どこかのタイミングでは取り入れることになる」と語っていたのだ。

ハリウッドに関していえば、2020年に始まった新型コロナウイルス禍以降、映画スタジオが軒並み苦境に立たされ、ストリーミング企業もピークのあとは業績が伸び悩んでいる現実もある。ディズニーやワーナーは大幅なコストカットを余儀なくされ、大規模な人員削減を行った。しかしAIをうまく活用できれば、これまで大勢の人間が従事してきたような業務をAIが請け負い、より大きな利益を生むこともできるかもしれない。各社がAIや機械学習のプロフェッショナルを求める動きは、おそらくその結果が見えてくるまでは続くだろう。もしAIが本当に役立つとわかれば、さらに多くの人間が仕事場を失う可能性もある。

脚本家と俳優のストライキにはまだ出口が見えない。スタジオとクリエイターという、大きな意味での長年にわたるパートナーシップを毀損してまで、AIの導入には本当に意義があるのか。全く同じ話とは言えないが、2020年、ワーナー・ブラザースが翌年の劇場公開作品をすべて同時配信すると決断したとき、大勢の映画監督やフィルムメーカーが失望した。人間の信頼よりも、ビジネスとテクノロジーを優先したがゆえの混乱ぶりはまだ記憶に新しい。それどころか、結局は当時の混乱をうまく飲み込めないまま、業界はこの大きな対立になだれ込んでいったのだ。

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Source: The Hollywood Reporter, The Intercept

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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