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「Disney+」テレビ作品は新エピソードを毎週配信へ ─ Netflixの一気見スタイルとは対極、その思惑とは

Disney+
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ディズニーによる新たな映像配信サービス「Disney+」では、オリジナルのテレビシリーズ作品(ドラマ/ノンフィクションなど)が、週ごとに新エピソードが追加される形で配信されることになるという。米TV Lineが伝えている。

週ごとに新エピソードを追加していく形式は、Netflixなど多くのサービスが現在採用している「1シーズンの全エピソードを一挙に配信する」というものとは対極の、むしろテレビにおけるドラマシリーズの放送にかぎりなく近い形式となる。全話一挙配信を基本とするNetflixでは、「ストレンジャー・シングス」やマーベルドラマなどの話題作が配信された際、配信日のうちに全話を視聴するユーザーが続出。この鑑賞スタイルは「ビンジ・ウォッチング(一気見)」と称され、ストリーミング時代のドラマ作品が“10時間の映画”などと呼ばれるゆえんともなった。

「Disney+」では、『スター・ウォーズ』から初のドラマ作品「ザ・マンダロリアン」をはじめ『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)前日譚作品、ユアン・マクレガー主演「オビ=ワン・ケノービ(仮題)」が登場。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品としては「ロキ」「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」「ワンダヴィジョン」「ホークアイ」「What If…?」「ムーンナイト」「Ms.マーベル」「シーハルク」(すべて原題)が控えている。ほかにも『トイ・ストーリー4』(2019)からのスピンオフアニメや『モンスターズ・インク』『ハイスクール・ミュージカル』テレビ版、さらに多数のノンフィクション/ドキュメンタリー作品など、早くも話題作が数えきれないほど発表されている状況だ。

オビ=ワン単独ドラマ製作という衝撃

Netflixなどの一挙配信ではなく、新エピソードを毎週追加するスタイルにはいくつかの思惑があると思われる。たとえば『スター・ウォーズ』やマーベル作品など多くのファンを世界中に抱えるシリーズの場合、週ごとにエピソードを追加することで、たとえば全6話構成にしても、その作品をリアルタイムに追いかけたいユーザーを2ヶ月間つなぎとめておくことができる。また、これだけのラインナップが発表されている以上、作品の配信スパンをコントロールすれば、ユーザーに解約するタイミングを与えないという戦略が練られているとも考えられる。ケーブルテレビなど既存の有料放送に近い発想ではあるものの、Disney+が月額制のサービスである以上、あくまでもこのような観点を見落とすことはできない。

また米Colliderが指摘するのは、週ごとにエピソードを追加することで、シリーズの話題を長期にわたって維持できるということだ。最近の事例を振り返っても、全世界で社会現象的ヒットを見せつけた「ゲーム・オブ・スローンズ」最終シーズン(2019)では毎週のようにファンが熱狂し、SNSでは賛否両論も含めて話題が大きく広がっていた。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)が全世界興行収入の歴代記録を更新したことを踏まえれば、“MCUの新作が週ごとに発表される”という驚くべき事態の中でどんな盛り上がりが生まれるかは想像に難くないだろう。この点に限っていえば、Netflixドラマ「ストレンジャー・シングス」シーズン3は非常に注目されたものの、配信開始前後の話題ぶりが長期にわたって継続されたとは必ずしも言えなかったのだ。

もちろん、視聴者の側にもメリットはある。いわゆるビンジ・ウォッチングができる時間をまとめて作れない視聴者の場合、話題作の配信開始後は“すでに全話を見終えたファン”によるネタバレに警戒せざるを得ないが、週ごとの配信であれば、すべてのファンが(毎週きちんとエピソードを追いかけてさえいれば)足並みをそろえて物語を楽しむことができるだろう。マーベル・スタジオやルーカスフィルムをはじめ、厳しい秘密主義を貫く傾向にあるディズニー傘下のスタジオにとっては望ましい鑑賞環境を提供できることにもなる。

ただしその一方で、ビンジ・ウォッチングの文化は、前述のように“10時間の映画”とも呼ばれるストーリーテリングの形式を定着させた。「エピソードの終わりに次回への引き(クリフハンガー)を作らねばならない」という、少なからぬ作品が縛られていた“お約束”からテレビドラマを解放したことで、作家性豊かなクリエイターは長く濃密な物語と体験を視聴者に与えることができるようになり、熱心なファンは長時間かけて作品の世界をじっくりと味わうことに集中できるようになったのだ。週ごとに新エピソードを追加する形式では、こうしたストーリーテリングはどうしても実現しづらくなってしまう。

もっともDisney+が、基本的に週単位でエピソードを追加する形式なのか、全話一挙配信で“10時間の映画”を発表する余地も積極的に提供するのかという詳細は伝えられていない。せっかくの映像配信サービスである、クリエイターにもファンにも自由度の高いプラットフォームとなることを今は祈るばかりだ。

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Sources: TV Line, Collider

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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