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【ネタバレなしレビュー】『ドクター・ストレンジ/MoM』マルチバースの驚き、サム・ライミ節が全開のマーベル最重要作

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
(c) Marvel Studios 2022

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が、本国アメリカに先駆けて2022年5月4日より日本先行公開となる。禁断のマルチバースを開いてしまった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)のその後を描く重要作だ。

マルチバースの幕開け作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で、異世界から集結したヴィランたちを殺すしかないと知ったスパイダーマンが「他に道があるはずだ!(There has to be another way!)」と叫ぶシーンがあった。この時のストレンジは、「そんなものはない(There isn’t.)」と返す。

本作でも同様に、「他に道はなかったのか?(Was there any other path?)」というセリフが序盤に登場する。良くも悪くも“何でもアリ”のマルチバースだが、マーベル・スタジオはあくまでも、“もしも他の道があったのなら?”を基本的なコンセプトとして定めているようだ。「ロキ」(2021)や「ホワット・イフ…?」(2021)、そして『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で、我々はこの世界とは別の現実が広がる平行世界が無数に存在する様を目撃した。『MoM』では、ついにそのマルチバースに足を踏み入れることとなる。

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
©Marvel Studios 2022

ゲストキャラクターやサプライズもある。『ノー・ウェイ・ホーム』ではそれらが物語の推進力となっていたが、『MoM』ではマルチバースというコンセプトの神秘性を表す機能が与えられている。『ノー・ウェイ・ホーム』があくまでもスパイダーマンの物語であったのと同じように、『MoM』でのマルチバースもまた、ドクター・ストレンジの物語を力強く支えるための仕掛けなのである。

本作は、MCU史上最も“専門的な” 物語になっている。これまでのMCUクロスオーバー作品は、他作品の鑑賞はあくまでも推奨される程度であり、必修とまではならない場合が多かった。一方『MoM』では、前作『ドクター・ストレンジ』(2016)や『インフィニティ・ウォー』(2018)『エンドゲーム』(2019)はもちろんのこと、ドラマ「ワンダヴィジョン」(2021)がほぼ必修に近いものとなっており、これらの作品から直接引き継いだ要素が重要となる。

特に「ワンダヴィジョン」のワンダ・マキシモフについて、「ウエストビュー」という街で幻覚領域「ヘックス」を作り、双子の男児ビリーとトミーを産んだという点は必ず抑えておきたいポイント。「ワンダヴィジョン」のラストでワンダは、現実には存在しなくなった我が子を取り戻すため、禁断の魔術書「ダークホールド」を開いていた。

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
(c) Marvel Studios 2022

『MoM』ではこの「ワンダヴィジョン」をはじめ、様々なマーベル作品への参照が散りばめられている。従来、これらはあくまでもお楽しみ要素である「イースターエッグ」として留まっていたが、ここに来ていよいよ複雑さを増してきた印象だ。ファンは大いに試されるようなところがあるが、それは同時に、スタジオ側も試されているということ。いわば本作は、MCUの今後を占う試金石である。

新たな要素や伏線が登場することも、やはり事実。今後もしばらく、MCU関連のニュースや考察は活況だろう。語り合いたくてウズウズするような、ネタバレ厳禁の作品だ。

この複雑壮大な一作の監督を務めたのは、マーベル映画の“ゴッドファーザー”であるサム・ライミ。ストレンジが暮らすニューヨークの摩天楼を『スパイダーマン』3部作とよく似た夕陽で染め、2000年代のノスタルジーを染み込ませている。市街戦のシークエンスでは、明らかに『スパイダーマン』にセルフオマージュを捧げているような瞬間がいくつもある。劇伴も『スパイダーマン』と同じくダニー・エルフマンときた。近頃は「『スパイダーマン4』の実現も可能だ」といった旨の発言もするようになったライミ監督だが、『MoM』ではある意味『スパイダーマン』の再現をこっそりと行なっている。

それから、監督の看板作『死霊のはらわた』シリーズのようなホラーかつコミカルな恐怖表現、かの有名なカメラワークもある。「MCU初のホラー」と期待されていた通りの恐ろしさがあり、“サム・ライミ節”が随所に響いた作品となっている。数あるMCU作品の中でも、監督の作風が最も明白に反映された作品の一つだろう。

見落としてはならないのが、役者たちの熱演だ。主演ベネディクト・カンバーバッチといえば『パワー・オブ・ドッグ』での繊細な演技でアカデミー主演男優賞にノミネートされたことも話題となった。本作では“同じキャラクターだけど別ユニバースの別人”という特殊な演じ分けを求められ、見事に応えている。

エリザベス・オルセンのワンダが神経を磨耗させるような演技は「ワンダヴィジョン」でも高く評価されたが、本作ではさらに熟達し、哀しく危うい人物像を表現した。マルチバースを渡り歩くことのできる少女アメリカ・チャベスを演じたソーチー・ゴメスは2006年生まれの若干16歳。瑞々しさと勇敢さを秘めた眼差しで、鮮烈な印象を残している。

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
(c) Marvel Studios 2022

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、MCUの予備知識が多く求められる作品であることは間違いない。一方、それはあらゆるMCU作品を観ておいて決して損はないのだ、とするスタジオ側の自信の現れでもある。関連作を抑えておけば、その無限大の面白さは保証されているも同然ということだ。

オススメはDisney+のまとめシリーズ「マーベル・スタジオ 知られざる秘密」の『17. スカーレット・ウィッチ』だけでも観ておくこと。「ワンダヴィジョン」で彼女に起こった出来事が、約8分で簡潔にまとめられているので、ドラマ全話までは観られないという方はこちらを。それから、「ホワット・イフ…?」第4話『もしも…ドクター・ストレンジが手の代わりに恋人を失ったら?』では、別世界のドクター・ストレンジと恋人クリスティーンの悲劇、邪悪なストレンジとの対決といったエピソードが38分で描かれている。『MoM』へのヒントにもなっているので、観ておくと理解が深まるだろう。

禁断の扉を開く『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は2022年5月4日公開。これを観ずして、これまでのMCUも、これからのMCUも語れない!

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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