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【レビュー】『ドリームランド』罪悪感とイノセンスの狭間で ─ 主演マーゴット・ロビー、寓話的で余韻深い物語

ドリームランド
(C)2018 DREAMLAND NM,LLC

アリソンはユージンの中に、失ってしまったイノセンスを見出し、ユージンはアリソンに、自由な大人の世界を期待する。ふたりの思いが、切なく、ほろ苦く絡み合い、やがて結ばれていく……。

マーゴット・ロビーが脚本に惚れ込み、主演・製作を兼任した映画『ドリームランド』が、2021年4月9日(金)より全国公開となる。世界恐慌下の1930年代半ばを舞台に、美しき指名手配犯と、彼女を匿う若き少年の禁断の恋を描く作品だ。

ドリームランド
(C)2018 DREAMLAND NM,LLC

砂埃も風の音もそのままに切り出された、テキサス州の広大な風景。この荒れ地の眩しい日差しが照らすのは、ユージンとアリソンの、極めてデリケートな逃避行だ。若い男と、罪を犯した女の衝動が、罪悪感とイノセンスの狭間で乱反射する。

17歳のユージン・エバンズ(フィン・コール)は、かつて家族を捨てて出ていった父を今も思いながら、父が絵葉書で知らせてくれた楽園(ドリームランド)、メキシコ湾沿岸を夢見て暮らしていた。母は別の男と再婚するが、ユージンとは折り合いが悪い。

そんなある日、街を巨大なダストボウル(砂嵐)が襲う。この嵐と共に現れたのが、強盗アリソン・ウェルズ(マーゴット・ロビー)だ。地元の銀行を襲い、9歳の女の子を殺して逃走中だという。1万ドルの懸賞金がかけられたこの恐るべきお尋ね者が、自宅の納屋に隠れているところを発見したユージン。その美しさに抗えなかった若きユージンは、彼女を匿うことにする。

ドリームランド
(C)2018 DREAMLAND NM,LLC

アリソンは、自分をメキシコまで逃がしてくれれば2万ドルを渡すとの取引を持ちかける。そこは、ユージンが夢見た地でもあった。かくして、ふたりは秘密を共有するうちに恋に落ち、運命の逃避行に旅立つ。ここではない、楽園を求めて……。

1930年代、アメリカ西部で

田舎町で家族と暮らすユージンは17歳。子供というほどでもないが、まだ大人でもなく、人生経験も希薄だ。当時、世界恐慌下にあったアメリカでは、パルプ・マガジンで描かれるような荒くれ者や無法者が英雄視されていて、彼らに憧れを抱くのはユージンも例外ではなかった。後に『俺たちに明日はない』でアメリカン・ニュー・シネマの先駆けとなる強盗カップルのボニーとクライドが登場するのも、この1930年代だ。

時代や舞台の設定はもちろんのこと、『ドリームランド』は『俺たちに明日はない』に重なる部分が多い。ボニーは悪の流浪人クライドに危険な香りを感じて惚れ込み、共に銀行強盗などの犯罪を繰り返すことになるが、これは『ドリームランド』のアリソンとユージンそのものだ。米Varietyは本作について「まるでボニーが生き延びた後の物語のよう」と記している。

ドリームランド
(C)2018 DREAMLAND NM,LLC

ただし筆者がマイルズ・ジョリス=ペイラフィット監督にインタビューで尋ねてみると、同作は「あえて観ないようにした」という。「脚本を読んだ時点でみなさんが”これは『俺たちに明日はない』の影響があるね”と言っていたから」。むしろ、『怒りの葡萄』(1940)や『ペーパー・ムーン』(1973)、『マルタの鷹』(1941)を参考にしたという。

※ちなみに劇中でユージンは「ブラック・マスク」というパルプ・マガジンを読んでいるが、ダシール・ハメットはこの雑誌に『マルタの鷹』を寄稿し、単行本化されている。監督がその映画版を参考にしたというのは、興味深い偶然だ。

『俺たちに明日はない』について監督は、「観比べてみても、そこまで影響は感じられないと思います」という。確かにユージンは無法者に憧れる初心(うぶ)な若者に過ぎず、近所の雑貨店で雑誌や果物を万引きするのが関の山だ。そんなユージンが、既に殺人も犯したらしいアリソンと出会ってどう変化していくかが見どころとなる。

ドリームランド
(C)2018 DREAMLAND NM,LLC

罪悪感と正当化

物語のポイントは「罪悪感」と「正当化」だ。アリソンは街にやってくる直前、銀行強盗を働いて、無実の少女の命を奪ってしまう。しかし、彼女には彼女の事情と主張があり、ユージンはそれを責めるべきかわからない。ただしアリソンは、失ったもの……時間も、命も、彼女のイノセンスも二度と取り返せないことは良く分かっていて、罪悪感に苛まれている。そんなアリソンはユージンにイノセンスを見出し、彼の思いを受け止めることで、自らの正当化を試みる。

劇中で描かれるダストボウル(砂嵐)に、「罪悪感」のメタファーを重ねる見方もできる。ダストボウルは1930年代のアメリカ中西部で実際に発生していた現象で、環境を無視した耕地化によって発生するようになった大規模な人災。資本主義社会の行いに対する自然界からの報いとして、自戒的に語られることも多い。

劇中でのアリソンの行動は、このダストボウルの動きに重なることが多く、やはり『ドリームランド』はアリソンとダストボウルを、罪悪感の象徴として合わせて描いているように見られる。監督も「この極端なふたつの存在は、互いに互いを作りあったように感じられる」と考えている。

ドリームランド
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寓話的で余韻深い物語

筆者が監督と話して印象的だったのが、「神話(mythology)」という言葉が多用されていたことだ。監督は筆者との30分の会話の中で、「当時のアメリカ西部にはラスト・フロンティアのようなmythologyがあって、ダストボウルはその現実性を確認するような存在」、「僕はダストボウルについて詳しくなかったが、[中略] 今作の物語がアメリカのmythologyと重なっていることに魅了された」、「(『俺たちに明日はない』について)当時のアメリカにはああいうmythologyがあって、ああいうキャラクターが浸透していた」と繰り返した。これは、「古事記」とか「北欧神話」のような、神の存在が登場する寓話としての「神話」ほどの大げささはなく、「説話」や「民話」ほどの意味なのだろう。

しかし『ドリームランド』の物語には、神話とまで言わずとも、どこか寓話的な味わいがある。たとえば、登場人物それぞれに込められた意味合いが明確だ。ユージンはイノセンスの、アリソンとダストボウルは罪悪感の象徴。いなくなった父は夢や理想の、追いかけてくる義父は抑圧や現実の化身と考えることもできる。

ドリームランド
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映画は、ユージンの妹フィービーのナレーションによって進行するのだが、これも興味深いところだ。幼かった彼女は劇中で起こる出来事すべてを目撃しているわけではない。それなのに物語の進行役を務めているのは、彼女が「信用できない語り手」だからだと監督は認めており、「フィービーの語り手としての信頼性を考えるのがポイント」と加えている。

『ドリームランド』の物語はあくまでもシンプルで、とりわけ『俺たちに明日はない』との共通性を念頭に置けば、予想の範疇を大きく超えるものではない。それでも、心地よく切ない余韻を含む仕上がりになっているのは、アメリカ西部の美しい風景、真実味がありながらもどこか寓話的なキャラクターたちによるものだろう。そして何よりも、 監督が参考にしたようなクラシック映画にあったイノセンスを、現代映画に麻痺した観客に思い出させてくれるからではないだろうか。劇場でじっくり堪能したい一作だ。

映画『ドリームランド』は、2021年4月9日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開。

ドリームランド
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THE RIVER編集部
THE RIVER編集部THE RIVER

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