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『アベンジャーズ/エンドゲーム』なぜルッソ監督はフェイクを仕掛けるのか ─ 情報が氾濫する時代に「秘密」を貫くということ

アベンジャーズ/エンドゲーム
MARVEL/PLANET PHOTOS 写真:ゼータイメージ

映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』というタイトルは、つい4ヶ月ほど前まで、世界中の観客が誰も知らないものだった。前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)が公開されてから7ヶ月以上が経過した2018年12月、副題は予告編の解禁とともに初めて明かされたのである。インターネット上では、それまでファンによる予想合戦が繰り返されていた。

アンソニー&ジョー・ルッソ監督は、かつて本作のタイトルについてフェイクの発言を繰り出し、予想合戦を混乱させたことで知られる。「エンドゲーム」という言葉は『インフィニティ・ウォー』の劇中でドクター・ストレンジが口にする言葉だが、米国メディアで「第4作のタイトルは『インフィニティ・ウォー』の中で言及されていますか?」と問われた際、ジョー監督は「ノー」と否定したのである。

『エンドゲーム』というタイトルへの確信

『アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開を控えた今、米/Filmはルッソ監督本人に対し、当時のフェイク発言に込められた真意を問うている。インタビュアーが単刀直入に「記者に嘘をついたってことですか?」と尋ねると、アンソニー監督は「(『インフィニティ・ウォー』に)『アベンジャーズ/エンドゲーム』というセリフはなかったでしょう?」とジョークで返したが、ジョー監督は真正面から応じているのだ。

問題の発言が飛び出したのは、『インフィニティ・ウォー』が公開された直後の2018年5月だった。ジョー監督は「映画が公開される1年前のことですよ」と述べて、当時の状況を振り返っている。

「(当時は)あらゆる物事をしょっちゅう変更していました。そういうことが繰り返される、クリエイティブの過程にあったんです。作品を発表する1年前に、なにかを明らかにするようなことはできません。だって、撮影監督が経歴にタイトルをうっかり書いてしまったら、そのタイトルをボツにすることもありうるわけですからね。」

ここでジョー監督が言及している具体例は、なんと現実に起きてしまった出来事である。2018年6月、本作の撮影監督であるトレント・オパロック氏は、自身のフィルモグラフィに本作のタイトルを『AVENGERS: END GAME』として記載。この表記は、すぐに『AVENGERS 4』へと訂正されたのだ。

「つまり、タイトルはそれになるかもしれないし、そうはならないかもしれない。その理由は山ほどあるわけです。みんなで部屋に集まり、タイトルの付いた予告編を観た時に、お互いに顔を見合わせて“このタイトルで行こう”と決めました。映画のタイトルが決まるのは大体そういう時なんですよ。」

マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、『エンドゲーム』というタイトルが企画の初期段階に決まっていたこと、それゆえ『インフィニティ・ウォー』にセリフとして取り入れたのだということを以前明らかにしていた。その一方で、監督は『エンドゲーム』というタイトルが本当にふさわしいという確信をなかなか持てずにいたのだろう。

なぜ、あえてフェイクを仕掛けるのか

しかしながら、ただ確信が持てなかっただけならば、ジョー監督は質問への答えを濁すだけでよかったはずである。そんな中、あえてフェイクの発言に踏み切ったのはなぜだったのか……。その答えは明白だった。当時の監督は、記者に対しての“抵抗”を試みていたらしい。

「(タイトルを)公開の1年前に聞いてもらっても…。もちろんみなさんにはその権利があるし、それがお仕事なんですが、僕たちにも自分たちのクリエイティブな選択を守る権利はあるし、それが僕たちの仕事なんです。それに僕たちは、書き手が正しい答えを聞き出そうとすることには乗せられたくないし、それは強制されたくもない。1年前に正しい答えなんて存在しませんしね!」

もはやルッソ兄弟にとって、映画について語り、その内容を宣伝することは、“いかに秘密を守り抜くか”という戦いでもあるのかもしれない。以前ジョー監督は、現代には「すべてを即座に求める文化がある」と述べ、「世界はソーシャルメディアで繋がっていて、情報は数秒で広がってしまう」指摘していたのだ。フェイクの発言を厭わず、本編に存在しないシーンを混ぜた予告編を作ることは、そんな時代の傾向に対する彼らなりの抵抗だと思われる。二人にとって、映画の秘密を守るのはそれほど重要なことなのだ。そしてそれは、“それでも最後には観客を満足させられる”という自信の現れでもあるだろう

以前アンソニー監督は、予告編にフェイクの映像を仕込んでおくことについて、その意図をこのように語っていた。

「ファンの皆さんがすごい目利きであることはわかっていますし、(過去の)映画を何度も観て、物語の展開を予想してくださる方が非常に多いことに感謝しています。だからこそ、映画館に来てもらう前にヒントを出したり答えを明かしたりしたくない。フレッシュでエキサイティングな、できるかぎり驚ける体験にしたいんです。」

映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』は2019年4月26日(金)全国ロードショー

『アベンジャーズ/エンドゲーム』公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame.html

このタイトル、深い意味がある

Source: /Film

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。