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【インタビュー】『この世の果て、数多の終焉』ギョーム・ニクルー監督が見た「歴史の闇」 ─ 凄惨な戦場、なぜ静かに描くのか

この世の果て、数多の終焉
© 2017 Les films du Worso-Les Armateurs-Orange Studio-Score Pictures-Rectangle Productions-Arena Films-Arches Films-Cinéfeel 1- Same Player- Pan Européenne- Move Movie- Ce Qui Me Meut

──物語の冒頭、主人公ロベールの兄を実際に殺害するのは日本軍です。しかしロベールは日本軍ではなく、それを見ていたベトナム側を憎みますよね。ロベールは「罪は同じだ」というようなことを口にしますが、なぜ殺した本人を憎まないのだろう? という疑問もあります。ロベールの考え方について、監督の見解をお聞かせください。

いい質問です。私の中には、侵略者がすべての責任を担っているわけではないという考え方があります。第二次世界大戦下のフランスには、ユダヤ人を告発するなど──コラボレーター(コラボ)と呼ぶのですが──敵国ドイツに協力した(対独協力)人たちがいました。私は祖母からその話を聞いた時、ドイツ人に対する直接的な憎しみより、そういう人たちへの怒りを強く持ったんですね。必ずしも侵略者だけが憎しみの対象となるわけではなく、そこに加担した者たちへの憎しみも強いということです。

もっとも、主人公のロベール・タッセンという兵士には、語弊があるかもしれませんが、無意識のうちに二重人格めいた考え方をしているところもあります。つまり、第二次世界大戦でフランスは占領を受けていた──侵略されていた──にもかかわらず、インドシナ戦争では侵略する側にまわっている。彼の内面には大きな矛盾が混沌として存在しているのです。

この世の果て、数多の終焉
© 2017 Les films du Worso-Les Armateurs-Orange Studio-Score Pictures-Rectangle Productions-Arena Films-Arches Films-Cinéfeel 1- Same Player- Pan Européenne- Move Movie- Ce Qui Me Meut

──神父が殺害された村では、神父を守らなかった村人たちに対してフランスの軍人が怒りをぶつけます。これも、人を見殺しにした者の責任は重いという考えの表れでしょうか。

そこは違います。たとえ戦時下であっても、宗教は戦争とは違うところにあるもので、戦士たちも宗教は神聖なるものだと考えていました。そんな中、神聖なる宗教家を見殺しにしたことを兵士たちは許せない。戦地において平和を、平穏な心を訴えようとしていた、そんな人物への暴力を見過ごしたことへの怒りです。

そもそも歴史上、ベトナムは二度占領されているわけですよね。第二次世界大戦中は日本に占領されましたが、19世紀からフランスの植民地だった。フランスは、自国の豊かさや文化などをインドシナに作り上げようとしていたんです。けれどもベトナムの人々は、独立を求めて侵略者と戦った。私自身は、自由を求めて戦う人たちこそ高潔で気高いと考えています。

少ないセリフ、ベトナム現地でのロケ撮影

──主人公のロベールをはじめ、登場人物のセリフはとても少なく、それぞれの心情が直接語られることはそう多くありません。脚本を書かれた時点で少なかったのでしょうか、それとも撮影現場や編集段階で削られたのでしょうか。

もちろん、脚本を書く中で「このセリフはいらないな」と削っていったところはあります。けれども戦場においては、言葉というものは余計なもの、無駄なものだった。常に危険が存在する中で、彼らは話すことよりも沈黙を求められていたわけです。

──その「沈黙」を作り上げるうえでは、言葉にならない内面について、どのように演技の演出をつけていかれるのですか。

私は撮影現場で、なるべく俳優たちの自発性を大切にしたいと考えています。俳優たちがどんな演技をしてくれるのかを発見し、一緒に作り上げていきたいのです。だからリハーサルをするのではなく、ともに形にしていく。たくさんカットをかけて細かく撮るのではなく、俳優の演技を発見しながら、できるだけ演技を長く続けてもらうという方法を取っています。

この世の果て、数多の終焉
© 2017 Les films du Worso-Les Armateurs-Orange Studio-Score Pictures-Rectangle Productions-Arena Films-Arches Films-Cinéfeel 1- Same Player- Pan Européenne- Move Movie- Ce Qui Me Meut

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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