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【インタビュー】『この世の果て、数多の終焉』ギョーム・ニクルー監督が見た「歴史の闇」 ─ 凄惨な戦場、なぜ静かに描くのか

この世の果て、数多の終焉
© 2017 Les films du Worso-Les Armateurs-Orange Studio-Score Pictures-Rectangle Productions-Arena Films-Arches Films-Cinéfeel 1- Same Player- Pan Européenne- Move Movie- Ce Qui Me Meut

──監督は撮影を繰り返し、テイクを重ねながらシーンを固めていかれるタイプでしょうか?

テイクの回数はさまざまですね。「こうでなければいけない」ということもなければ、習慣を決めているわけでもないですから。それは映画自体が決めてくれるもの、ストーリーや俳優たちが決めるものなので、私は監督として、原則や基本を持たないようにしています。つまり、作品がルールを示してくれるところがあるわけです。映画のリズムであれ、テイク数であれ、私が「こうしよう」というのではなく、作品のほうが「こうすればいいのではないか」と教えてくれる。今回はジャングルという自然の中で、おのずとルールが築き上げられていきました。

──ジャングルといえば、ベトナム現地での撮影では、事前に想像していなかったこともあったのではないかと推察します。撮影に入ってみて、新しくわかったこともおありでしたか。

ええ、本当に毎日が発見でした。私自身はそういうものを受け止められるよう、常にスタンバイしておきたいと思って撮影に臨みましたね。できることなら圧倒されたいし、「こうするつもりだったけど、やっぱりあっちの方がいいんじゃないか」というように、自然という美術がこちらに変化を与えてくれることを期待するわけです。それは、自然の風景が作品に痕跡を残していくということ。私が痕跡を残すのではなく、自然が残していく、そこに私が順応するという形なのです。もちろん自然の中でのロケ撮影には制約がありますが、その中で自由を見つけていくのが私のやり方。拘束の中での自由です。

この世の果て、数多の終焉
© 2017 Les films du Worso-Les Armateurs-Orange Studio-Score Pictures-Rectangle Productions-Arena Films-Arches Films-Cinéfeel 1- Same Player- Pan Européenne- Move Movie- Ce Qui Me Meut

「負の歴史」どう扱い、どう受け止める

──この映画では、日本やフランスによるベトナムへの加害という歴史が描かれています。しかし日本を含め、世界には歴史修正主義的な動きや、自国の負の歴史を受け入れたくない、直視したくないという動きが少なからずあります。監督の目から見て、フランスの現状はいかがでしょうか。

そういった傾向はフランスにもあると思いますね。フランス人の場合、ここ1世紀の出来事を思い返すと、2度ほど思い出したくない時期があります。ひとつは、ドイツの占領下にあった時のこと。占領されたということは、フランス政府が占領を受け入れたということです。ドイツに抵抗するのではなく、占領を受け入れた。今でもフランス人は、それはやってはいけないことだったのではないかと考えていますし、弱みや恥だと考えています。

その後、ドイツは戦争に敗北するわけですが、その時には、ドイツに協力したフランス人がいたことも明らかになりました。戦後、そういう人たちへの粛清も行われたわけです。お前はフランスを守らずにドイツに加担しただろうと言って、復讐のようなことが横行していた。戦時中はレジスタンスの戦士がドイツと戦ったわけですが、彼らが英雄気取りで人々を攻撃するという出来事もありました。直接的に対独協力を行った人だけでなく、戦時中に沈黙していたフランス人もその対象になったことがあったのです。

この世の果て、数多の終焉
© 2017 Les films du Worso-Les Armateurs-Orange Studio-Score Pictures-Rectangle Productions-Arena Films-Arches Films-Cinéfeel 1- Same Player- Pan Européenne- Move Movie- Ce Qui Me Meut

──本作を語る上では、第二次世界大戦中の日本についても避けては通れないと思います。しかし日本においても、加害国としての歴史が少なからず忘れられていたり、知られていなかったりすることは事実です。この映画が日本で公開されるにあたり、どのように作品が受け止められるのかという予想や期待はおありですか。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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