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【レビュー】『エターナルズ』マーベル史上最大の野心作、その哲学と難点

エターナルズ
(c)Marvel Studios 2021

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『エターナルズ』が、米映画レビューサイトのRotten TomatoesでMCU史上最低のスコアにあえいでいる?あの『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013)も下回っているって?なぁに、野心作に受難はつきものだ。良し悪しはご自身の鑑賞眼でご判断いただきたい。

海外の批評家からの評判はあまりよろしくないご様子の『エターナルズ』だが、実際に観賞してみると、むしろ興味深く楽しめる良作だ。新たに登場する何人もの新ヒーローたちはそれぞれ個性豊かで、彼らの掛け合いや連携技が光るバトルを楽しんでいるうち、約2時間半という長尺の上映時間はあっという間に終わる。

物語に登場するのは、エターナルズというこれまでのMCUには登場してこなかった最強のヒーローチーム。人類を守るため、数千年前に地球にやってきた不死身の彼らは、何世紀にもわたって人類の発展を見守ってきた。彼らは、ディヴィアンツと呼ばれるクリーチャーに関係する事象以外、人類に関与することが許されていない。『アベンジャーズ』サノスの脅威にも姿を表さなかったのはそのためだ。

エターナルズ
(c)Marvel Studios 2021

彼らは歴史上のある時点に解散し(本当にバンドが解散するみたいに解散する)、地球上の各地に散り散りになっていた。ところが、地球滅亡の危機が迫っていることがわかり、再び集結。人類のために戦うことになる……、というのが基本的なプロットだが、ここに含まれていない見所は多分にある。ヒーロー同士の恋愛や嫉妬、葛藤、秘密、そして驚きの事実……。何せ10人もいるのだから、彼らの間にはいろいろある。

ポイントは、群像劇としてきちんと成り立っているかどうか。海外メディアのレビューにいくつか目を通してみると、「一つの作品にしてはキャラクターが多すぎる」「散らかっている」といった声が目立つ。こうした指摘には同意せざるを得ない部分もある。これこそDisney+でドラマシリーズ化して、各キャラクターを丹念に描きこんだ方がよかったのではないかと思わされる瞬間もあるからだ。中盤では間延びした物語が失速しかけた瞬間、アクションに引き戻してなんとか持ち直す。

ただし、群像劇として失敗しているというわけではない。短い割り当て時間の中で、考えうる限り最も効率的な人物紹介がなされており、それらはむしろ楽しく機能している場面も多い。鑑賞の前にキャラクター紹介の資料を通読した時は、その人数の多さに目が眩んだのは事実だが(セルシ、セナ、マッカリ……誰が誰だか分からなくなる)、鑑賞を終えた今では、一人ひとりのキャラクターへの好感を語り分けることができるほどになっている。キャラクター性とアクションのどちらか、あるいはその両方で、全員が印象に残るはずだ。

エターナルズ
(c)Marvel Studios 2021

たった1人だけを紹介するならマ・ドンソクだ。韓国映画のスターであるマ・ドンソクは、本作では“ドン・リー”の名でクレジット。演じるのはギルガメッシュという巨漢のヒーロー。ブルース・バナーが人間の姿と優しい理性を保ったまま、ハルクの怪力を操っているようなキャラクターだ。戦闘ではエドモンド本田のようなドスコイ・スタイルでパワフルな見せ場を作りながら、ドラマ部分ではアンジェリーナ・ジョリー演じるセナの守護役として素晴らしい化学反応を起こす。ちなみにアンジェリーナ・ジョリーも流石の風格で、唸らされる。

アカデミー賞に輝いた『ノマドランド』(2020)のクロエ・ジャオが監督を務めたという話題性もある。ジャオ監督と言えば、マジックアワーの自然光を取り入れたオーガニックで壮大な映像や、メインストリームな生き方から逸脱した者たちの孤高な姿を、時に(今月生きていくのもいっぱいいっぱいだと思わせるほど)生活感たっぷりに、ドキュメンタリー的に描く手法が特徴。何人ものスーパーヒーローがCGのクリーチャーと戦うブロックバスター映画を監督させるには、およそ候補に挙がりにくいような、インディー精神溢れる映画監督だ。

全体的に『エターナルズ』では、クロエ・ジャオ監督の持ち味はあまり活かされていない。大自然を背景にした野外シーンは確かにクロエ・ジャオ印であるが、それらはあくまでも視覚的な演出にとどまっている。『ザ・ライダー』(2017)や『ノマドランド』で見られた、“おおきな世界の中にポツンと佇む、ちっぽけな人間”といった対比を通じて訴えかけてくる要素は少ない。そもそもエターナルズは自然の摂理を超越した不死身の存在なのだから、雄大な風景に配置したところで、人生の哀愁は見えにくい。むしろ高級ブランドの香水のコマーシャル映像のような、わざとらしい映像に見えてしまう。

エターナルズ
(c)Marvel Studios 2021

もっとも、『エターナルズ』には非常に興味深い哲学的問いかけもあり、これが彼らの葛藤と決断へと繋がる推進力になっている。それをよく表すのが、バリー・コーガン演じるドルイグだ。人の心をコントロールできる彼は、その気になれば戦争を止めることもできる。ドルイグは、自分たちの力を活かせば、人類文明から争いをなくし、より良い世界に作り変えることができると知っている。しかしエターナルズは人類同士の争いに介入できないので、彼らは歴史上の全ての戦争を、黙って見過ごすほかなかったのだ。果たして、それは正義と言えるのか?彼らは本当にヒーローなのだろうか?『エターナルズ』は、この正解なき問いかけに部分的な答えを示しつつ、MCUをより哲学的な領域へと運ぼうとしている(こうした題材の考察は、また別の記事に書くとしよう。つまり『エターナルズ』は、書きたくなるような、語りたくなるような気持ちにさせてくれる)。

本編には、明らかに不自然だと思うほころびもあるものの、それらが映画を台無しにするほどのことではない。チーム技が楽しい派手なアクションシーンや、個性がぶつかり合うドラマは見応え充分。大スクリーンで圧倒された後は、細かなところに思いを巡らせたくなるような作品だ。MCUらしくない?それがどう転がるかは、受け手次第である。

映画『エターナルズ』は2021年11月5日公開。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。