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新作『ICE BREAK』を観る前に!『ワイルド・スピード』を駆け抜けたブライアン・オコナー&ドミニク・トレットの物語を振り返る

最新作『ワイルド・スピード ICE BREAK』において、その不在ゆえ、観る者に最も鮮烈な印象を残す結果となった故ポール・ウォーカー演じるブライアン・オコナー。ヴィン・ディーゼル演じる主人公ドミニク・トレット(愛称・ドム)を長らく支えてきたキャラクターでしたが、突如訪れたポールの事故死によって、7作目『ワイルド・スピード SKY MISSION』を最後にブライアンは物語を後にしました。

そしてポール・ウォーカー亡き後、『ICE BREAK』でシリーズ初の単独主演となったヴィン・ディーゼルですが、この転換はファンにとってもシリーズにとっても予想以上に大きすぎた変化だと言えそうです。『ICE BREAK』で描かれているのは残されたドムとファミリーの物語ですが、ドムを中心としたストーリーはシリーズで初めてだからです。

 (C)Universal Pictures
(C)Universal Pictures

ブライアンの視点で幕を開けたストーリー

これまでの『ワイルド・スピード』は確かにヴィンとポールのダブル主演であり、5作目『ワイルド・スピード MEGA MAX』以降でヴィンは製作も務めていますが、1作目『ワイルド・スピード』の主人公はあくまでポール演じるブライアンです。もちろん二人はエンドクレジットの表示も同時ではあるのですが、IMDb(インターネット・ムービー・データベース)における表記は、ポール・ウォーカーが一番初めとなっています。物語は、捜査官であるブライアンが廃車工場を営むドムと出会い、走り屋としてのドムに憧れを抱いていくというものでした。

2作目『ワイルド・スピードX2』ではヴィンが降板したため、もちろん主演は堂々たるポール・ウォーカーです。捜査官をやめたブライアンが親友のローマン(演:タイリース・ギブソン)とタッグを組み、潜入捜査に乗り出すという物語です。

そんなポールを主人公とする『ワイルド・スピード』シリーズの状況が変化したのは3作目『ワイルド・スピード TOKYO DRIFT』から。この作品ではポールもヴィンも主演ではありませんが、本編のラストにヴィンがカメオ出演を果たしています。2作目でヴィンが降りてしまったこともあり、このサプライズにファンの熱気は一気に上昇。これが4作目『ワイルド・スピード MAX』でのオリジナルキャスト復活へと繋がっていきました。ここがターニングポイントです。

IMDbで『ワイルド・スピードMAX』のキャスト欄を見てみると、一番初めにヴィンの名前が来ています。物語はというと、ブライアンがドムと再会し、ドムの妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)と再び愛を深めていくという展開であり、“ブライアンがドムに赦しを得られるかどうか”がキーになっています。そしてクライマックスも1作目同様、犯罪者となってしまったドムをブライアンが助けるというものです。

そして5作目『MEGA MAX』では、1作目から4作目に至るまでのオールスターキャストが集結し、満を持して最強の強盗団が結成されることになったのです。クレジットの頭にはヴィンが位置し、この作品から製作も兼任することに。

このように『ワイルド・スピード』シリーズでは、物語の中心をポール演じるブライアンが担いつつも、作品全体をけん引するイメージにはヴィン演じるドムの風格が浸透していく形となりました。また物語としても、ドムのファミリーになったことでブライアンの葛藤は完全に終わってしまい、以後はドムの要望にブライアンが応えていく形式で進んでいきます。

ブライアンの視点で進むドムのストーリー

ポールの事故死と劇中のブライアンの立場がシンクロしたことで、7作目『SKY MISSION』はポールとブライアンへの愛に満ちた大団円で幕を閉じています。でも実は5作目『MEGA MAX』の時点で、ブライアンは“逃亡生活から足を洗いたい”とドムに語っています。それに対するドムの返答は、“その前に大金を強奪しよう”というものでした。その結果として、過去作のキャラクターがドムの元へ集まったのです。

 

この辺りから“ドムのファミリーの中のブライアン”が定着していきます。そこに至るまでのブライアンの物語は、1作目でミアと出会い4作目で家族となり、5作目『MEGA MAX』で二人の間に子供が誕生し、そして足を洗う決意をするという流れです。歩み寄ったのはブライアンの方でした。これは主人公が異世界に足を踏み入れ、溶け込んでいく物語なのです。それゆえにブライアンは、ドムの最愛の女性であるレティ(ミシェル・ロドリゲス)を取り戻すため、あるいはドムの旧友であるハン(サン・カン)の仇を取るために、1作目から事ある毎にドムに力を貸してきたのです。

1作目から常にミアを巻き込む危険がありながら強盗を繰り返してきたドムとその仲間たち。そこに捜査官であるブライアンが加わったことで、ブライアンという脇役を通してドムという主役の人生を追ってきた観客は、ドムに感情移入できるようになりました。その意味で『ワイルド・スピード』はドムの物語であり、しかしながら主人公はあくまでブライアンだったと言えます。

『ICE BREAK』ではこれまで観客の視点を担っていたブライアンが引退したことで、初めてドムの視点で物語は進みますが、そのことで浮き彫りになったのは、ブライアンなくして『ワイルド・スピード』は成立しないという事実です。なぜでしょうか?

ドムの視点で進むブライアンのストーリー

5作目の辺りから、とても自然な形で“『ワイルド・スピード』はヴィン・ディーゼル主演のアクション超大作”というイメージが浸透してきていますが、その根底にあったのは常にポール演じるブライアンの葛藤でした。手放しでは共感しづらいキャラクターであるドムを、愛のある視点で観客と繋いでいたのはブライアンです。ブライアンの引退に合わせて退場したミアも、常に兄であるドムを支えてきました。ドムに対等に接することが出来るのは、この二人だけなのです。

『ワイルド・スピード』シリーズは常に社会通念から外れたアウトサイダーたちの姿を描いていますが、ブライアンやルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)のように、捜査官でありながらアウトサイダーたちの世界に染まっていく者の葛藤こそが、物語を推し進める重要な役割を担ってきました

(C)Universal Pictures
(C)Universal Pictures

ホブスがドムと対立する捜査官として初めて登場するのは、ブライアンの葛藤が終わった5作目『MEGA MAX』です。この作品以降、ブライアンを含めたドムたちファミリーは、ホブスや彼の友人であるミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)を通して、政府の援護という形で行動するようになります。捜査官と犯罪者の対立の物語から、捜査官に力を貸すプロフェッショナルの物語へと緩やかにシフトしたとも言えます。

これにより、6作目『ワイルド・スピード EURO MISSION』と7作目『SKY MISSION』において、犯罪者であったドムの視点による元捜査官・ブライアンの物語が始まります。『EURO MISSION』では各キャラクターがこれまでの人生で培ってきた専門性を発揮し、事件の核心へと迫っていく様子がサスペンスフルに描かれ、ブライアンは捜査官時代の因縁とも向き合います。そして『SKY MISSION』では、平穏な生活を望む一方で“銃が手放せない”というブライアンの新たな苦悩を、ドムが優しく労わっています。

すなわち『MEGA MAX』から『SKY MISSION』では、ドムが犯罪から足を洗うよう支えてきたブライアンと、家族を持つことを恐れるブライアンを支えるドムという関係性が描かれてきました。ドムのファミリーと向き合うブライアンの視点から、ブライアンを送り出すドムの視点へとシリーズのストーリーが変化してきたのです。そして、『MEGA MAX』でのブライアンの決意がドムを引き止め、『SKY MISSION』でのドムの想いがブライアンを家庭へ進ませたことで、1作目から続いてきた二人の物語は、ついに終結を迎えました。

ドムの視点で幕を開けた新たなストーリー

ブライアン引退後、ファミリーの新たな苦悩が描かれる『ICE BREAK』では、初めてドムのための物語が始まります。ブライアンとミアの不在により、ドムを対等に叱咤激励できるキャラクターが存在しないため、ドムには今まで以上の自制心が必要となりました。しかしレティとの生活も安定したかに思えた矢先、その自制心に暗雲が立ち込めます。ドムによる、ファミリーへの裏切りです。

ドムを止めるため、ミスター・ノーバディによりレティ、ローマン、テズ(クリス・“リュダクリス”・ブリッジス)、ラムジー(ナタリー・エマニュエル)、ホブスらが招集されますが、ブライアンとミアの生活を守る決意をしたドムの意思が尊重され、ブライアンの姿はありません。ファミリーはドムの裏切りだけでなく、ブライアンへの愛によっても大きく揺らいでいきます。

確かにファミリーはドムのものですが、そのファミリーを人知れず支えてきたのはブライアンの存在でした。1作目でドムやレティ、ヴィンスが命の危機に直面する中、その窮地を救ったのも、2作目でローマンを解放したのも、6作目でジゼル(演:ガル・ガドット)を失ったハンの悲しみに寄り添ったのも、やはりブライアンなのです。

これまで『ワイルド・スピード』では、ブライアン、そしてミアのドムたちに対する想いがファミリーを繋ぎ止めてきました。そんなかけがえのない二人の力を借りることができない中、ファミリーは新たにドムを必要とし、ドムは新たにファミリーを信じることになります。

今は遠くにいて会えないブライアンとミアへの想いを胸に、一からファミリーの絆を再確認していく新しい物語、そして新しい主人公であるドムの今後を決定づける作品となった『ワイルド・スピード ICE BREAK』。しかしその中に、確かなブライアンの姿がありました。作品の中に生きるポールへの想いを、ぜひ劇場で体感してください。

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