ファンタビ2『黒い魔法使いの誕生』ファッション解説 ─ キャラ別に見る、衣装の進化と時代背景

映画の衣装は、物語の世界観や登場人物のキャラクター性を語る上で非常に大切だ。とりわけ、シリーズものにおいては登場人物の変化や成長が衣装にも反映される。
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016)の衣装を手掛けて、2016年度アカデミー賞衣装デザイン賞を獲得したコリーン・アトウッドは、これまでも『シカゴ』(2002)や『SAYURI』(2005)などでも同賞を受賞しているハリウッドの大物デザイナーだ。1作目よりもダークな物語が展開されている2作目『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018)は、衣装も物語にあわせて進化している。衣装デザイナー、アトウッドの海外インタビューをもとに、コスチュームの世界を紐解いてみよう。
「第三の男」光と影がインスピレーションに
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』は、古典名作『第三の男』(1949)にインスパイアされたと明かすコリーン・アトウッド。『第三の男』の「光と影の使い方が美しい」※1と彼女が語るように、この作品はドイツ表現主義とも称されるモノトーンの映像美で有名だ。
1920年代に世界を席捲したドイツ表現主義は、1927年が舞台の『ファンタビ2』の時代背景とぴったり合う。ドイツ表現主義とは、リアリズムに対抗する、内面を示すために表現の極端な“歪み”を使った様式で、『第三の男』 は斜めアングルで“光と影”の“歪み”を撮影したカメラワークが多い。
1927年はちょうど第一次世界大戦の終焉と第二次世界大戦の発端のとき。だからこそ、米英仏ソの占領下にあるウィーンに刻まれた第二次世界戦争の“影”を映し出す『第三の男』に、アトウッドが影響されたという点は非常に興味深い。なぜなら、『ファンタビ2』でグリンデルバルド(ジョニー・デップ)が演説するシーンはヒトラーを想起させるからだ。
また、『ファンタビ2』の舞台はロンドンとパリだが、1920年代「狂乱の時代」の真っただ中にいたパリの雰囲気を醸し出すために、当時人気だった写真家のブラッシャイやマン・レイの白黒写真にもヒントを得たという※3※4。
親しみやすい雰囲気の若き「ダンブルドア」

「若きダンブルドアの人間像について、ジュード・ロウには独自の解釈があった。彼が言うには、全校の生徒がダンブルドアのことが好きで、はみ出し者の生徒たちにとってもダンブルドアはメンター的な存在だったんじゃないか、と」※1
アトウッドはそんなロウの意見を参考に、『ハリポタ』シリーズのダンブルドアの衣装に、“親しみやすさ”を加えたという。
『ハリポタ』のダンブルドアのコスチュームの色調はパープルがメイン。だが、パープルを柔らかな色調のグレーに、生地もよりソフトな素材に変えた。ロンドンの霧のなかをダンブルドアが出現する場面で彼が羽織る、ブルーのコーデュロイで出来たコートと彼がホグワーツでまとうツイードのベストとパンツは、英国紳士のカジュアルファッションを体現している。この時代のイギリスでは、ゴルフ、乗馬、自転車、狩猟、旅行やスポーツなどが浸透し、スポーツウエアとしてコーデュロイやツイードが大流行していた。
より都会風に洗練された「ニュート」

ニュートと言えばブルーのオーバーコートがアイコンだが、今作のコートは前作のものと同じではない。まず、色味がブルーからグレーになり、生地も重厚なものになっている。これは、ホグワーツの魔法教科書となった「幻の動物とその生息地」をついに書き上げたニュートの精神的成長を反映させている。アトウッドは1作目の衣装からシワを取り除き、上質の素材を使うことによって都会的になった大人のニュートを演出したそうだ。
一方、若いニュートが着るホグワーツの制服は、中世ヨーロッパの聖歌隊が着用していたローブの丈を長くし、1920年代後半に流行していたアンクルブーツを合わせたもの。ローブのフードの裏地にはホグワーツの各寮の色を使い、遊び心をプラスしている。※1

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戦う女の鎧をまとった「ティナ」

当初、ケープとドレスをティナに着用させよう、と思っていたアトウッド。だが、闇祓いとして自信がついたティナには刑事っぽく見えるように、パンツを履かせることにした。そして、スリムで背が高いティナの魅力を最大限に引き出すためにトレンチコートを選んだという。※2
このトレンチコートは、ティナ演じるキャサリン・ウォーターストンとアトウッドが1920年代後半に描かれた、襟カラーが高いダッフルコートの絵を見つけたことから生まれた。ちょうどアメリカで珍しいネイビーブルーのレザー生地を仕入れていたアトウッドはこれを使い、あの印象的なロングのトレンチコートを作った。※3
彼女がトレンチコートをチョイスした事実は、被服文化的にも非常に興味深い。トレンチコートはもともと19世紀後半に“兵士”用に作られたもの。「トレンチ」とは「塹壕」を意味し、塹壕にいる兵士を厳しい天候から守るために発展した服である。“戦う”女性のアウターとして、闇祓いのティナにはぴったりだ。

「クイニー」を守る心の“殻”

クイニーを演じるアリソン・スドルとアトウッドは、ジェイコブと別れたクイニーは傷つき、ある種の“殻”をまとうようになった、と解釈した。そこでアリソンは、その“殻”を表現するために、“格子縞”をアトウッドに提案したという。運よく、アトウッドは1930年代に作られた格子縞の生地をベルリンで手に入れていたが、生地が不足していたので新しい生地に格子縞をプリントし、格子縞の美しいドレスを作り上げた。※3
その上にクイニーが羽織るコートはピーチがかった優しい色のブラウン。この色は前作の衣装の色調、ソフトピンクを受け継ぎ、クイニーの繊細で優しい心を描いている。
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