アルフォンソ・キュアロン監督『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』前後の作品解説 ─ 青春映画から半自伝作まで

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)の監督を務めたのは、『ゼロ・グラビティ』(2013)『ROMA/ローマ』(2018)などで知られる巨匠アルフォンソ・キュアロン。
元々、クリス・コロンバス監督の起用が予定されていた『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』だが、前監督の降板によりアルフォンソ・キュアロンが就任。スティーヴン・スピルバーグなど錚々たる監督が候補に挙がる中からの大抜擢だった。
本記事では、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の監督に起用されるきっかけとなった青春映画を含め、世界中の映画賞を総なめにした計4作品を厳選して紹介したい。

『天国の口、終りの楽園。』(2001)

ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞、アカデミー脚本賞に選出されるなど、数々の映画賞に輝き各国で絶賛を浴びた青春映画。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の監督に起用されたきっかけの作品であることにも注目だ。
高校を卒業したばかりの仲良し二人組の頭の中は、性欲を満たすことのみ。しかし、肝心の互いの恋人たちは旅行に出てしまった為、退屈な日々を過ごしていた。そんなある日、二人は親戚の結婚式で年上で美人な人妻と出会う。彼女を誘う為に「天国の口」という存在もしない海岸の作り話を持ち掛けるが、関心を持たれなかった。しかし数日後、夫の浮気が発覚して落ち込む彼女の方から、「天国の口」に連れていくように頼まれて、三人の果てしない旅が始まる……。
主役の二人組を演じたのは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)「ナルコス:メキシコ編」(2018-)などのディエゴ・ルナ、『ノー・エスケープ 自由への国境』(2015)『エマ、愛の罠』(2019)などのガエル・ガルシア・ベルナル。その他の共演者には、『パンズ・ラビリンス』(2006)のマリベル・ベルドゥなどが名を連ねている。
『トゥモロー・ワールド』(2006)

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の次回作としてアルフォンソ・キュアロン監督が手掛けた、作家P・D・ジェイムズによる小説『人類の子供たち』(早川書房)を原作にしたSF映画。斬新な映像演出や心揺さぶる長回しで圧倒的な状況下を描いたことが高く評価されて、ヴェネツィア国際映画祭などをはじめ世界中の映画祭で絶賛の嵐となった。監督の地位を不動のものにした衝撃作だ。
西暦2027年、世界から人類繁殖機能が喪失してしまい、地球は滅亡の危機に瀕していた。世界各国が内戦や反乱によって滅びていく中、唯一政府が機能していた英国でさえも、日々亡命者が相次ぎ治安が悪化してしまっていたのだ。未曾有の異常事態が続く中、人類の未来はおろか自分の将来にすら興味がなかったような一人の男が、人類を救う鍵を握る少女と出会い……。
主演を務めたのは、『シン・シティ』(2005)『ジェミニマン』(2019)などで知られるクライヴ・オーウェン。その他の出演者には、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン、キウェテル・イジョフォー、チャーリー・ハナムなど豪華俳優陣が集結した。撮影監督は、『ゼロ・グラビティ』(2013)『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015)にて、史上初の三年連続アカデミー撮影賞の快挙を成し遂げたエマニュエル・ルベツキだ。
『ゼロ・グラビティ』(2013)
ヴェネツィア国際映画祭のオープニングを飾り、アカデミー賞では最多7部門に輝いた極限のSF映画。本作はアルフォンソ・キュアロンが監督し、実の息子であるホナス・キュアロンと脚本を共同執筆した。CGが極端に排除されて製作されているにも拘わらず、言葉通り宇宙空間に吹き飛ばされたかのような、圧倒的な臨場感を観客に与えた渾身の一作だ。
“地球の上空60万メートル。音のない世界。気圧もなく、酸素もない”。ある日、博士と宇宙飛行士が共に宇宙で船外作業を行っていたところ、予期せぬ突発事故が発生して、宇宙空間に放り出されてしまう。宇宙船は破壊されて、他の乗組員は全員死亡。空気も残り僅かで、地球との交信手段も断たれてしまった。絶望的な状況の中、果たして二人は地球に無事生還することは出来るのか……。
博士役に『しあわせの隠れ場所』(2009)『オーシャンズ8』(2018)などのサンドラ・ブロック、宇宙飛行士役に『オーシャンズ』シリーズや『ファミリー・ツリー』(2011)などのジョージ・クルーニーが起用された。撮影は『トゥモロー・ワールド』に引き続き名匠エマニュエル・ルベツキだ。
『ROMA/ローマ』(2018)
アルフォンソ・キュアロンが脚本・監督・撮影・共同編集を務めて、幼少期の体験を交えながら、心揺さぶる家族の愛の物語を圧倒的な映像美で紡ぎ出した半自伝的なモノクロ映画。今までの作品と比べて派手さは一切ないが、抗うことのできない時代を繊細かつ感情豊かに映し出しており、水の音一つに至るまで細部まで計算され尽くした一作に仕上がっている。
1970年代初頭、メキシコシティ。医者の夫アントニオと妻ソフィア、4人の子どもと祖母が暮らす中産階級の家で家政婦として働く若い女性クレオは、子供たちの世話や家事に追われる日々を送っていた。そんな中、クレオは同僚の恋人の従兄弟であるフェルミンと恋に落ちる。一方、アントニオは長期の海外出張へ行くことになり……。
没入感のある音楽、俳優たちの見事な競演によって、アルフォンソ・キュアロンの記憶の世界に導かれるような質感を持つ本作は、自身を育てた女性に捧げる一作となった。また本作は、ベネチア国際映画祭で金獅子賞に輝き、アカデミー賞で外国語映画賞・監督賞・撮影賞の3部門で受賞を果たした。
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