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『グッドフェローズ』徹底解説、マーティン・スコセッシ不朽の名作 ─ ドキュメンタリー『グッドフェローズの伝説』と共に

2021年(第93回)アカデミー賞のシーズン到来にあわせて、ワーナー・ブラザースはアカデミー賞常連の巨匠クリント・イーストウッド、スタンリー・キューブリック、マーティン・スコセッシの映画製作の裏側に迫るドキュメンタリー映像を無料で配信している。いずれも、無料公開とはにわかに信じがたい、映画ファン必見の作品だ。

THE RIVERではこの3作のドキュメンタリーを連続で解説。第1回のクリント・イーストウッド、第2回のスタンリー・キューブリックに続けて、今回はマーティン・スコセッシに迫る『グッドフェローズの伝説』をご紹介する。

「傑作は一度見ても分からない。何度か見なきゃ本質までは理解できない」。リチャード・リンクレイター監督は、傑作『グッドフェローズ』(1990)をこう言い表す。「スコセッシの最高傑作だ!」

ワーナー・ブラザースが、名監督ドキュメンタリー<映画製作の舞台裏>「グッドフェローズの伝説」を公開している。巨匠マーティン・スコセッシが1990年に公開した、ロバート・デ・ニーロら名優揃いのマフィア映画『グッドフェローズ』を題材に、同作とスコセッシの偉大さを解き明かす作品だ。実は『グッドフェローズ』をまだ観たことがないという方にとっては最高の手引書であり、もちろん鑑賞済みだという方にとっても、何度目かの再鑑賞意欲を沸き立たせる、リッチなメイキング映像。これが無料公開されているのだから驚きだ。

『グッドフェローズ』徹底したリアルさのこだわり

© 1990 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『グッドフェローズ』では、ニューヨークを舞台に、マフィアの一員となったヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)が危険な世界で生きるドラマが描かれた。マフィア映画の最高傑作に数えられる本作だが、伝説的シリーズの完結作『ゴッドファーザー PART III』(1990)とは奇しくも同年公開されている。『ゴッドファーザー』がマフィアの世界を神格化していたのに対して、『グッドフェローズ』は徹底的なリアルさ、つまり街の無法者たちの卑怯さや残酷さを、ストリート・レベルで映し出している。

これには、マフィアが牛耳るイタリア移民社会で育ったスコセッシの出自が大きく影響していると、このドキュメンタリーは説明している。「美化されたマフィア像を覆したい」「引き金を引くことの意味を描くのが監督の目的だった」と、編集のセルマ・スクーンメイカーはスコセッシのねらいを代弁。「これがマフィアの現実。血も涙もない世界だ。恐ろしい」と慄いているのは、マフィアの親玉ポーリーを演じたポール・ソルヴィノだ。ジョン・ファヴローは「暴力の扱い方が独特だ。美化することなく、残酷さと悲惨さをありのままに描いている」と評している。

© 1990 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

「まるでドキュメンタリーだ」とジョー・カーナハン監督が称えるように、『グッドフェローズ』には、マフィアの恐ろしさや緊張感を生々しく描いた名シーンがいくつも存在する。そのひとつが、恋人カレンに乱暴をはたらいたという隣人の男に激昂した主人公ヘンリーが、怒りにまかせて男の頭部を殴りまくるシーンだ。ガンッ、ガンッという音が痛々しい。「これほど暴力的なシーンは撮ったことがない」と、撮影監督のミハエル・バルハウスは振り返る。「カットも特別な演出もない。暴力そのものを肌身に感じる」。

ヘンリーが「ワイズガイ」たちを紹介する序盤のナイトクラブのシークエンスでは、常識の通用しないマフィアの恐ろしさに背筋が凍る。テーブルを囲んで、ジョー・ペシ演じるトミーの笑い話にヘンリーたちが大笑いしていると、トミーは突然「何がおかしい?」「俺は間抜けだってのか?」とすごむ。笑い声はたちまち消散し、一同の顔はみるみる凍りついていく。

© 1990 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ここはアップではなくミディアム・ショットで、やや俯瞰気味に撮影されているが、編集のスクーンメイカーによれば、これには理由があるという。「一つは、このシーン自体に迫力があること。もう一つは周囲の人物を撮りたかったこと。恐怖で男たちの顔がこわばっていくのが分かる。笑い話が一転、空気が凍てつく。顔色が変わる様子は最高。監督はそう撮ると決めていた」。

結局のところ、トミーがすごんだのは、ヘンリーをからかった冗談だった。それに気付いた(というより、空気を和ませて押し切りたかった)ヘンリーは、少しの静寂の後に「よせよ トミー」と勘弁願う。緊張から解かれた一同の笑い声が響くが、実はここにはスコセッシや撮影クルーたちの笑い声も入っているそうだ。「どのくらい引っ張ってから”よせよ トミー”と言わせるか」については、スコセッシとスクーンメイカーで長い時間をかけて熟考したという。

スコセッシの技 随所に

© 1990 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

原作にはなかった要素を、スコセッシが名シーンに仕上げた例もある。まだ出会ったばかりのヘンリーとカレンが、人気のナイトクラブへ出かけるシーンだ。街のほうぼうに顔が利いたヘンリーは、駐車場で待つことなく係員に車を預け、行列にも構わず裏口からスイスイと通され、特等席を用意される。この背中を、カメラはワンカットで追う。「あのシーンがヘンリーの絶頂の時だ」(フランク・ダラボン)「テーマとストーリー、プロットと役柄、すべてが混ざり合い、ワンショットに凝縮されている」(ジョー・カーナハン)とフィルムメーカーからの支持を集めるこのシーンは、実は原作では数行触れられただけ。「それを基に監督が作り上げた。まさに、実話を芸術として開花させたシーンだろう」と原作・共同脚本のニコラス・ピレッジは感服している。このワンカット撮影は複雑で、「厨房にいる人の動作、テーブルが置かれるタイミング」にいたるまで、スコセッシは厳密にタイミングを指示したと、撮影監督のバルハウスは証言している。

ラストシークエンスでは、スコセッシの演出力がさらに冴え渡る。『グッドフェローズ』は、マフィアの堂々たる恐ろしさや豪遊ぶりを全編にわたって丹念に見せたはずなのに、ラストではヘンリーがついに薬物に手を出してしまっており、ヘリコプターに怯えたり、トマトソース作りに執着したりする。ハイになって、時間の感覚や物事の優先順位がおかしくなってしまった様子を、スコセッシは細切れにしたカットの連続で表現。編集段階になってはじめてひとつのシークエンスとして成立させたという離れ業である。スコセッシとスクーンメイカーはこのシーンを試写で確認し、「より速く、より執拗に」、「より無秩序にジャンプカットを入れた」そうだ。スコセッシ本人も「狂気だ」と振り返っている。

© 1990 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

スコセッシ作品の名物である、登場人物による「語り」も、本作では全編にわたって使用されている。これにはリスクもあって、「脚本のアラを補うための常套手段になりがち」(原作者ピレッジ)、「一歩間違えれば陳腐でダサくなる」(フランク・ダラボン)と、扱いが難しいもの。しかしスコセッシの手にかかれば、没入感を高める効果的な技として成立する。「彼(ヘンリー)の言葉づかいがクモの糸のように観客の心をとらえ、観客は彼に魅せられていく」(スコセッシ)。

また、あえて時系列を前後させた構成や、映像描写とコントラストを持たせた斬新な選曲も光る(続々と死体が見つかるシークエンスでの「いとしのレイラ」は秀逸だ)。こうしたスコセッシ流の作風に影響を受けたフィルムメーカーは数しれず。『グッドフェローズの伝説』後半では、数々の映画監督たちがその影響を語っているが、このパートのオリジナル公開当時(2004年)はまだキャリアも浅かった面々のその後の功績についても、ぜひ触れておきたい。

ジョー・カーナハンはバイオレンス・アクション『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』(2007)を送り出し、リチャード・リンクレイターは『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)で、ゴールデングローブ賞監督賞を獲得。アントワーン・フークアは『イコライザー』シリーズほか、数々のハードなアクション映画を手掛ける売れっ子監督になる。ジョン・ファヴローは『アイアンマン』シリーズののちディズニー作品の常連となり、今では『スター・ウォーズ』のドラマシリーズで大活躍している。

スコセッシが多くのフィルムメーカーたちにも影響を与え続けている理由は、その飽くなき探究心にもあるはずだ。原作者のニコラス・ピレッジは、『グッドフェローズ』封切りの日、スコセッシと隣席で鑑賞したことを振り返っている。「上映中、ヒジで私をつつき [中略]、編集の話を始めたので、私は言った。”もう終わったんだ。編集できないよ”。彼は劇場で見ても、まだ良くしたいと考える。”完ぺきだ”なんて彼は永遠に言わないだろう」。

イーストウッド編はこちら
キューブリック編はこちら
『グッドフェローズ』
デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

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THE RIVER編集部
THE RIVER編集部THE RIVER

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