【インタビュー】主演女優はインスタで発掘 ─ 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』監督、低予算映画の革命児

「僕の映画の撮り方は普通じゃない」──自身もはっきりと認める。おそらく、これほどに型破りな映画監督は他にいないのではないだろうか。
映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー。前作『タンジェリン』(2015)では、その全編をiPhoneカメラで撮影、さらに主演の2人をはじめほとんどの役を素人が演じるという型破りな手法で話題をさらった。
THE RIVERでは、来日したショーン・ベイカー監督へインタビューを敢行。世界中が大喝采をおくる今作の裏側を深く尋ねた。

メイン・キャストは演技素人
常識にまったく囚われないベイカーの唯一無二なセンスは、今作『フロリダ・プロジェクト』でも多いに生きている。タイトルの通り、舞台はフロリダ。「夢の国」ディズニー・ワールドのすぐ傍には、カラフルな外壁の安モーテルが並んでいる。かつては観光客のために建てられたものだったが、今ではホームレス家族の住処となっていた。そのうちの一軒、「マジック・キャッスル」で暮らす貧困層の若い母と娘が、しかしながらカラフルで冒険的に生きるドラマを描く。
スクリーンの中で、子どもたちは自由に走り回り、大暴れする。野性的なエネルギーと混沌溢れる撮影現場を、一体ベイカーはどのように取り仕切っていたのか。
子どもたちについては「みなお利口さんで素晴らしかった」と言うベーカーだが、自身が「チビッコ・ギャング」と形容する彼女らの集中力を維持するのに、意外なものが役立ったという。それは、本作の撮影に用いた35mmフィルムだった。デジタルではなくアナログのフィルムが実際に消費されていく様を見せ、「この音聞こえる?こうやってフィルムが使われてるんだよ。お金が燃えているようなものなんだよ」と示したのだという。
「それからもう1つ、早い段階で気付いたことがありまして。“撮影現場に砂糖はダメだ!”って(笑)。子どもたちが超元気になっちゃうから。実は劇中に登場するアイスクリームやグミも全てシュガーフリーなんです。」
「だから、ヘリが現れるタイミングを見計らって撮影していました。低予算映画のロケ撮影ではよくあることです。はじめは”災難だ”と思っていたことが、実は逆手に取って映画に使えたりする。ヘリコプターも同じことで、むしろ使ってやろうと決めたんです。」
大ベテラン、ウィレム・デフォーの参加
「昔ながらの、ハリウッド流のキャスティング方法でした。まず、エージェンシーに照会をかけるんです。年齢は35〜60歳くらいで、こういう条件の役者はいませんかと。そうすると候補者がズラリと出てきて、そこにウィレム・デフォーの名前があって気になったんです。何十年もハリウッドで活躍する大ベテランですし、彼で考えさせてもらいたいなと。偶然にもウィレムが僕の前作『タンジェリン』を気に入ってくださっていると聞いて、それではご一緒できないかなと思ったんですね。一緒にお茶してみて、色々お話して、それから進み始めたんです。」
ウィレムが演じるのは、舞台となるモーテルの管理人で、住人を見守る保護者的存在、ボビー役だ。ウィレムはこの役で、数々の映画賞にて助演男優賞を受賞している。ベイカーにとっても、ウィレムほどの大物と仕事を共にするのは初めての経験となったが、「彼ほどの役者となると、監督としての仕事は調整を行うくらいでした」とその実感を伝える。