【総力特集】FOXサーチライトを代表する2人の監督、ダニー・ボイルとウェス・アンダーソン ─ 設立25周年を祝して

『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)や『スリー・ビルボード』(2017)、『ブラック・スワン』(2010)…どれも賞レースを賑わせ、批評家や映画ファンからの評価が高い作品だが、何よりFOXサーチライト・ピクチャーズ配給作品という共通点がある。大手スタジオと違ってインディペンデント精神を貫くこの名門は、ダニー・ボイル、ウェス・アンダーソン、ギレルモ・デル・トロなど稀有なクリエイターにも光を当てる、作家性重視のこだわりのスタジオだ。良作の数々を続々と送り届けており、「最も勢いあるスタジオ」との呼び声高い。
そんなFOXサーチライトが、2019年で25周年を迎えた。これを記念してTHE RIVERでは、FOXサーチライトを代表する2名の監督をフィーチャー。ダニー・ボイルとウェス・アンダーソンに迫る。
ダニー・ボイル監督

FOXサーチライトを語る上で欠かせない映画監督、それが『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)でアカデミー賞の作品賞・監督賞など8部門に輝いたダニー・ボイルだ。FOXサーチライトの歴史上、最も多くの作品を手がけているフィルムメーカーである。
1956年生まれ、イギリス出身のボイルは、テレビの世界で活躍したのちにユアン・マクレガー主演『シャロウ・グレイブ』(1994)で映画監督デビュー。ユアンと再びタッグを組んだ『トレインスポッティング』(1996)は、アーヴィン・ウェルシュの小説を原作に、ドラッグ中毒の若者をスタイリッシュな映像で描いた出世作だ。同作は現在もマスターピースとして語られており、2017年には続編『T2 トレインスポッティング』も製作されている。

ボイルがFOXサーチライトと初めてタッグを組んだのは、ゾンビが全力疾走する描写で世界に衝撃を与えたSFホラー『28日後…』(2002)。その後、大金を手にした幼い兄弟の冒険を描いた『ミリオンズ』(2004)、真田広之やクリス・エヴァンスも出演した近未来SF『サンシャイン 2057』(2007)、前述の『スラムドッグ$ミリオネア』、登山家アーロン・リー・ラルストンの自伝を遭難サスペンスとして映画化した『127時間』(2010)、記憶と潜在意識をめぐるサイコスリラー『トランス』(2013)と、監督作品6本をFOXサーチライトにて連続発表した。映画作家としてのキャリアと作風が、この期間に熟成され、維持されてきたことがうかがえるだろう。同社の作品としては、ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017)でプロデューサーを務めてもいる。

残念ながら『トランス』以降、監督としてのボイルとFOXサーチライトのコラボレーションは実現していない。ボイル本人は精力的な活動を継続しており、『スティーブ・ジョブズ』(2015)で緊迫感あふれる自伝映画をアップデートしたほか、「もしも世界でビートルズを知っているのが自分ひとりになったら」という設定の最新作『Yesterday(原題)』も控えている。同作はボイル監督にとって『普通じゃない』(1997)以来のロマンティック・コメディだ。さて、FOXサーチライトとの再タッグが実現した暁には、どんな新作を送り出してくれるだろうか?
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『28日後…』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/28-days-later |
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『サンシャイン 2057』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/sunshine |
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『スラムドッグ$ミリオネア』発売中 価格:¥1,143(税抜) 発売・販売元:ギャガ © 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation |
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『127時間』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/127-hours |
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『トランス』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/trance |
ウェス・アンダーソン監督

ダニー・ボイル監督と並んでFOXサーチライト・ピクチャーズの看板監督と呼べるのがウェス・アンダーソンだ。代表作『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)ほか、『ダージリン急行』(2007)や『ファンタスティック Mr.FOX』(2009)、『犬ヶ島』(2018)がある。
しばしば「天才」と敬愛され、「独特の世界観」と言い表される唯一の無二の作風は、計算されつくされた色彩や、徹底的に左右対称に配列された統一的なショット構図、真正面や真横、真上、真後ろのアングルのみによる撮影など特有のこだわりから創られる。出演には豪華なキャストが「常連」として複数回登場することも知られ、例えばビル・マーレイやジェフ・ゴールドブラム、オーウェン・ウィルソン、エドワード・ノートンにティルダ・スウィントンといった面々がお馴染みだ。日本からは野村訓市との縁も深い。

日本で初めて劇場公開された作品は『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)で、FOXサーチライトとは『ダージリン急行』からの関係。これは、オーウェン・ウィルソンにエイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン演じる3兄弟がインドの旅を通じて絆を見つけていく物語だ。徹底した画作りとウィットに富んだ物語で批評家からの絶賛を受けた『グランドプタペスト・ホテル』(2014)ではその年のアカデミー賞を賑わせた。

2009年の『ファンタスティック Mr.FOX』ではストップモーション・アニメに挑戦、数々のアニメ映画賞を総なめにすると、2018年は『犬ヶ島』で世界を驚かせた。舞台は空想日本、映像から溢れ出る情報量がすさまじい。全ての犬が追放された極端な世界の中で、孤独な少年と主人を失った犬たちの冒険を描くストップモーション・アニメ。黒澤明や小津安二郎、宮崎駿など日本映画の巨匠たちにオマージュを捧げる本作では、『グランド・プタペスト・ホテル』で見た潔癖的な色彩美から、まるで50年代の日本の工業地帯のようなゴミとススにまみれた世界での冒険劇へ。ちなみにウェス・アンダーソン監督、色とりどりのキャラクターが揃う『セサミストリート』の中でも、ゴミ箱の中で暮らすオスカーが好きなのだとか。
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『ダージリン急行』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/the-darjeeling-limited |
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『ファンタスティック Mr.FOX』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/fantastic-mr-fox-jp |
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『グランド・ブダペスト・ホテル 』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/the-grand-budapest-hotel |
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『犬ヶ島』 デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中 発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン (C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. http://www.foxjapan.com/inugashima |
もちろん、FOXサーチライトには他にも注目すべき名監督がたくさん。たとえば、第90回アカデミー賞でみごと作品賞に輝いた『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督にも注目しておきたい。これをきっかけとして、FOXサーチライトはデル・トロ監督と包括契約を締結。今後の監督&制作作品の配給はもちろん、デル・トロ監修による独自レーベルも立ち上げるという。監督ならではのホラーやSFファンタジー作品が加わることになるから、ますます目が離せない。
才能あふれる映画監督が集まるのも、作家性を重視するFOXサーチライトならではだろう。次の25年も、引き続きこのスタジオが送り出す名作たちを追いかけていたい。
FOXサーチライト・ピクチャーズ 公式サイト:https://video.foxjapan.com/library/searchlight/