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【楽曲解説】『フリー・ガイ』の挿入歌、世界観や物語を彩る

フリー・ガイ
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ライアン・レイノルズ主演、ゲーム世界のモブキャラが世界を救うために立ち上がる『フリー・ガイ』が絶賛公開中だ。

本作では、予告編映像でも大々的にフィーチャーされているマライア・キャリー「ファンタジー」の他にも、注目の楽曲がたくさん。本作で起用された楽曲の数々を、音楽ジャーナリストの高橋芳朗氏に解説していただこう。

『フリー・ガイ』の音楽

映画『フリー・ガイ』の劇中では、トータルで十数曲の既発曲が挿入歌として使用されている。ネタバレに抵触するものもあるのですべてを明かすことはできないが、そのほとんどがストーリーのなかで明確な「意味」をもって流れてくる。

たとえば、主人公ガイがモロトフ・ガールの武器庫内を訪れた際にうっすらと聞こえてくるフレッド・アステア「チーク・トゥ・チーク」とフランキー・ヴァリ「君の瞳に恋してる」。どちらも恋の高揚感を「天国」と形容したラブソングだが(前者には「Heaven, I’m in heaven/天国にいるような気分だ」、後者には「You’d be like heaven to touch/まるで天国に触れているみたい」という一節がある)、これは現実離れした武器庫内の様子を天国に見立てていると共に、モロトフ・ガールにほのかな想いを抱く主人公ガイの心情を代弁したものでもある。

一方、映画オープニングでのAG「レジェンズ」をはじめ、ロジック「100 マイルズ・アンド・ランニング」やデジタル・アンダーグラウンド「ハンプティ・ダンス」など、ガイが生活するオンライン参加型アクション・ゲーム『フリー・シティ』では基本的にアップリフティングなヒップホップが流れているが、これは『フリー・シティ』のインスパイア源と思われるオープンワールド型ゲーム『グランド・セフト・オート』のサウンドトラックがヒップホップ主体であることに基づいているのだろう。

また、一介のモブキャラだったガイの「自我の目覚め」を体現しているのが、「思い通りに生きていくのはむずかしい。でも自分だけの歌を歌うんだ」と呼び掛けるママ・キャス「メイク・ユア・オウン・カインド・オブ・ミュージック」、そして「私たちの行く手を阻むものなんてなにもない」と高らかに主張するマクファデン&ホワイトヘッド「恋はノン・ストップ」の2曲。特にプロテストソングとして歌い継がれてきた後者がガイを含む『フリー・シティ』の人々を奮い立たせるシーンは、1960年代以降数々の民主運動が展開されてきた現実のアメリカ社会と見事にオーバーラップする。

そんななか、単なる挿入歌を超えて物語を読み解く重要な鍵として機能しているのがガイのお気に入りの曲、意中の相手に思いをめぐらせるマライア・キャリーの大ヒット曲「ファンタジー」だ。「空想」を意味する「ファンタジー」はそもそも仮想空間『フリー・シティ』のメタファーになっているわけだが、同時にこの曲はガイが新しい自分に生まれ変わろうと決意する大きな動機、モロトフ・ガールとの運命の出会いをロマンティックに演出する装置であり、ガイがモロトフ・ガールに寄せる恋心のシンボルでもある。

さらに付け加えるならば、ガイにとっての「ファンタジー」は彼が渇望する自由への賛歌ともいえる。時にアレンジを変えながら、ストーリーの進行と共に幾度となく登場してはさまざまな意味を帯びていく「ファンタジー」が最後の最後にどんなメッセージを放つことになるのか、その圧倒的な多幸感に満ちた大団円はぜひとも劇場で確認していただきたい。

「それはとても素敵な空想の世界/目を閉じれば連れて行ってくれる/終わることのない白昼夢の奥深くへ」(マライア・キャリー「ファンタジー」より)

『フリー・ガイ』は映画館だけで大ヒット上映中。

文:高橋芳朗/たかはしよしあき

東京都出身。音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティー/選曲家。著書は『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』『生活が踊る歌』『ライムスターのライブ哲学』『ラップ史入門』など。ラジオの出演/選曲はTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』『金曜ボイスログ』など。Amazonミュージック独占配信のポッドキャスト番組『高橋芳朗 & ジェーン・スー 生活が踊る歌』も配信中。

『フリー・ガイ オリジナル・サウンドトラック』 

  1. ファンタジー Performed by マライア・キャリー
  2. レジェンズ Performed by AG featuring デヴォン・テレル
  3. 100マイルズ・アンド・ランニング Performed by ロジック featuring ワーレイ&ジョン・リンダール
  4. ハンプティ・ダンス Performed by デジタル・アンダーグラウンド
  5. チーク・トゥ・チーク Performed by フレッド・アステア
  6. メイク・ユア・オウン・カインド・オブ・ミュージック Performed by ママ・キャス
  7. 君の瞳に恋してる Performed by フランキー・ヴァリ
  8. 恋はノン・ストップ Performed by マクファデン&ホワイトヘッド
  9. グレイテスト・アメリカン・ヒーローのテーマ Performed by ジョーイ・スキャベリー
  10. ドント・ハヴ・ア・グッド・デイ、ハヴ・ア・グレイト・デイ(スコア) Music by クリストフ・ベック
  11. イッツ・オール・ア・ライ(スコア) Music by クリストフ・ベック
  12. ミリー(スコア) Music by クリストフ・ベック
  13. ゴー・タイム(スコア) Music by クリストフ・ベック

2021年8月13日(金)よりCD / デジタルアルバム好評発売中(税込2,750円 / UICH-1015)。

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THE RIVER編集部THE RIVER

THE RIVER編集部スタッフが選りすぐりの情報をお届けします。お問い合わせは info@theriver.jp まで。

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