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米ジョージア州の中絶禁止法、施行ならディズニーとNetflixが州撤退の可能性 ─ スターやクリエイターから抗議の声、全米で一斉デモも

https://www.georgia.org/newsroom/press-releases/film-day-at-the-capitol-shines-a-spotlight-on-georgias-film-industry

2019年5月7日(現地時間)、米ジョージア州にて妊娠中絶手術の規制法案が成立した。これを受けて、ウォルト・ディズニー・カンパニーとNetflixというハリウッドの2大企業が、映画やテレビドラマなどの撮影をジョージア州から撤退する可能性を相次いで示唆している。

米国で広がる中絶規制法

ジョージア州で成立した中絶規制法案は、胎児の心音が認められた(妊娠約6週目)のち、人工中絶手術を規制するというもの(通称「ハートビート法案」)。手術を担当した医師が罰則の対象となる。妊娠約6週目の時点では多くの女性が妊娠の事実を自覚していないケースが多いことから、事実上の“中絶禁止法”とも語られる。法廷にて成立が覆らない場合、法案は2020年1月1日から施行される予定だ。

2018年から、米国ではアイオワ州やオハイオ州、アラバマ州、ケンタッキー州などで同様の中絶規制法案が相次いで成立してきた。いずれも「母親に危険がある場合を除く」などの例外はあるものの、レイプや近親相姦による望まない妊娠でも中絶を認めていない。法案の内容は州ごとに異なるが、たとえばアラバマ州の場合、手術を行った医師は最大99年の禁固刑となる可能性がある。

もとよりピューリタン(キリスト教プロテスタント)の多いアメリカにおいては、中絶をタブーとみなしてきた歴史があった。かつてはほぼ全ての州で中絶禁止法が施行されていた、その流れが大きく変わったのは1970~1973年の「ロー対ウェイド裁判」である。中絶を不当に規制する法は違憲であるとし、中絶を女性の権利として認める判決が連邦最高裁によって下されたのだ。現在の動きは、当時の判決を再び覆そうとするものである。なおドナルド・トランプ米大統領は、就任直後から中絶規制に賛成の立場を示してきた。

2019年5月30日現在、ジョージア州のほかに施行が予定されているのはオハイオ州(2019年7月1日)、ミズーリ州(8月28日)、アラバマ州(2019年11月16日)。一部の州では州裁判所が法案を無効にし、また連邦裁判所が審議を一時的に差し止めているケースもあるが、現に施行が間近に迫っている州も存在するのである。

ハリウッドやスターの動き

全米で広がっている中絶規制法の動きに対しては、「女性の基本的な権利を奪うものである」「法案は違憲である」として、5月21日(現地時間)に全米50州で抗議デモが一斉に行われた。また、ハリウッドで活躍する俳優や歌手なども折に触れて規制法案を批判。レディー・ガガやアリアナ・グランデ、ビリー・アイリッシュ、ウーピー・ゴールドバーグ、クリス・エヴァンスら多くのスターやセレブリティが、SNSやテレビ番組、取材などを通じてコメントを発表している。

なかでもハリウッドの動きは、多くの映画やテレビドラマが撮影されるジョージア州に集中した。中絶規制法の成立を受け、「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」(2017-)を手がけたリード・モラーノ監督は、米Amazon Studios製作の新作ドラマ「パワー(邦題未定、原題:Power)」を同州で撮影しないことを決定。ジョージア州で行われる予定だったロケハン(ロケ地の検討)をキャンセルし、米The Timeでは「ジョージア州に製作資金を落とす理由はない」と語っている。『ゴーストバスターズ』(2016)の女優クリステン・ウィグも、ジョージア州で予定されていた次回作の撮影を中止することを決定した。

さらに2019年5月28日、Netflixは自社のスタンスを米Varietyの取材にて明言。チーフ・コンテンツ・オフィサーのテッド・サランドス氏は、多くの女性従業員がジョージア州にて業務にあたっているとして、中絶規制法は「女性の権利を著しく制限」するものだと批判。アメリカ人権協会などとともに法廷で戦う姿勢を示し、法案に反対するフィルムメーカーを支援するとした。同社は「規制法が施行されない限りは撮影を継続するが、発効の場合はジョージア州への投資すべてを再検討する」としている。

5月30日には、ウォルト・ディズニー・カンパニーのボブ・アイガーCEOも、中絶規制法が施行された場合、ジョージア州での撮影継続は「非常に難しい」との見方を示した。米Reuterにて、アイガー氏は「我々のために仕事をしている多くの人々が、もう(ジョージア州では)働きたくないと思うでしょう。我々は彼らの思いを聞き入れなくてはいけません」とコメント。「慎重に様子を見ているところです。(法案施行の場合)どうすれば撮影の継続が実現できるのか、私にはわかりません」。

ジョージア州は映画やドラマの撮影誘致に積極的な姿勢を示しており、この取り組みによって多くの雇用や経済効果を創出してきた。2018年には455本のプロジェクトが撮影されており、ディズニーも『ブラックパンサー』(2018)や『アベンジャーズ/エンドゲーム』などを同州で制作している。

さて、ディズニーとNetflixという巨大企業からのメッセージは、ジョージア州での法案をめぐる動向になんらかの影響を生むことになるだろうか。むろん今回の動きは、映画・テレビ業界やジョージア州の問題にとどまらず、同じく中絶規制法案の施行が迫る3州や、一連の規制法案すべての議論に結びつくことが最も望ましいものだ。

Sources: Reuter, Variety, The Time

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。