【レビュー】『ゲット・アウト』アナタにはきっとこの映画を見破ることはできない

扱うテーマを慮れば不謹慎なのかもしれませんが、映画『ゲット・アウト』を一言で評するならば、「最高に笑えるホラー映画」でしょう。できることならば未見の方は事前情報を全く耳に入れることなく、すみやかに劇場へ足を運んでいただきたい。
悲しいかな同時期に上映されている大作映画たちとは異なり、公開期間はそんなに余裕たっぷりというわけではないであろう本作(本国での大ヒットにも関わらず一時は日本公開も危ぶまれました)、見逃すにはあまりに惜しい、ホラーという枠に留まらない一級のエンターテインメント作品です。ポスターやフライヤーのビジュアルからの「こんな感じの映画なんだろうな」という予想はかなりの確率で裏切られ、鑑賞後劇場を後にする際には「やるなあ」と賞賛のため息を漏らすことになるでしょう。

注意

この記事には、映画『ゲット・アウト』の軽微なネタバレが含まれています。

ニューヨークに暮らすアフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、ある週末に白人の彼女ローズの実家へ招待される。若干の不安とは裏腹に、過剰なまでの歓迎を受けるものの、黒人の使用人がいることに妙な違和感を覚える。その夜、庭を猛スピードで走り去る管理人と窓ガラスに映る自分の姿をじっと見つめる家政婦を目撃し、動揺するクリス。翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティに多くの友人が集まるが、何故か白人ばかりで気が滅入ってしまう。そんななか、どこか古風な黒人の若者を発見し、思わず携帯で撮影すると、フラッシュが焚かれた瞬間、彼は鼻から血を流しながら急に豹変し、「出ていけ!」と襲い掛かってくる。“何かがおかしい”と感じたクリスは、ローズと一緒に実家から出ようするが・・・
『ゲット・アウト』公式サイトより抜粋

「差別を扱った映画」の型を破る

かく言う筆者も、鑑賞前はこの『ゲット・アウト』について「人種差別がテーマの映画」「Rotten Tomatoesで異様な高評価」ぐらいにしか思っておらず、その高評価ゆえに「一応観ておくか」くらいの気分で劇場に足を運びました。
アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人への差別を扱った映画というと、古くは『アラバマ物語』(1962)とか、『ミシシッピーバーニング』(1988)、最近は『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)や『フルートベール駅で』(2013)などがすぐ思い出されます。この問題をテーマにした作品は枚挙に暇がなく、未だ顕在するアメリカ社会の(あるいは世界中の)根深い闇ということはさておき、そのどれもが白人の人種差別主義者と被差別者の対峙を描いたものであり、ある意味テンプレート的と言いましょうか、結局最後には「人種に優劣などない」ということが言いたいのであろうと、筆者でなくとも鑑賞する側は、ある程度型にはまった展開を無意識に想像するものだと思います。

ところがこの『ゲット・アウト』は「観客はそう読んでくる」ということを百も承知で、これを逆手にとる見事な脚本と演出が施されています。観客を裏切るその手口の鮮やかさ、この映画の真のテーマである「新しい人種差別」問題をサプライズ・ホラー&コメディというエンタ-テイメントとしてパッケージングした監督&製作陣の手腕には素直に脱帽するほかありません。

一筋縄ではいかないこの「クセモノ」映画の監督・脚本は、この作品が監督デビュー作となるジョーダン・ピール。『ゲット・アウト』での演出の冴えを目の当たりにして、これが長編デビュー作だとはとても信じられませんが、この処女作で5億円ほどの製作費に対して約37億円の興収という大ホームランをぶちかまし、一躍時の人となりました。
そもそも、このジョーダン・ピールという方はアメリカでは超有名なコメディアンで、2015年までケーブルテレビのチャンネル、コメディ・セントラルで人気コント番組「キー&ピール」のホストを務めていました。この「キー&ピール」という番組は撮影済みのシチュエーションコメディを流す、日本でいうところのコント番組で、アメリカでは物凄い人気を誇ったんですが、その人気の証左としてピールの相方であるキーガン-マイケル・キーは番組の人気コント「Anger Translator」のキャラクターとしてオバマ大統領と共演までしてしまっています。

 

キー&ピールのコントは、番組が終了した現在でもコメディセントラルの公式YouTubeチャンネルで多数鑑賞することができますが、それらのコントで多く題材にされているのはやはり人種問題。しかしその風刺の切り口は、単純な「白人VS黒人」という図式のものになっておらず、傑作『ゲット・アウト』へのルーツを確かに感じることができます。

上半期に公開された映画としては異例ですが、早くも来年(2018年)のオスカーの「台風の目」とも噂されている本作。ホラー映画がオスカーを取ったら歴史的事件ですが、そんなわけで洋画ファン、ホラー映画ファン、コメディ映画ファンを自負するのであれば、決して見逃してはいけない一本です。

映画『ゲット・アウト』は2017年10月27日より全国の映画館にて公開中。

© Universal Pictures

About the author

1977年生まれ。週刊少年ジャンプ脳のクリーチャー愛好家。玩具コレクター。エンドレスダイエッター。「意識低い系」の文章を信条としています。

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