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今さら聞けない「#MeToo」「Time’s Up」 ― 映画『ゲティ家の身代金』が激動の映画界を象徴している理由

ゲティ家の身代金
©2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画『エイリアン』(1979)や『グラディエーター』(2000)、『アメリカン・ギャングスター』(2007)、『オデッセイ』(2015)など長年にわたって活躍をつづけてきた巨匠リドリー・スコットの最新作、映画『ゲティ家の身代金』が2018年5月25日に公開される。

本作は、フォーチュン誌によって世界初の億万長者に認定された石油王ジャン・ポール・ゲティの孫が、1973年にローマで誘拐された事件を映画化したもの。当時史上最高額ともいわれた1,700万ドルの身代金を要求されるが、50億ドルの資産を持つゲティは支払いを拒否。事件の裏側には、誘拐犯とゲティの間で戦い続けた人質の母親、アビゲイル・ハリスがいた……。

実は本作には、現在のハリウッドの状況を象徴する“もう一つの顔”がある。2017年10月、アメリカの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題に端を発した「#MeToo」運動だ。この運動により、本来ジャン・ポール・ゲティを演じる予定だった俳優ケビン・スペイシーがセクハラを告発されて本作を降板することとなったのである。

「#MeToo」そして「Time’s Up」とは

「#Me Too」とは、女優アリッサ・ミラノの呼びかけにより、SNSを中心に広まったセクハラ告発運動。ハーヴェイ・ワインスタインが大勢の女優や従業員に性的嫌がらせや性暴力を繰り返していた報道をきっかけに、同様の被害を受けた人々に向けて「Me Too(私も)」と声をあげてほしいと発信したのである。

多くの著名人や一般市民が彼女の呼びかけに賛同したことで、これは世界的なセクハラ告発運動となった。アメリカでは映像メディアに対する有名俳優たちの告発が相次ぎ、長い間沈黙していた女性たちの告発は米映画業界を、さらには国境を超えて世界的なうねりとなったのである。
韓国では俳優のオ・ダルス氏が、セクハラ疑惑によって『神と共に-因と縁』を降板。これまで『オールド・ボーイ』(2003)や『大統領の理髪師』(2004)、『国際市場で逢いましょう』(2015)などに出演、公開予定映画も多数控えていた。当初はセクハラ疑惑を完全否定していたが、告発した被害者女性が顔出しで実名告白したところ、対応が一変。疑惑を認め謝罪文を発表した。

また「Time’s Up(もう、おしまい)」とは、女性への差別や不平等がまかり通っていた時代の「終わり」を告げるため、女優や脚本家、映画監督、プロデューサーなど約300人の映画関係者が開始したキャンペーンだ。
セクハラ問題だけでなく、有色人種やLGBT+の女性の平等な権利など、女性にまつわる様々な問題提起・解決を目指しており、メリル・ストリープやエマ・ストーンら多くの人々が賛同。これまでSNSアカウントを持っていなかったナタリー・ポートマンは、これを機にInstagramのアカウントを設立している。男性からの支援も見られ、第75回ゴールデン・グローブ賞授賞式では、女性は抗議の意思を示す黒いドレス、男性は黒いスーツを身に着けて臨んだ。

『ゲティ家の身代金』とケビン・スペイシー

「#MeToo」そして「Time’s Up」という一連の運動の発端となったワインスタイン氏と共に大きく取り上げられたのが、本作『ゲティ家の身代金』でジャン・ポール・ゲティを演じる予定だった俳優ケビン・スペイシーだ。ケビンは俳優アンソニー・ラップ氏から少年時代にセクハラを受けたとの告発を受けて人気ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(2013-)を降板、本作からも降板が決定したのである。

ケビンの降板決定時、本作『ゲティ家の身代金』はすでに完成しており、全米公開は1か月後に迫っていた。しかし2017年10月末にケビン・スペイシーのセクハラ疑惑が発覚したのち、11月上旬にはリドリー・スコットが本編の再撮影を決意。11月13日にはクリストファー・プラマーをピンチヒッターとして起用することが発表され、11月20日より再撮影がスタート、11月28日には撮影が終了している。僅か9日間という短い期間で再撮影を終えたのだ。
この9日間というスケジュールで、クリストファー・プラマーは1日18時間、22シーンをロンドンとローマにて撮影した。12月上旬には作品が完成し、予定通りの全米公開が実現。第75回ゴールデングローブ賞、第71回英国アカデミー賞、第90回アカデミー賞ノミネートを成し遂げ、クリストファー・プラマーの名演が一つの作品を救った結果となった。また、この短期間で作品に参加しアカデミー賞にノミネートというのは史上最短記録となる。

2017年から2018年にかけては、黒人や女性が主人公のヒーロー映画、トランスジェンダー映画などの躍進が数多く見られた。本作で主人公アビゲイル・ハリスを演じたミシェル・ウィリアムズは、ゴールデン・グローブ賞において、黒いドレスで「#Me Too」の創始者と揃って登場。ハリウッドをはじめとして世界の映画界が変化の兆しを見せたこと、図らずも本作がその象徴となったことを示したのだった。

映画『ゲティ家の身代金』は2018年5月25日より全国ロードショー

『ゲティ家の身代金』公式サイト:http://getty-ransom.jp/

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THE RIVER編集部THE RIVER

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