【レビュー】『ゴースト・イン・ザ・シェル』は普通に面白い!実写化で失われた「曖昧な情感」に迫る

それに対して『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、全体的にビジュアルがツルツルしていて小奇麗で、あまり生活感を感じませんでした。CGのデザインがツルツルしているせいで、ロケ地となった香港の街からSF的ガジェットが浮いているのです。
たとえば、ここに『ブレードランナー』(1982)のような汚れがあれば、また情感が変わったのかもしれません。『ブレードランナー』の舞台は近未来のロサンゼルスで、劇中にはシド・ミードがデザインした数々のSFガジェットが登場します。日本語で書かれた看板やネオンサインがきらめき、様々な人種が行き交うコスモポリタンな未来都市です。にも関わらず、そこにはファンタジー的な恍惚はありません。街は常に酸性雨が降り注ぎ、路上にはゴミが散らばり、遠くから聞こえるクラクションやサイレンの音が人々の確かな生活臭を匂わせています。これは『攻殻機動隊』と共通している点であり、また『ゴースト・イン・ザ・シェル』に欠けていた要素です。

『攻殻機動隊』だからこその不評?
『ゴースト・イン・ザ・シェル』は普通によくできた、普通に面白い映画です。原作への敬意も感じます。しかし、肝心な部分で原作とすれ違っている感じがする作品でもあります。
さんざん述べてきた通り、『ゴースト・イン・ザ・シェル』は『攻殻機動隊』に比べると色々な点がかなり単純化されています。それが必ずしも咎とは思いませんが、ひょっとしたらRotten Tomatoesで低得点をつけたユーザーたちはそこに不満を感じたのかもしれません。『攻殻機動隊』は北米から人気が逆輸入された作品ですので、「こんな単純な話は『攻殻機動隊』じゃない!」と思うオールドファンも少なからず存在するのでしょう。そう考えると、低評価は『攻殻機動隊』の看板に足を引っ張られた結果とも言えそうです。
ただし、これまたさんざん述べてきましたが、『攻殻機動隊』という看板は置いておき、『ゴースト・イン・ザ・シェル』という映画を単体で見ると、観て損のない普通に面白いSFエンターテインメントです。余談ですが、筆者はインディーズ映画の製作に携わっているため、映画の作り手たちには常に敬意で一杯です。日本製のネタを買い取り、ビッグバジェットで面白く仕上げてくれた関係者たちには「ありがとう」と言いたいです。
最後に、『攻殻機動隊』に思い入れのある方は、ぜひ本作を吹き替え版で観てください。1995年版『攻殻機動隊』でおなじみの声優陣が吹き替えを担当しています。ちなみに筆者は吹き替え版で観ました。
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