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キアヌ・リーブス、天使になる ─ 新作コメディ『グッド・フォーチュン』ピュアすぎ天使キアヌのどきどき人間界デビュー【レビュー】

Keanu Reeves as Gabriel and Sandra Oh as Martha in Good Fortune. Photo Credit: Eddy Chen

(カナダ・トロントから現地レポート)キアヌ・リーブスが天使役として登場する映画『グッド・フォーチュン(原題:Good Fortune)』が、2025年10月17日に北米で劇場公開を迎えた。アカデミー賞の前哨戦とも言われるトロント国際映画祭でワールドプレミア上映され、ここトロントでは公開前から大きな話題を呼んでいた作品だ。

スタンダップコメディアンとして知られるアジズ・アンサリの長編監督デビュー作。アクション俳優としてのイメージが強いリーブスが、「もっと人の人生を変えたい」と願うピュアな守護天使を好演している。共演にはセス・ローゲン、サンドラ・オーといった豪華俳優陣が名を連ねる。

アンサリ演じる元ドキュメンタリー編集者のアルジは、ギグワーカー(単発労働者)として日銭を稼ぎ、車中泊をするほど生活に困窮している。家具の組み立てや宅配、ホームセンターでのアルバイトなどで生計を立てている彼を、密かに見守っているのが守護天使のガブリエル(リーブス)だ。

ガブリエルには「もっと人を救いたい」という強い願いがあるが、彼に与えられた天使としての任務は「運転中にスマホを見ている人を助ける」といった些細なものだった。ある日、ガブリエルはアルジこそ救うべき“迷える魂”だと確信し、彼と富豪のベンチャーキャピタリスト、ジェフ(セス・ローゲン)の人生を入れ替えるという大胆な計画を実行。ガブリエルの狙いは、「幸せはお金で買えない」と証明することだった。

Aziz Ansari as Arj and Keanu Reeves as Gabriel in Good Fortune. Photo Credit: Eddy Chen

しかし、アルジは豪華な生活を満喫し、もはや元の暮らしに戻ることを拒否。計画は思わぬ方向へ転がり、ガブリエル自身も罰として人間としての生活を強いられることに。さらにジェフもギグワーカーとして働く羽目になる。

本作の最大の見どころは、なんといってもキアヌ・リーブスが演じる天使ガブリエルの“純粋さ”だ。人間になった彼が、初めてハンバーガーとチキンナゲットを口にする場面は、まさに「幸福そのもの」。何気ない瞬間の中にある喜びを全身で味わうその姿は微笑ましく、笑いを誘いながらも人生の素晴らしさを感じさせてくれる。

ちなみに監督のアンサリは、米Colliderのインタビューで、この名シーンが即興演技だったことを明かしている。「キアヌとセスが同じシーンに入った瞬間、まるで“キラーコンビ”のようでした。撮影が始まると、二人は即興で演技を始めたんです」と語っており、息の合った掛け合いは必見だ。そのほか、作中では、ピュアだったガブリエルが人間社会の荒波にもまれ、少しずつ俗世に染まっていく様子も描かれる。煙草を吸い、税金に文句を言うようになるガブリエルが、最後に見つける“人間界での幸せ”にもぜひ注目したい。

本作はまた、現代のギグエコノミーが生む格差社会の問題にも向き合っている。会社に縛られず自由に働ける一方で、社会保障のない不安定さに悩む姿を、富豪から一転してバイトに奔走するジェフと人間になったガブリエルを通して描き出す。それでも作品全体は重くならず、軽やかなコメディタッチ。観客を笑わせながらも「幸せって案外、すぐそばにあるのかも」と、人々に“救い”を与える、まさにリーブス演じる天使そのもののような映画に仕上がっている。

『グッド・フォーチュン』は北米で約3,000館という大規模公開を果たした。Box Office Mojoによると、週末興行収入は620万ドルと控えめなスタートだったが、Rotten Tomatoesでは批評家スコア77%、観客スコア80%と高い評価を得ている(現地時間10月20日現在)。「リーブスの飾り気のない天使を秘密兵器として、アンサリはこの映画をチャーミングな作品に仕上げた」といったレビューも寄せられ、リーブスの新たな一面を評価する声が多く見られる。

『グッド・フォーチュン』の日本公開日は未定となっている。

Writer

Ayaka SaitoAyaka Saito

カナダ・トロント在住の映画レポーター/コラムニスト。北米で感じ取れる「ポップカルチャーへの熱」をお届けします。好きなジャンル:ホラー、好きなヒーロー:DCブルービートル。

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