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【インタビュー】「ゲーム・オブ・スローンズ」製作総指揮デヴィッド・ベニオフ&D・B・ワイス ─ 歴史に残る傑作ドラマ、誕生から完結までの足跡

ゲーム・オブ・スローンズ 第八章

2019年5月、世界中を熱狂させたドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」が幕を閉じた。2011年4月に米国で放送が始まった本作は、まさに2010年代のテレビドラマを代表する一作。ハリウッドにおけるドラマの注目度が、映画と同等、あるいはそれ以上に高まるきっかけとなった一本だ。最終シーズンは、第71回(2019年)エミー賞で史上最多の32ノミネートを記録。ドラマ部門・作品賞に輝き、見事に有終の美を飾った。

このたび、記念すべき最終シーズン「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」のブルーレイ&DVDが2019年10月2日(水)にレンタル開始となる(12月4日には「最終章」コンプリート・ボックスなども発売)。そこでTHE RIVERでは、約10年間にわたり脚本・製作総指揮を務めてきたデヴィッド・ベニオフダニエル・ブレット・ワイス(D・B・ワイス)にインタビューを敢行。ドラマ史上に残る傑作シリーズはいかにして作られ、いかにして形になったのか。来日した2人が語ってくれた、そのすべてを余すところなくお届けしたい。

ゲーム・オブ・スローンズ
Game of Thrones © 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related service marks are the property of HomeBox Office, Inc. Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.

「GOT」の物語、キャラクターへの愛情

――ドラマ化をジョージ・R・R・マーティン(原作者)に依頼された時、その場で「ジョン・スノウの母親は誰だと思う?」と尋ねられたというお話は本当ですか?

デヴィッド:本当です。原作を読んで2人とも興奮していたので、映像化のお話は、どんな企画よりも緊張していました。許してもらえなければドラマにはできませんから。ロスのザ・パームというステーキハウスで初めてお会いして、ランチをご一緒しました。ダンは菜食主義者なので、僕とジョージの2人でステーキをいただいたんです。4時間のランチになってしまって、終わるころにはウエイターと僕たちしか(店に)いなかったですね。その時のことは絶対に忘れませんが、(ジョージが)たくわえたヒゲにちょっとバターを付けて、「ジョンの本当の母親は誰だと思う?」って(とモノマネをする)。ジョージのマネはダンの方が上手いんですよ(笑)。

(スノウの母親について)当時は原作でも答えが出ていませんでしたが、たまたま僕たちは前日にその話をして、ある仮説を立てていたんです。そしたら、その答えが正解だった。そのこともあって映像化を許してもらえたように思います。正解したからではなく、いかに僕らが原作に思い入れているかが伝わったのかなと。映画化のオファーもたくさんあったそうですが、「こうすれば2時間の映画にまとまります!」と言ったって、それだと(原作から)キャラクターも物語も95%カットすることになる。だけど、僕らはそんなことはしたくなくて。僕たちに経験が少ないことはジョージも分かっていて、不安もあったとは思いますが、僕らの情熱を信じてくれました。「クイズにも正解したし、まるっきりバカなわけじゃないだろう」って、僕たちに賭けてくれたんだと思います。

ゲーム・オブ・スローンズ 第八章
Photo: Helen Sloan/HBO

――ストーリーテラーとして、お二人が大切にされていることを教えてください。

デヴィッド:とにかく見ている人を飽きさせないこと。僕らが子どものころは、アメリカのテレビはNBC、CBS、ABCの3チャンネルしかなくて、見るものは『ファンタジー・アイランド』(※)くらいしかなかった。だから出来が良くない回でも見ていましたが、今はいつでも、どこでもすごい数の作品を見られますから、一度飽きられたら終わりです。

みなさんと同じように、僕たちもキャラクターに思い入れを持ちます。だから、それさえできれば、見ている方もキャラクターの旅路についてきてくださると思いました。しかし、だからこそつらい思いもすれば、それこそ(キャラクターが)死ぬこともあり、愛するキャラクターが恐ろしい行動に出ることもある。僕たちが本当に恵まれていたのは、73時間という長い時間をかけて登場人物をじっくりと、それも群像劇として描けたことです。セリフがない場面でも、役柄を大切に演じてくださるキャストの方々が、人物の内面を見事に表現してくださいました。僕たちが大切にしていたのは、キャラクターの進む道をきちんと追いかけること、彼らの内面に忠実であること。だから、時には怖いと思うこともありました。心から大切に思っているキャラクターなのに、こんな展開で大丈夫だろうかと。けれど、それは大切に思うからこそ見えるもので、その点は信じなきゃいけません。(展開に)ルールを作りすぎると、結局は破ることになる。ルールをあまり作らず、とにかくキャラクターを大切にしていたら、おのずと道のりが見えてきたように思います。

(※)1974~1984年に米国で放送されていたドラマシリーズ。人の願いを叶える不思議な島に、さまざまな旅人が訪れてくる物語が描かれた。

――大勢の登場人物が登場しますが、人物像を描き込みやすかったキャラクターや、逆に難しかったキャラクターはいらっしゃいますか。

ダン:ジョージの豊かな原作があるので、最初の数シーズンはそこに基づき、ストーリーもキャラクターもきっちりと描き込んでいます。ただし、キャスティングの過程でいろんな考えが出てきましたね。まさしくイメージ通りの方もいて、ロバート・バラシオン役のマーク・アディは原作から想像した通りでした。オーディションのテープをパソコンで見ただけでも完璧で、ルックスも声色もロバート王にピッタリ。同じくらいイメージ通りだったのは、ティリオン・ラニスター役のピーター・ディンクレイジやネッド・スターク役のショーン・ビーンです。

逆に原作のイメージ通りじゃなかったのは、たとえばサーセイ役のレナ・ヘディ。彼女は(サーセイと)人間としてもまるで違って、すごくユーモアにあふれているし、とてもダラッとした座り方をする(笑)。彼女の解釈でサーセイにはより人間らしさが加わったし、良い揺らぎが生まれ、ユーモアセンスも取り入れられていきました。それから多くの方に言われますが、リトルフィンガー役のエイダン・ギレンもそうです。彼も原作通りではありませんが、すごくミステリアスで、何を考えているのか分からないのが良かったですね。セリフを口にするたびキャラクターが膨らむのが面白かったので、原作のイメージに押し込めることなく、そのまま膨らませていきました。

ゲーム・オブ・スローンズ 第八章
レナ・ヘディ The Final Season. View exclusive photos from #GameofThrones Season 8. Photo: Helen Sloan/HBO

――登場人物が死ぬたび、心をえぐられる思いがしました。できることならもっと描きたかった、死なせたくなかったキャラクターはいらっしゃいますか。

デヴィッド:もちろんです。(キャラクターが死ぬことで)役者に会えなくなるのが寂しいんですよ。たとえばジェイソン・モモア(カール・ドロゴ役)とはすぐに親友になって――彼は世界に唯一の存在ですしね――仕事はすごく楽しかった。だけど、カール・ドロゴの物語はあそこで終わるべきだったから、それはしかたないんです。だけど会えなくなるのが寂しかったので、第二章にも夢のシーンという形で戻ってきてもらいました。僕たちがジェイソンに会いたかったからですよ。

シリーズを通して、どのキャラクターも、退場すべきタイミングで退場していったと思います。キャストと会えなくて寂しくなる経験は何度もありましたが、それは素晴らしいキャストに恵まれたから。テレビの世界でいろんな俳優と仕事をしている友人たちからは、大変な話もたくさん聞きますよ。(役者が)甘やかされているとか、気分屋すぎるとか。幸いにもこの番組では――ほんのわずかな例外を除いて――素晴らしい方々に恵まれました。一緒にいて楽しかったので、会えなくなるのは寂しかったですね。ジェイソンにせよ、ミシェル・フェアリー(キャトリン・スターク役)にせよ、リチャード・マッデン(ロブ・スターク役)にせよ、全員が同じです。

――最終章でティリオンが語る「物語の力」についての演説には、お二人の思いがそのまま現れているのでしょうか。

デヴィッド:ティリオンの演説について言えば、僕たち自身、「物語」というものが人々をひとつにしてくれると信じています。日本であれ、アメリカであれ、国がどうやって作られたのかという物語を私たちはお互いに綴り合い、語り合っていくもの。その物語が崩れ始める時は、国が非常に悪い状況にあるということで、物語にはそういうことが反映されるもの。ティリオンが語った言葉は、僕たち自身が信じていることですよ。

ゲーム・オブ・スローンズ 第八章
The Final Season. View exclusive photos from #GameofThrones Season 8. Photo: Helen Sloan/HBO

シリーズはいかに書かれ、いかに作られたか

――脚本の執筆作業は、実際にはどのようなものだったのでしょうか。シリーズの結末は、最初に思い描かれた通りの内容になりましたか?

ダン:まず各シーズンのストーリーラインを固めてから、エピソードごとに長い要約を執筆します。脚本家のチームを組み、(最終章では)ブライアン・コグマン、デイブ・ヒルと共同で作業をしました。誰がどのエピソードの要約を書くかという担当を決めて、僕たち2人の間で分担するときは、「あのエピソードの前半を書きたい」とか、野球のドラフトみたいな作業をします。そしてお互いの書いたものに、何度もリライトを重ねていくんです。最終的には、どこを誰かが書いたのかが分からなくなるくらい。もちろん最初からベストなものを書こうと努力しますが、全員で完成させるので、自分が書いたものにこだわっている暇はなく、いい意味でエゴも消えていきますね。とにかく良いものを、できるだけ迅速に書かなければいけません。

(シリーズの)基本的な展開はわりと早いうちから決まっていて、第二章、第三章のころには固まっていました、もちろんそれから先の道のりが長いので、製作が近づくにつれて詳細を決めていく感じで。それぞれのシーンが実際にどうなるかは、実際に脚本を書き始めてみないとわからない。だから、脚本を書きながらストーリーを作っていったところもあります。第四章、第五章、第六章と物語が進むにつれて、(結末は)細部まで見えるようになっていきましたね。

――若い出演者がどんどん成長していきましたが、そのことによって、当初考えていたストーリーを変更したところもおありですか?

ダン:「この子たちは永遠に子どもってわけじゃないんだな」とは、すごく早い段階で気づきました(笑)。特にスターク家の子どもたちを演じたソフィー(・ターナー、サンサ役)、アイザック(・ヘンプステッド=ライト、ブラン役)、メイジー(・ウィリアムズ、アリア役)なんてすごく小さかったのに、このあいだ、ソフィーの結婚式に行ってきたんですよ。もう身長が6フィートあるし、僕とそんなに変わらない。アイザックもとても背が伸びて……幸い、劇中では車椅子に乗っているので、そのことが分からなくて良かったですね。ですが、彼らの成長にあわせてストーリーを調整することはありませんでした。テレビの世界では、俳優の成長が役柄を追い抜いてしまい、ストーリーに合わなくなることもよくあるんですが。アリア役のメイジーも11歳でしたが、立派な女性になりました。でも、だからといって接し方を変えたわけでもありません。彼らが大人になったことは、みなさんにも受け入れてもらうほかないですね(笑)。

ゲーム・オブ・スローンズ
©2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO (R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

――メイキングやドキュメンタリーを見ていると、お二人は撮影現場によくいらっしゃったようですが、いつも作品のチェックをされていたのでしょうか?

ダン:撮影が始まる前のプリプロダクション(事前準備)から、撮影がすべて終わるまで、常に現場にいるようにしていました。何か質問があった時、すぐに即答できるようにしておきたかったんです。スタッフは全員ができるだけ良いものを作ろうとしていて、コスチュームや特殊メイクにしても「最高のゾンビを作るぞ!」という勢い。プロフェッショナルがすごい時間と労力を割いてくれるわけですが、そういう仕事をしながら全体に目を光らせるのは不可能です。だから全体像を見て、すべてがうまくまとまるかどうかを確かめるのは僕らの仕事だと思っていました。

だから、初めから「いつも現場にいます」と言っていたんですが、第二章を作り終えた後くらいに、どうやらそのやり方は普通じゃないらしいと分かって。周りから「なんで現場に来てるんだろう?」なんて言われていたらしいです(笑)。だけど、それでもやはり全体を見る人は必要だと思いました。そうでないと、全員が「これはどうなるのかな、あっちはどうなるんだろう」と想像しながら仕事をすることになってしまう。それぞれの要素がきちんと繋がるかを見届けることで、作品をベストなものにしたいと考えました。

――ドラゴンをデザインする上で特にこだわられたことを教えてください。

デヴィッド:ジョージ(原作者)がこだわっていたのは、2本脚に翼のデザインにすること。「4本脚なんてありえない、飛べないじゃないか」と言ってましたね。だから僕たちは、実際の生き物からもインスピレーションを得ようと決めていました。恐竜や鳥から影響を受けましたし、いろんなアート作品や映画、『ドラゴンスレイヤー』(ゲーム)なども参照して、僕たちが好きなドラゴンの良いとこ取りをしたという感じです。けれども、デザインに最も貢献してくれたのはVFXチーム。彼らがトカゲの皮膚や質感、動物の角などからインスピレーションを得て、それをデザインに取り入れてくれて、最終的なコンセプトが固まりました。

あと、非常に早い段階で、ドラゴンがデナーリスを爪で抱えて運んでいく展開は決めていたんです。あのビジュアルに繋げるため、第三章くらいから、ドラゴンが大人になるまでの成長過程をチームが作ってくれました。だから第七章と最終章のドラゴンは同じサイズですが、それまでは成長期なのですべて違いますよ。第三章を作っていた頃なんて、第七章のデザインはとんでもないネタバレになってしまいますから、(見せたら)すぐに破棄しなければいけなかったんですけどね(笑)。

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――今年は「ゲーム・オブ・スローンズ」が完結し、同じく約10年続いてきたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にも区切りが付けられました。2010年代は世界中の観客がとても長い物語に熱狂したともいえますが、お二人はこの現象をどのように捉えられていますか?

デヴィッド:それぞれに共通するのは、素晴らしい原作があることかなと思います。僕たちの場合は、ジョージ・R・R・マーティンの小説。マーベルの場合も、スタン・リーやジャック・カービーといった人々が作ってきた素晴らしいライブラリがありますよね。僕たちは2人ともコミックの大ファンで、子どもの頃は週末になるとコミックストアに行き、袋いっぱいにコミックとキャンディを詰めて帰って、おやつを食べながらコミックを読んで週末を過ごしていました。

だからこそ思うのは、それだけ潤沢なキャラクターがいるからこそ、ストーリーを作るために、キャラクターを自在に使えるのだということ。ジョージも、僕たちに最高のキャラクターをたくさん使わせてくれました。僕はMCU作品をすべて観ていないので知ったかぶりはできませんが、素晴らしい原作と世界観があり、見事に造形されたキャラクターがたくさんいるということが共通点だと思います。僕たちはジョージという天才のおかげで「ゲーム・オブ・スローンズ」を作ることができたし、またマーベルの方々は、ずっと昔から素晴らしい作品を作ってきた天才たち、ライターやアーティストたちのおかげで映画を作ることができているわけですよね。

「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」商品情報

「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」

ゲーム・オブ・スローンズ
Game of Thrones © 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related service marks are the property of HomeBox Office, Inc. Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.

2019年10月2日(水)ブルーレイ&DVD レンタル開始/12月4日(水)ブルーレイ&DVD 発売

■【初回限定生産】ゲーム・オブ・スローンズ 最終章 ブルーレイ コンプリート・ボックス ¥11,818 +税
■【初回限定生産】ゲーム・オブ・スローンズ 最終章 DVD コンプリート・ボックス ¥10,000 +税
■レンタル ブルーレイ&DVD Vol.1~5 ※Vol.1 のみ2話収録

「ゲーム・オブ・スローンズ」コンプリート・シリーズ

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Game of Thrones © 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related service marks are the property of HomeBox Office, Inc. Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.

2019年12月4日(水)ブルーレイ&DVD 発売

■【初回限定生産】ゲーム・オブ・スローンズ<第一章~最終章> ブルーレイ コンプリート・シリーズ ¥42,727+税
■【初回限定生産】ゲーム・オブ・スローンズ<第一章~最終章> DVD コンプリート・シリーズ ¥34,545+税

発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

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Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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