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【我が偏愛のSWクリーチャー2】特別編の悲しき殉教者、グリード氏享年44歳【先に撃ったのはハン・ソロ】

スターウオーズ旧三部作のファンの間で良く議題に上るテーマの中に、「特別編て何よ!グリード氏先に撃ったのはどっち問題」という事案がございます。「また、スターウオーズ問題か。いい加減にしろよ」と怒られそうで身の縮む思いですが、マニアの偏愛というものはこのように微に入り細に入り拘るもので、常人には度し難いものがあると、笑って読み流して頂けたら幸甚でございます。

今日、皆さんが、スターウォーズ旧三部作を生まれて初めて見てみようと思い立ち、TSUTAYAやゲオへ行ってレンタルしたり、AmazonでBlu-rayを購入したりして鑑賞が可能なものは、ほぼ100%、1997年に発表された『特別編』と呼ばれるもので、旧三部作の劇場公開時版に様々な改変が加えられた後のものです。劇場公開版をデジタルリマスター、フィルムのノイズをデジタル処理で除去するだけでなく、1970年代の不完全な合成部分を素材レベルまで遡って再合成を施したり、当時の予算では実現できなかった、少なかったモブキャラクターを増やしたり、いかにも被り物なクリーチャーをCGにするなど、「世界観を補強する」をテーマに大幅な手が加えられました。
また、素材の撮影はされていたが使われなかった場面の追加や、現在の社会通念とはそぐわなくなった場面の再編集などが行われています。

この『再編集』って奴が曲者でして、様々な改変ポイントの中で、最も論議を呼んだのが、賞金稼ぎグリード氏に関わる一連のシーンでした。まず、改変前、劇場公開時版ではどんな場面だったのか駆け足で説明します。

オリジナル版と特別編の比較動画

ハン・ソロ対グリード

場面はタトゥイーンのモスアイズリー宇宙港、銀河中のならず者が集うチャルマンの酒場で、ミレニアムファルコンの船長ハン・ソロは、新たなおいしい儲け話を持ち込まれます。これで、恐ろしいマフィア(ジャバ・ザ・ハット)に借りている金を返せると喜び勇みますが、時すでに遅し、ジャバに遣わされた賞金稼ぎグリードが、ブラスター銃を突きつけ即時の返済をハン・ソロに迫ります、まさに絶体絶命。

しかし、数多の修羅場をくぐってきたハン・ソロのほうが一枚上手でした。会話で時間を稼ぎ、背面の壁へさりげなく視線を誘導、グリードの死角でブラスターを構えると、一瞬の隙をついてグリードを射殺してしまいます。「散らかして悪いな」と何事もなかったかのように酒場を後にするハン・ソロ。

ところが、特別編では、この場面、グリードが先に発砲して、その弾丸は大きく外れ、応撃する形でハン・ソロが発砲、グリードに命中して正当防衛成立、というような編集をされてしまったのです。ジョージ・ルーカス監督はこの改変ポイントについて、この変更は必要だったとコメントしています。人道主義に配慮し、子供が見るものとしてふさわしいものにするためにと。みんなのヒーロー、ハン・ソロは冷酷な殺人者ではないのだからと。

おそらく90年代の世情を鑑みれば一理はあるルーカス監督の発言ですが、手法としてこの象徴的な一場面のみの取ってつけた再編集は、大きな問題があると思います。そもそも、シナリオ全体に対しての一場面が持つ意味というものは、その該当の一場面のみを修正すればOKというものではありません。映画を一棟の建造物に例えるなら、各場面は一個一個のレンガのようなもの。映画全体を通して考えないと、そのシーンがどのような意味を持っているかは分からないのです。

『特別編』で失われたハン・ソロのアウトロー感

では、改変される前のこの場面はどんな役割を果たしていたか、ここはハン・ソロのキャラクター紹介を担う場面です。
「切った張ったのヤクザな世界で生き抜いている男ハン・ソロ、腕ききを自称しているが、どうやら借金で窮地のようだ。気さくな人間に見えたが、邪魔者を冷酷に排除した。味方として信用に足る人物なのか。主人公ルークたちはこの男に身を委ねて大丈夫か。」こう伏線を張ったことにより、デススター内でのレイア姫救出を経て絆が生まれたように見えても、最終決戦を前に主人公たちを見捨てて立ち去ること。ところが、主人公たちが大ピンチに陥った瞬間に、去ったはずのハン・ソロが、騎兵隊のように戻ってくること。観客は、「あいつは最初から油断ならない自分本意な奴だ」から「イェー!信じてたぜ!」に誘導され、その意外性から感動したのです。

ところが、改変後だと、最初の「油断ならない男」の印象が薄まってしまいます。それだけでなく、グリードは1メートル足らずの距離から射撃の標的を外す間抜け、こんな間抜けが賞金稼ぎとして生きている世界のヌルさ、一方、ハン・ソロが助かったのは、グリードが「たまたま」射撃を外したおかげ。つまりハン・ソロも下手すりゃ簡単に死んでいたのんびりやさん、ってことになってしまうのです。
事程左様に、取ってつけたような改変は、世界観や積み上げられたシナリオロジックを壊してしまう恐れがあるということです。

グリード氏(享年44歳)の存在は、特別編のビフォアアフターの存在を常にマニアに意識させ、それ故に何か殉教者的な扱いを受けており、大きなつぶらな黒い瞳も相まって、ファンの間では隠れた人気があります。

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。