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アカデミー賞作品賞『グリーンブック』とはどんな映画か ─ あらすじ、レビュー、監督と出演者、受賞スピーチまとめ

グリーンブック
© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

混戦となった第91回(2019年)アカデミー賞は、一番の主要賞となる作品賞を『グリーンブック』が制した。日本では2019年3月1日(金)から公開となる本作、オスカー受賞をうけて俄然気になる方も多いだろう。この記事では、今年最も注目を集めるであろう一作『グリーンブック』について紹介しよう。

『グリーンブック』予告編映像

『グリーンブック』ざっくりあらすじ(ネタバレなし)

映画『グリーンブック』は、何もかもが正反対の2人の旅を描く実話モノ。バディ・ムービーやロード・ムービーの要素と魅力も持っている。

舞台は1962年のアメリカ。主人公のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)はナイトクラブの用心棒で、腕っぷしが強くてガサツな性格。クラブで起こるトラブルは拳一発で解決するタイプだ。加えて話術に優れ、どんな大物とも仲良くなってしまう。あまりの社交力に、”リップ”とのあだ名が付いた。

そんなトニーは、「ドクター」と呼ばれる人物の運転手を務めることになる。てっきり医者かと思いきや、劇場の高級マンションに暮らす孤高の黒人ピアニストのことだった。名はドクター・シャーリー。ゴージャスな住まいのドクター・シャーリーは玉座のような椅子に腰掛け、「黒人との仕事に抵抗はあるか」とトニーに問う。トニーは「ないね」と即答してみせるが、そんなことはなかった。当時の多くの白人のように、トニーも黒人に対して差別意識を持っていた。

ドクター・シャーリーの目的は、演奏ツアーに同行する優秀な運転手を見つけることだった。それも、黒人差別のより激しいアメリカ南部を目指すのだという。トニーの”どんなトラブルも解決する腕”が欲しかったドクター・シャーリーは、トニーの希望条件を全面的にのんで彼を雇う。こうして2人は一台の車に乗り込み、2ヶ月の旅に出ることになった。トニーには、黒人が宿泊できる宿が書かれたガイドブック、通称”グリーンブック”が渡される。

当時アメリカ南部には、黒人の行動を制限するジム・クロウ法と呼ばれる法律があった。黒人は、食事や宿泊、買い物をする場所、座ったり歩いたりする場所まで制限されていて、使用できる水飲み場やトイレも決められていた。さらに、南部のいくつかの町では、黒人が日没後に外出することさえ違法とされていた。

劇中では、ドクター・シャーリーが入店を断られたり、何も知らずに黒人お断りのバーに入ってしまい袋叩きに遭うといったトラブルが起こり、その度に腕自慢のトニーが解決していく。旅立つ前は自らも黒人への差別意識があったトニーも、次々と直面する理不尽な現実に「我慢ならない」といった様子を見せる。

グリーンブック
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トニーはドクター・シャーリーの天才的なピアノ演奏をひと目見るなり魅了され、妻への手紙に「あいつは天才だ」と書いてその才能を認めている。始めはウマが合わず沈黙ばかりだった車内だが、様々な出来事で互いを認め合うようになり、いつしか笑いの耐えない旅になっていく。

果たして、なぜドクター・シャーリーは危険な南部へ向かうのか。そしてトニーは、家族が待つニューヨークの家にクリスマス・イブまでに帰ることができるのか。2人の友情と勇気、美しくもエネルギッシュなピアノの演奏が起こした爽やかな感動とは。

グリーンブック
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『グリーンブック』の背景

実話作品とあって、トニー・リップとドクター・シャーリーは実在した人物。イタリア系アメリカ人のトニー・リップ(本名:フランク・アントニー・バレロンガ)は俳優としても活躍しており、デビュー作は『ゴッドファーザー』(1972)。HBOの人気シリーズ「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」(2001-2007)にも登場した。7年生(日本の中学1年生)までしか学校に通わなかったが、その話術とカリスマ性でフランク・シナトラなどの著名人や有名マフィアとも友達になった。

天才ピアニストとして知られたドクター・シャーリーは、ピアノの才能のほかにも8言語の習得や複数の博士号の取得などで「ドクター」と呼ばれた。1955年にアルバムデビュー。2人は『グリーンブック』で描かれる旅を通じて親友となり、晩年まで交友を続けた。

『グリーンブック』の製作・脚本は、トニー・リップの息子であるニック・バレロンガ。父からドクター・シャーリーとの旅の話を何度も聞かされて育ったというニックは、いつかこの旅の物語を映画にしたいと考えていたという。

『グリーンブック』レビュー

グリーンブック
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黒人差別という重くなりがちなテーマを扱ってはいるが、ピーター・ファレリー監督の手腕によって明るく、笑いも溢れる爽やかな映画。それでいて、人間愛を考えさせられる深みも備えた内容になっている。

トニー・リップとドクター・シャーリーの旅に同行する感覚が楽しい。広大なアメリカ大陸をあちこちに移動する大掛かりな旅であるため、車内でのシーンが多いものの、豊富なカットと、何よりもヴィゴとマハーシャラの息の合った演技で全く退屈しない。とにかくガサツで、「細かいことは気にしない」トニーと、潔癖な部分もありひたすら礼儀正しいドクター・シャーリーのバディ要素が愉快なので、「この2人をもっと観ていたい」という気にさえさせる。

観たあとにには心にじんわりと感動と歓びが残る作品で、年齢性別問わず誰にでもオススメしたい映画だ。

『グリーンブック』監督と、旅するふたり

ピーター・ファレリー監督

『グリーンブック』ピーター・ファレリー監督
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監督は『メリーに首ったけ』(1998)や『愛しのローズマリー』(2001)など、数々のラブコメ/コメディ映画で知られるピーター・ファレリー。これまでは弟のボビーと共に「ファレリー兄弟」としての仕事で知られていたが、ボビーの家族に不幸があったということで、本作は休んでいる。馬鹿馬鹿しくも愛らしいコメディを取り続けていたファレリーがオスカーに輝いたという点も感慨深い。

トニー・リップ役 ヴィゴ・モーテンセン

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主演は、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのアラゴルン役などスタイリッシュなイメージの強いヴィゴ・モーテンセン。本作では実在したトニー・リップに見た目を近づけるため14kgも増量。ヴィゴはデンマーク系であることから、イタリア系であるトニー役のオファーには当初困惑したという。「他にも素晴らしいイタリア系アメリカ人の役者は沢山あるのに、なぜ僕を選んでくれたのですか」とファレリー監督に尋ねたところ、「あなたならやってくれるという自信があるからだ」と答えられたという。この役では主演男優賞にもノミネートされていたが、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)のラミ・マレックが制した。

「この作品は、観てもらえればきっと大好きになってもらえるという自信があります。それに、もう1回観たくなる映画です。こういう作品はなかなかお目にかかれません。僕はよく、5年後、10年後にその映画がTV画面などで観られ続けているところを想像するのですが、この映画はまさにそういった、何年経ってもまた観たくなる作品です。」ヴィゴ・モーテンセンは米Colliderにこう語っている。

ドクター・シャーリー役 マハーシャラ・アリ

グリーンブック
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ドクター・シャーリーを演じるマハーシャラ・アリは、『ムーンライト』(2016)に引き続き本作で2度目のアカデミー助演男優賞を獲得した。差別の激しい時代にアメリカで生きる黒人でありながら、高級マンションで孤高の生活を送り、道中さまざまな差別に遭って己のアイデンティティが問われていく。

固く閉ざしたような顔つきが、トニーの人間性によってほぐれてゆき、ついに笑い出してしまう場面や、人種問題に押しつぶされそうになる苦悩の表情など、印象的な演技を数多く見せている。

『グリーンブック』アカデミー賞 受賞スピーチまとめ

作品賞:ピーター・ファレリー監督 受賞スピーチ

本作は愛情の物語です。いろんな違いがあっても愛し合うことです。我々は同じ人間です。ヴィゴ・モーテンセン。この受賞はヴィゴのおかげです。そしてマハーシャラ・アリ、そしてリンダ・カーデリーニのおかげです。

でも何よりもヴィゴからはじまったのです。そして関わってくれたみなさん(名前の羅列)に感謝です。

助演男優賞受賞:マハーシャラ・アリ 受賞スピーチ

アカデミーありがとう。

ドクター・シャーリーに感謝します。ドクター・シャーリーのエッセンスをとらえて自分の中にいれようとしました。それが彼の生きた証です。そしてパートナーのヴィゴ、ありがとう。ピーター・ファレリー監督、リーダーシップを発揮してくれ仕事をする空気をつくってくれました。大好きですオクタヴィア・スペンサー。クリス・バワーズにも感謝。

そして祖母に感謝したいと思います。これまでの人生、ずっと「うまくいかなくてもがんばりなさい」と、僕がポジティブに考えるようプッシュし続けてくれた。娘と妻と、そして映画に貢献してくれたすべての人に感謝します。

脚本賞受賞:受賞スピーチ

ブライアン・カーリー

脚本家として、俳優が目の前で自分の本を素晴らしく演じてくれることほど嬉しいことはありません。俳優たちに感謝します。

ピーター・ファレリー

“早く行きたいなら一人で、遠くに行きたいならみんなで”と言うけれど、本当にロードアイランド州民全員に感謝したいくらいです。ヴィゴとマハーシャラ、あなたたちなくしてこの賞は実現しませんでした。本当にありがとうございます!

ニック・バレロンガ

お互いを讃えあう場に立てています。お父さん、お母さんやったよ!

グリーンブック

見事オスカーに輝いた映画『グリーンブック』は、2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。さらに、ピーター・ファレリー監督の初来日も決定している。受賞後の来日、どんな喜びの言葉が語られるか楽しみだ。

第91回アカデミー賞 全結果はコチラ

『グリーンブック』公式サイト:https://gaga.ne.jp/greenbook/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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